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25 噂と結局いつもの光景

前半/第三者視点

後半/いつもの主人公視点


となっております。主人公と周囲とのギャップが生じているのを感じていただけたら幸いです。

 王宮は外宮・内宮・後宮・離宮・王女宮・王子宮と様々に区画が分かれていて、それぞれに担当の使用人が数多存在する。

 その中でまだ見習いに過ぎない少女が外宮の掃除を指示されて慣れないながらに必死にやっていると、同じころに見習いになった少女が彼女を肘でつついて注意を促した。


「どうしたの?」


「ほら、あれ! あれよあれ!! ひっつめ髪の、眼鏡の人。あれが有名な“鉄壁侍女”ユリア・フォン・ファンディッドさまよ、王女殿下の筆頭侍女の」


「えっ、噂の?!」


 少女たちは下級貴族の娘でした。

 上級貴族の子女と交じって行儀見習いに来たものの、雑用は下級の出がすることという暗黙の了解の元、掃除に精を出していたのです。

 そんな彼女たちにとって“鉄壁侍女”という噂は見習いに入る前からちらほらと耳にしていたものでした。


 曰く。

 出自は子爵と低いものの、才能豊かで王太后に気に入られて王女殿下の筆頭侍女となった。

 自分がお仕えする王女殿下以外には敬意を払わない。王弟殿下の呼び出しも断った。

 どのような無理難題でもこなしてしまう才女であり、宰相閣下の信も厚い。

 国王陛下も一侍女ながらその働きを認め称えている。


 などなど。


 この日も有名なリジル商会の会頭を連れて歩く様は、世界でも有数の商人の前を歩いているというのにさも自分が案内して当然だと言わんばかりに冷静な雰囲気だ。

 爵位ある貴族でさえリジル商会の会頭と言えばご機嫌取りににこにこと揉み手をして話しかけてしまうなんてことも笑い話でされるほど、今や飛ぶ鳥を落とす勢いある商会であり、また国王陛下の覚えもめでたいまさに国一番の商人だというのに。

 彼女はただ侍女らしくぴしっとした姿勢で、足音も立てず綺麗な所作で案内の為に歩くだけだ。

 時折リジル商会の会頭が彼女に何かを話しかけていたようだったけれど、会話までは聞こえない。だけれど男の顔がとても柔らかい笑顔であったことから、商売の話や難しい内容ではなく、きっと多分世間話の類なのだろうな、と見る者に思わせるものがあったのだけれども――対する(くだん)の侍女殿は、相変わらずの無表情だったからなんと剛毅なものだろう、と見習いの少女たちは思わずにいられないのだった。



□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□



 私は今、動揺している。

 円周率を思い出したいなあなんて思うくらいに動揺している。

 

 なぜかって?

 私を訪ねてまさかの国一番の商人、一番食えない大ダヌキ、リジル商会の会頭が来たからだよ!!!


 いやあね、先日確かに情報はいただきましたし? タルボット商会での借金の肩代わりしてもらってその返済についての計画で今後また連絡させてくださいお願いしますとはしましたよ、ええしましたとも。王太后さまのお口添えもあって無利子とか超ありがたいですありがとうございます。この件が片付いたらまあその借金の殆どもなんとかなるというのはわかっていますが正直はっきりめどがつかないうちはきちんと返済していこうと思っています。この返済については実家とも話し合い済みで、一旦私が預かることになってます。


 でもだからってなんで来られたんですかね。

 私が提出した返済計画はやっぱりちょっと甘かったんですかねプロが見たらやっぱり駄目ですって駄目出ししに態々来られたとかそんなことないよね?


「いやあ、今日は良い天気ですなあ」


「さようですね、青空がまったく見えない曇り空ですが」


「ははは、眩しすぎると私は辛くてね。やはり歳には勝てませんよ」


「何をおっしゃいますか。まだまだお若くていらっしゃるではありませんか。ご子息によれば今でも精力的に諸外国を回られておられるとのことで……」


「いやいや、まだまだ店を任せられるだけの者が育っておりませんでな。お恥ずかしい限りだ」


「ご謙遜を。リジル商会と言えばもう諸外国でも聞いたことがない人の方が少ないと私は耳にしております」


 こういう時つらつらと受け答えが考えずにできるっていうのがこの職について今一番驚くことだよね!

 うん、頭で何か考えてても当たり障りなく受け答えができるんだよね。勝手に口から出てくるっていうか。

 時々王女宮のメイドたちにすごいすごいって言われるけど、実は別のこと考えてたりするからね。今日のおやつ何にしようかなとか、昨日買った魚を漬けておくの忘れたなとか。今だって正直国一番の商人を連れて歩くとか目立つ真似はしたくないんだけど会頭が是非私に案内をなんて言いだしちゃったから嫌とは言えないでしょう。寧ろなんで私を訪ねてきた。私が訪ねましたよ、呼びつけてくださって構いませんよ!

 胃が痛くなるしかないじゃない!!

 もう泣いて土下座したくなる衝動を堪えて前を向くしかできない私なんだけど、誰か気付いて助けてくれないかなあ……いや、借金返済関連のお話ならそれは巻き込むわけにはいかないんだけどね……。


 なんだろう、今日はもう普通に侍女のお仕事してプリメラさまの朝のご挨拶して可愛く髪型整えてあげて王太子殿下と勉強するお姿を眺めて和んだらこの間のパーティの事後処理の続きをやって、それから覚悟を決めて午後にでもリジル商会とジェンダ商会に行くつもりだったのにな。

 何故に向こうからあえてやってくるのかな……私の覚悟って結構時間をかけて決めるんで、あんまりあっさり詰め寄られちゃうとね、心がぽっきり折れちゃったりするからね、是非手心を加えてくださいと申しますかなんと言いますか。



 ……はあ。

 平穏な日々が、恋しい……。


「ユリア殿、そう言えばユリア殿は菓子作りが得意と倅から聞きましてな!」


「……拙いものでございますが、よろしければ召し上がっていただけますか……」


 平穏な! 日々が!! 恋しいの!!!!

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