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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 ただ普通にワインを飲むだけではなく、少し趣向を変えてホットワインにしてみたりなどしているうちに、私たちの口数はどんどん減っていきました。

 とはいえ、町屋敷から戻ってくる時のような少し困ってしまうような沈黙ではなくて、穏やかな沈黙っていうんでしょうか?

 一緒にいて疲れない空気ってあるじゃないですか、今はそういうものに戻っていて内心かなりほっとしております!!


「ユリア」


「なんですか?」


「少し顔が赤いね、……酔ってる?」


「酔っては……少しだけ? でも大丈夫、すぐ顔が赤くなってしまうんですけど、それだけですから」


「そうなんだ。……じゃあ量は飲めるのかな」


「ああ、いえ。それはあまり。けれど自分の酒量は弁えてますから安心してください」


 胸を張ってそういえばアルダールは少しだけ瞬きをしてから、苦笑を一つ。

 あれ? 違った?


 私は前世でも大して強い方じゃなかったんですが、今世では成人年齢が低いってことでお酒に触れる機会も多いことから意外と早い頃から嗜んでいたんですよね。

 成人祝い的に王弟殿下に美味しいワインをご馳走してもらって酔っぱらった挙句に絡み酒をしたっていう思い出がありますのであの醜態はちょっと……何度も同じ失敗はしない!


(なんて話をしたらアルダールが嫌がりそうだからしませんけどね!)


 アルダールが嫉妬深いと自分で言っていたのを最近は理解できるようになってきたので、余計なことは言わないのが一番です。

 狐狩りの時は王弟殿下が余計なことを吹き込んでくれたおかげで余計な釈明をしなければならなかったわけで……いやほらあれは不可抗力だったし当時はまだアルダールとこんな関係になるってわかっていなかったし実家だから油断したんだってば。

 夜着を見せたくてうろちょろしてたんじゃないってば。

 まあ貴族の夜着なんてものは逢瀬とか夜這いとかそんなんじゃないかぎり、夜盗とかが突然やってきて退避を余儀なくされた時とかに恥ずかしくない恰好の寝間着って定義だから! 色っぽい夜着とか私には無縁だったわけですし、そこのところは安心していただきたい!


 なんて言ったら説教時間が倍ドーンっていう未来ですねわかります。

 最近はちゃんとわかってるんですよ!

 アルダールも私に色んな感情を隠さずに見せてくれるようになった……と思っていますのでそれはとてもありがたいことだと思うし、とても嬉しいです。


 私も前に比べれば少しはその、スキンシップ? に慣れてきた気もしますけどそれでもまああのあっまーいお説教はちょっとですね……?


「手を貸して」


「手?」


 言われるままに、手を差し出す。

 私の手を取ったアルダールがそっと握るようにして、親指の腹で私の手の甲をなぞるからそれがくすぐったくて、気恥ずかしくて、思わず小さく肩が跳ねてしまいました。

 変に思われたかなって焦ったけれど、彼が気にする様子はなくてほっとしました。


「指先まで赤い」


「そ、そう……?」


「よく見えないな、すまないけど少しこちらに身を寄せて?」


「……えっと」


 向かい合わせで座っている以上身をこれ以上寄せるとなると、少しだけ腰を浮かせて前に身を傾ける以外ぱっと思いつかなくて私がそうすると、アルダールがにっこりと笑いました。

 そしてあっと言う間に手を引っ張られて、バランスを崩した私はそのまま空いた手で引き寄せられてって、あれ? デジャヴ?


「あ、あるだーる?」


「うん、これならよく見える」


「じゃ、なくて、です……ね?」


 座っているアルダールの上に横抱きにされるようになってしまったことに衝撃ですよ!!

 すごいな片手でひょいって! ひょいって!!

 いや感心するべきなのはそこじゃない。その手際の良さもだけどって違うわ!


「なにしてるんです!」


「ちょっと距離に不満があった」


「子供みたいな言い分じゃないですか……私よりもアルダールの方が酔って……ないですね」


「うん、私は割と酒に強い方だからね、あと何本か飲んでも素面のままじゃないかな」


「それはそれですごいですけどね!?」


 ああ、どうしよう。

 正直なところアルコールは少しずつ、私の体も思考も鈍らせている、ってことくらいは自覚しています。

 勿論真っ直ぐ歩けるしまだ二日酔いになるとか、言動におかしなところが出るとかそういうことはないレベルですがいつもよりも危機感が薄い気が自分でもしています。


「……どうかしたんですか」


「うん」


「甘えたい、気分なの?」


「うん」


「アルダール?」


 握られていた私の手を、引き寄せて。

 ちゅっとリップ音をさせて。


 でも私を見つめるアルダールの目は、どこか揺れている気がしました。


「……私は、嫉妬深いだろう?」


「そう、ですね? でも……他の方を、私は知らないし」


「他の男なんて知らなくていい」


 ぴしゃりと言い切られてそれはそれでうん、どうなのかなあって思いましたが反論はしないでおきました。

 私だって別に他の男性と付き合いたかったとかそういうわけじゃないので、話をややこしくする気はひとっつもないのです。


「他の男になんてくれてやる気は、さらさらない。……だけど、私はこうして情けないところを見せてばかりだ」


「……それだけ、私の前で、飾らずにいられると自惚れてもいいの?」


「それこそずっと前からだ」


 アルダールが、私の額に額をくっつけるようにして蕩けるみたいな笑顔を魅せる。


 曖昧にしかいつもアルダールは、見せてくれない心の部分がある。

 それはきっと素直にさらけ出すのは難しい部分で、そういうところは私にもあるからよくわかる。

 だけど、私もアルダールと恋人関係になって、気が付かないうちに甘えて随分情けないところを見せたり正直な気持ちを言えるようになったり、変化があった。


(結婚、の話は……今アルダールにとって考えられない話だったから、あんな声が出た、だけで……)


 だんだんアルコールが遅れて回ってきたのか、ああ、思考がまとまらない。


「私のことは、好きで、いてくれてる?」


「……どうしてそんなことを」


「えっ」


 思わず考えていることが声に出た!

 しまった、と思った時にはアルダールが眉間に皺を寄せていて、ああそんな顔してもマイナスにならないんだからイケメンってすごいなってちょっと的外れなことを考えて自分が酔っているなとどこか冷静に思ったりもして。

 

 とりあえずこれはよろしくない。


「あ、あの。私少し酔ってきたようなのでお水を」


「……好きだよ。私は君を不安にさせてばかりなのかな」


「えっ、いえ、そうだけどそうじゃなくて。それは私自身の問題でもあって……あの、アルダール、とりあえずおろして」


「だめだ。私から離れないで」


 真面目な顔でそう言われるとなんだか私が悪いことをしたみたいになってるんですけど、あれえ!?

 体勢を変えてぎゅぅっと抱き込まれると、アルダールが長い長いため息を吐き出しました。


「他の男がいまさらいいと言われても手放せない。そのくらい、君が好きだし嫉妬だってする。そのせいでみっともないところを見せているのは百も承知でそれが原因で愛想を尽かされないか心配だってしているんだ」


 えええ。

 なんだこの可愛い生き物……!!

 ちょっと拗ねたような表情を見せるイケメンとか誰得ですか、私得ですね!!


 でもあの、ちょっとですね?

 背中とか腰とか、手がなんかですね?


「あ、アルダール?」


「なんだい」


「あの、手を」


「……ユリアからキスをしてくれたら、やめる」


 なんですと!?

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