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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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269 不器用にもほどがある。

今回は王弟殿下視点です。

「まったくまさかバウム伯の不器用さ(・・・・)がピンポイントでここにきてあのお嬢ちゃんと結びつくとは思わなかったぜ」


 顎髭を弄りながら、ユリアにこの件はオレから伝えておくといったものの、どうにも面倒でたまらない。

 バウム伯爵がまだ若かりし頃の失敗。

 世間ではそう言われているアルダールの出生だが、事実はもう少し面倒なものだ。


(それもこれも、息子を守るために泥を被ったわけだが)


 自分だけが被ればよいと真実を抱え込み、ようやく妻にだけそれを明かしたあの不器用な武人の性格がここにきて仇になる。

 いやそもそも、アルダールがひねくれていたことを考えれば元々他に方法があっただろうと思わずにはいられないわけだが……。


 ライラ・クレドリタス。

 その名前はうろ覚えだったがユリアが言うのだから多分そんな名前だったんだろう。

 

 オレからすれば誰が産んだかよりも、その経緯の方が問題だ。

 アルダールを産んだ女は、流行り病で夫と子供を亡くしたと聞く。

 その際に半狂乱になって、バウム伯となんやかんや(・・・・・・)あって一夜を共にし、正気に戻ってからは顔を青くしたという話だ。


 あのおっさんとその女の間にどんな感情があったかまでは知らないが、その一夜でデキちまったんだから男と女は難しい。

 ところが、だ。

 当時バウム伯は独身だった。今の夫人が婚約者に納まっている状態で、難しい案件を抱えていた伯爵はそれを終えるまでは結婚しないと明言していた。

 そこに来てこの事態に伯爵は頭を抱えて、それでも不器用な男なりに責任を取って女を愛人にすると言ったところ女がとんでもない! と自殺しかけた、という話を聞いた。

 バウムのおっさんの子を身籠ったことですら喜びよりも罪の意識を感じていたらしい女は、正気を取り戻したのではなくより病んだだけだったんじゃないのかとオレは思う。


(まあ、昔の話だからな)


 オレだって人伝いに聞いたことと、バウムのおっさんがアルダールを近衛隊に入れる時にそういった理由で、という最低限の説明を聞いただけだからな。

 まああのおっさんのことだ、今回のことを聞いても息子に話すかどうか怪しいもんだが……知らない方が幸せなこともあるっていうのは確かだが、隠し通せるもんでもねえと思うんだよなあ、ここまできたら。


(身重で自殺すらしかねない女だったから、アルダールを生まれてすぐにバウム家の長子として認めることで女の手に届かないものにしたまでは良かった)


 バウム家という存在を特別視する女からすれば、その『長子』に納まった我が子に手出しはできないだろう。箝口令(かんこうれい)をしいてその事実を述べ、バウム家に小さな問題が起こったことをおっさんは馬鹿正直に国王(あにうえ)に謝罪したらしい。

 これは兄上から直接聞いたことだから間違いない。

 あのおっさんは清廉潔白すぎるから、お前が気を付けてやれって言われた時のオレの気持ちも考えてほしいもんだぜ!


 まあそれはそれとして、バウムのおっさんとしてはそれでアルダールを守りつつ、女の精神が回復するのを期待したわけだが……。

 もし回復したならば、息子と女を領地内のどこかで穏やかに暮らさせるつもりだったんだろう。その後の面倒まで絶対にみたはずだ。


 まあ、結果は残念だったけどな。

 アルダールを拒否し続けた女の気持ちとやらは知らないが、とにかくそれらの事実は子供を傷つけるからとバウム伯が色々と残念な男、という噂を否定せずに受け入れた。

 今のバウム夫人は最初から知っていたからこそ、受け入れる覚悟も全く違ったんだろうさ。

 

 そのままを話さないのは優しさか? そこはオレの判断すべきところじゃないだろう。

 だがアルダールはどうやら幼少期にそれなりにやんちゃだったようだし、なんだかんだユリアがいて今上手くいっていたんだからそれでいいっちゃいいんだろう。不本意だが。


 アルダールが騎士隊経由ではなく社交界デビューを果たして即近衛隊に入ったのも、アルダールを思う親心と剣聖候補とまで呼ばれる実力者を逃したくない王家の利害の一致だ。

 そんなものに可愛い妹分を巻き込みたくはなかったが、まあアイツも妙な男に好かれる星の下にでも生まれたんだとそこは諦めてもらおうか。


(まあ、なんだかんだ上手くやっているようだし)


 結局のところ、バウムのおっさんにしろそのアルダールの生母にしろ、その本音や気持ちってのは本人しかわからない。

 周囲があれこれ言ったって結局今は今なんだしな。


 それよりも、そんな状況を詳しく知っているとは思えないにしろ、まったくもって無関係だったはずの冒険者の娘が語ったってのが大問題だ。

 ユリアがあのお嬢ちゃんを陥れたくて貴族たちの噂をあのミュリエッタが言ったことにした……という方がしっくりくるくらい不自然だ。

 

 だが、ユリアがそういうことをする女じゃないのはオレが知っていることだし、そういった陰湿なことをしている報告もない。むしろ心配するそぶりがあったというから困ったもんだ。

 アイツ、どこまでお人好しなんだとあきれるくらいだが……。

 しかし、それなら本当にあのお嬢ちゃんがどこかでその情報を知り、口走ったということになるわけで……。


「手荒なことはしたくないんだがなア……」


 人が知られたくないことを口にすれば、それ相応の仕置きが待っている。

 それくらいはわかっているんだろうが……わかっているんだろうか?

 今の所出る杭は打たれるんだということを教えているつもりだったが、それから逃げ出したくてとんでもない行動を起こしてこちらが匙を投げることでも待っているんだろうか?


「ま、とりあえずは矯正か」


 もう少し、自由を与えるつもりだった。

 まだ子供だし、貴族になりたてなのだから。


 そう優しく見てもらえるのは、最初だけだと誰か教えてやっただろうか。

 オレには覚えがないことだし、そんな親切にしてやる理由もないからしないが。


(閉じ込めて従順になるまで教え込んだらいいと最初に言ったのは誰だっけな)


 言った人間によってはその意味合いがだいぶ異なるのが恐ろしい。

 それでも結局似たようなことに収めるつもりの自分も同類なのだろうかとふと思ってオレは苦笑する。


「誰かいるか」


「はい、なんでしょう?」


 しれっと秘書官が顔を出す。

 こいつ、絶対いたよな? そう思うがそこは口に出すだけ野暮ってもんだ。


「例のお嬢ちゃん、学園の寮にぶっこめ。折角の神童が入学するんだ、付きっきりで教育するやつとお目付け役も揃えてやれよ」


「かしこまりました」


「それからバウム伯に時間をとるように連絡しとけ。オレは今から兄上のところに行く」


 オレの指示を手元の紙にメモを取る動きは、淀みない。

 まるでそうすると知っていたかのようだとも思うが、流石にそれはあり得ないからただ単に仕事に真面目なんだろうと結論付ける。

 

 ああ、オレはこんなにも真面目に仕事に取り組んでるってーのにどうして誰も評価してくれないんだろうな?

 ま、表立って褒めてくれ!! って訴える程ガキでもないから問題ないんだが。


(……その分書類を減らしてくれりゃ言うことねえんだがな)


 まあその要望を口に出したところでこの秘書官が冗談を返してくれるとは思えないし、オレとしては冗談を言ったつもりもなくほぼほぼ本気なんだが。

 それが叶わない話だって知っているからわざわざ口に出さないだけだ。


「国王陛下のご予定を確認しなくてもよろしいので?」


「だめなら出直すさ」


 肩を竦めてわざとらしい態度をとれば、秘書官は「さようですか」と眉一つ動かさずにオレに答えてお辞儀をした。まったく可愛げがねえったら……いやジジイに可愛げがあっても気色悪いか。

全体的には詳しく知らない王弟殿下。

それでもバウム伯ったら……(´・ω・`)

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