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ひたすら甘い回です°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°お覚悟!
甘やかすっていうのがつい年下の、子供相手にやるようなことしか思いつかなかったこの失態、どう取り戻したらいいですかね……!!
とりあえず恥ずかしくて身動きが取れない私をアルダールが笑いながら抱き寄せるとかもうなんだろう、いつものパターンなのかこれ。いや待って私こんな失敗そんなにしてないから。
「ユリアは私のそばにいてくれればいい」
「そっ、れじゃ、私、役立たずみたいじゃないですか」
「そばにいて、私にこうして甘やかされてくれればいいんだ」
ぎゅぅっと抱きしめられてそんな風に言われるとまた恥ずかしいんですけどね!
でも私もアルダールになにかしてあげたいんですよ、そりゃ彼のためにタルトのレパートリー増やそうかなとかお酒を使ったお茶を用意できるようにしようとかそういうところは気を付けていますけど。
そういうんじゃなくて……まあ具体的にどうだと問われるとちょっと思いつかないわけですが。
「アルダール、私は……」
「いいからいいから」
わざと私の抗議を遮って、アルダールが額にキスを落とす。
それに思わず肩が揺れたけど、……びっくりしただけで別にいやじゃない。
アルダールもそれをわかってるんだろう。
続けて私の瞼に、頬にとキスを繰り返す。それがくすぐったくて思わず笑えば彼も笑った。
「ようやく笑った」
「え?」
「私と会ってから随分と難しい顔ばかりしていたからね。一緒にいてほっとできると笑ってくれた顔も疲れていたから、心配になったんだ」
「……ごめんなさい」
そんなに酷い顔してたんだ!?
いやまあ、うん……頭の中ぐっちゃぐっちゃだったからなあ。
でもクレドリタス夫人が云々は今のアルダールは大丈夫って思えたし、バウム伯爵夫人の『生まれてくる腹を間違えた』っていう男前発言もあるし、きっと問題は起こらない。
多少はダメージがあるけど、アルダールとクレドリタス夫人が会わないようにってみんなが気を使っていたのだって守ろうとする気持ちなんだろうと思うし。
「アルダール」
「ユリア?」
アルダールは大丈夫。彼の家族は、彼を大切にしてくれているから。
でも私もいるんだって主張したくて、抱き着いた。
……恥ずかしいな!?
いやいやこれは今離れると、逆にとんでもなく恥ずかしくなって何も言えなくなっちゃうパターンですよ……!!
アルダールに何か言われる前によりぎゅっと抱き着いて、そうですよ顔が見えない今がチャンスなんです。言いたいことは言わなくちゃ。
だって、私はアルダールの恋人なんだから。
私は甘えてばかりで、できることなんて大したことない。
いやうん、ちょっと過小評価すぎたかな。
一応お菓子も作れるし商会会頭とかとも顔見知りだしそれなりにパイプを持っている侍女でした。
個人としては本当に、美味しいお茶を淹れることができるくらいです。
でも、私はアルダールが、寛げる『場所』になりたい。
「いつも、ありがとう。……私にできることは、少ないですけど。でも……疲れた時は、いつでもお茶を淹れたり、話を聞いたり、する」
「……私のためだけに?」
「アルダールのために」
私のお茶はプリメラさまがお認めになるくらい美味しいんだから、なんて冗談めいた言葉も出てこない。
こんなことしかできない自分が情けないけれど、それでも伝わればいいと、思った。
いやもうなんかかっこ悪いことこの上ないんですが、羞恥とか動悸とか激しくて若干声が震えたり掠れたりしました。
「顔が見えない」
「見えなくていいんです!」
恥ずかしいですがまだ顔の赤みが引かないから悔しくてぎゅぅぎゅぅ抱き着いてあげました! 拗らせ女の愛情、受け取るがいい!!
……自分で言ってて情けないわ。
「でもこれじゃキスできない」
そう言われた途端べりっと音がしそうな感じで私の抱擁が剥がされて、文句を言う間もなくアルダールが顔を寄せてきました。
思わず「ひぇっ」と情けない声が出そうになりましたがそこはぐっと耐えましたよ、耐えきりましたとも。
どことなく拗ねた顔をしたアルダールがいると思ったら、軽く触れるだけのキスをされて眼鏡を外されました。思わずそれを視線で追う間にまたキスされて。
でもすぐ離れたなと思うとまた、の繰り返し。
(酸欠になる!!)
色気もへったくれもないって?
いやいや、呼吸は合間にしているはずなんですがなんかいつもみたいにぐわーって流されるのと違って意識がはっきりしているのに酸欠でぼんやりとしてくるっていうか、そんな感じです。
ほかに説明ができない。
酸欠でぐったりする私を支えるアルダールはまあお察しの通りまったく問題ないんですよね。これも騎士と侍女の体力差なのか……?
「大丈夫?」
「誰の、せいですか……!」
「私の、だね」
くすくす笑うアルダールが、申し訳なさそうにしつつ嬉しそう。
そんな顔を見たら文句なんて出るはずもない。
嬉しそうな彼を見て、私だって嬉しいんだからもうこれは……ほら、よく言うでしょう。惚れた方が負けなんだって。
「……私を、甘やかしたい、んです、よね?」
ちょっとだけ、ためらいながら問えばアルダールが無言で私の頬を撫でる。
その仕草が酷く甘くて、私はまるでお酒に酔った時みたいに息を吐き出すしかできなくて。しかもそれがちょっと熱を帯びているみたいで、自分の身体じゃないみたいだった。
でも、うん。
ほら。
甘やかすのが楽しい、っていうならたまには、いいんじゃないかなって。
趣旨が変わってる? そうかもしれない。
「じゃあ、……キス、して、ください」
いつもより大胆になったのは、酸欠で頭が回らないせいなんだ。
だからいつもは躊躇って言えないことだって、するっと口から出ちゃうんだ。
私の言葉に、アルダールが少しだけびっくりした顔をしている。
それがなんだか可愛くて、思わず笑ってしまうとすぐに抱きすくめられて何も考えられなくなってしまったわけですが……まあ、私が望んだことですからね!
「……アルダールって、キスが、好きですよね」
合間にぽつりとそう言えば彼は首を傾げる。
すっかりお茶が冷めちゃったなあなんて思いながら、なんとなく唇腫れてないかなと指を這わせてアルダールを見れば私の方をじっと見ていて。
ああ、なんでそんなことを言ったのか続きを待っているんだと私は言葉を続けました。
「え、だってすぐ二人きりになるとキスするじゃないですか」
「そりゃまあ」
「だからアルダールは、キスが好きなんだと思って」
「私が好きだっていうより、ユリアは私のキスが好きだろう?」
にっこり笑って言われて私は思わず息を呑みました。
じわじわと赤くなる顔に、隠せないこの状況!
「お、お見通し、なんですね?」
恥ずかしいなあ! バレてただなんて。
いや、いつもされてばっかりだからアルダールがキス好きなんだろうなあって思ったのは確かなんですが……私だってアルダールとキスするのは、いやじゃないっていうか、そりゃ嬉しいっていうか。
でもそれを相手に知られているっていうのはまた別の恥ずかしさですよね、ああもうそりゃさっきもキスしてって言っちゃったしバレるか!
思わず両頬を手で冷やすようにしましたが、アルダールの方を見ることができません。
「アルダール?」
でも私の言葉に笑うでもなく無言のままな彼に、ちらりと視線を向けるとなぜか無表情でした。えっなにコワ。
「ご、ごめんなさい?」
はしたないって思われたのか思わず謝ってみましたが、微動だにしません。
ああどうしよう、泣きたくなってきた!
慌ててどう謝罪しようかと思う私に、アルダールが無言でキスしてきました。
触れるだけの、長いものでした。
「謝らないで。……もうちょっと、キスしてよう?」
甘ったるい声で、囁かれれば。
勿論いやだなんて言えるわけ、ありませんよね。
……なんにもお話しできてないんだけど、これはこれで、恋人同士としては、アリ……かな……?




