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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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(しかし冷静に考えると、【ゲーム】に強制力がないにしろそれがベースと考えるのがいいのよね、現実だからって油断してちゃいけない)


 私の言葉や態度一つでプリメラさまがまた権力を振りかざす悪役に逆戻り……だなんてそんなのダメ! だめですよ!!

 天使過ぎるがゆえに私を心配してあんなことを言ったんでしょうが、やっぱり噂はだいぶ広まってるんだなあ……。


 いくらプリメラさまのお耳に入れないようにと私たちが気を付けてみたところで、増えた茶会や移動の途中、そういったところで面白おかしく話題にするご令嬢たちがいないとは言い切れないのが現実なのよね。


 とはいえ、どこでそんなことを耳になさったのか……。

 それとなくプリメラさまにお伺いしてみましたが、お答えいただけませんでした。うーん、まああの年頃の女の子ともなれば秘密も多くなってきますしね……。


 メイナやスカーレットにも聞いてみたり、セバスチャンさんとも相談してみましたが今一つ『これだ!』みたいな案は思いつきませんでした。

 そんなことをしている間にも時間は随分と経っていて、自分の執務室に戻るのがいつもより少しだけ遅くなったのですが……その執務室の前に、人が立っているのを見て私は思わず足を止めました。


「ユリアさま?」


「……クリストファ」


 どうやら私を待っていたらしいクリストファは、その手に小さな鉢植えを持っています。

 本当に、お花を持ってきてくれたんですね……!!

 

「もしかして、ずっと待っていたんですか?」


「うん」


「まあ……!!」


 いくら王城内がそれなりに暖かい環境にあるとはいえ、まだ春間近ということで夜は冷えこむことも少なくありません。

 クリストファはいつもと変わらない服装ですからこちらとしては見ているだけで寒いくらいで……ああ、なんで私は遅くなってしまったんでしょう!


「ごめんなさい、寒かったでしょう? 今ホットミルクを……」


「ううん。今日はこれを渡したら、もう、戻るから」


「でも……寒かったでしょう。ごめんなさいね」


「大丈夫。別に、寒くない」


 いつも通りの無表情ながらに小首を傾げるこの可愛さ。

 プリメラさまにはちょっぴりやきもちを焼かれてしまいましたが、頭を……頭を撫でたいィィ!!

 クリストファとプリメラさまを比べるとか、天秤にかけるとか、そんなやましいものは私にはございませんが、……なんていうんでしょうね?

 優劣つけがたいっていうか、どちらもこう……愛でたいんですよ!!


(だって可愛いんだもの……!!)


 とはいえ、そんな私の葛藤につき合わせてクリストファが風邪をひいてはいけません。

 差し出された小さな鉢を受け取れば、そこに植わった花はまだ蕾の状態でした。

 それでもうっすらと色づいたそれは、たくさんついていて……可愛らしいお花を咲かせてくれるに違いありません。


「ありがとう、この花は?」


「よくわからない。庭師の人に、聞いた」


「なんて?」


「……秘密」


「……じゃあ、お花の名前はわかりますか? お世話の仕方も変わりますから」


「バーベナって、言ってた」


「そうですか。ありがとうクリストファ!」


「嬉しい?」


「え?」


「ユリアさまは、嬉しい?」


 金色の目が、ただ私を見上げているのはとても不思議です。

 プリメラさまのように表情豊かにころころ変わるわけでもなく、その目線から感情がありありとわかるわけでもないのに、今のクリストファからは不安が感じ取れました。

 といっても、見た目的にはいつも通り無表情でしたし、その目も特別何かを訴えている……というわけではないんですが。

 私があんまりにもクリストファ可愛い! って思うから変なフィルターでもかかっているのかもしれませんね……。


「嬉しいです。クリストファが、私のために庭師の方にまで相談して手に入れてくれたのでしょう? その気持ちが、何よりも嬉しい。大切にしますね」


「……うん」


 私が答えた瞬間、本当に、本当に本当に僅かですけれど!

 クリストファが、はにかむように、笑ったのです!!


「その花、寒さに弱いんだって。日にもよく当ててほしいって庭師が言ってた」


「まあ、じゃあ部屋の中で日当たりが良い場所においてあげましょうね」


「小さい花が、咲くんだ」


「楽しみですね」


 バーベナと言われてようやくどんな花か思い出す私ですが、愛らしい小さな花が沢山咲いているのは春の風物詩。

 王城なのか、公爵家のなのかはわかりませんが庭師がお勧めするのもわかる可愛らしい花です。これが咲いたら、ぜひクリストファに見せてあげなければと決意を固める私を、いつもの表情に戻った彼がじっと見つめていました。


「ユリアさまみたいな花だと思う」


「え?」


「温かい色が咲くって、聞いた。薔薇みたいに目立つのじゃないけど、優しい花だって、庭師は言ってた」


「……そうですか」


「だから、ユリアさまみたい。あったかくて、優しい」


 クリストファは真っすぐに私を見てそんな風に言うものだから、なぜでしょう!

 アルダールに色々言われるのとは、また違った恥ずかしさがこみあげてきてこう……顔が赤くなるのを感じます。


 好意、尊敬、そんなものを照れも下心もまるでなく純粋な気持ちで告げられるこのこそばゆさ!


「……あの騎士の人や、胡散臭い人も頼りになるけど。何かあったら、言ってね」


「え、ええ……え? 騎士はアルダールのことよね? じゃあ、あの……胡散臭いって」


「ニコラス」


 きっぱりと言い切られて私は思わず笑いそうになりました。

 いやぁ、ニコラスさん……こんな子供にまで胡散臭いって思われてるよ……いや正直しょうがないのか? あの言動がいけないのか、それとも笑顔がいけないのか、芝居がかった仕草がいけないのか。

 ……全部かな。


「……クリストファ、目上の人をそんな風に言ってはいけませんよ?」


「はい。……他の人には言わない」


 でも、一応私も年長者としてちゃんと言わなくちゃね。

 いや私も胡散臭いって思ってるけど。すごく思ってるけど。

 それでもそんな私の内心を知ってか知らずか、クリストファは素直に頷いたかと思うとそんな風に続けるものだから思わず笑ってしまいました!


「それじゃ、行かなくちゃ」


「あ……ごめんなさい、引き留めてしまったわね」


「ううん。……また来てもいい?」


「ええ、勿論」


「いつでも、頼って、ね?」


「……ええ、勿論」


 可愛らしい私の騎士さま(・・・・)だなあ!

 そんな風にほっこりする私に、クリストファはちょっと不満そうでしたが何も言わずに去っていきました。


 その後ろ姿を見ると、やっぱり薄着じゃないかなあ、と思う私はすっかり彼の保護者気分なのかもしれません。

 心配だなあ、風邪ひかないかなあ!


 そう思いつつもクリストファの姿が見えなくなったので私も執務室に戻って今日の日誌を書こうと鉢植えを持ち直し、ドアノブに手をかけた所でちらりと視界に人の姿を捉えてそちらを向けばやや憮然とした表情を浮かべたニコラスさんの姿が!!


 ……今日はレアな表情を見る日、ってやつなのでしょうか?

 プリメラさまのやきもち顔とクリストファの笑顔は嬉しいですが、ニコラスさんの憮然としたそれはあんまり嬉しくないですけどね。


「……そんなに胡散臭いって言わなくても良いと思うんですけどねえ」


「あらいやだ、聞いていたんですか」


「ユリアさまも否定してくださらないし」


「あら」


 いやまあ否定できないし。

 そう思った私は悪くない。きっと。多分。


「何か御用ですか」


「ええ、まあ。少しお話をと思いまして……もしよろしければ、ですが」


 私の問いに気を取り直したのか、笑みを浮かべたニコラスさんは相変わらず糸目で何を考えているかわからないけれど綺麗な顔をしていました。


 でも、やっぱりその笑顔、胡散臭いですけどね!

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