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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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書籍化からちょうど一年です。

まだまだ連載が続いておりますが、応援してくださる皆さまのおかげです! ありがとうございます!!

 ニコラスさんで疲れた心はプリメラさまで癒されました!

 いやまあ目の前にプリメラさま、後ろにニコラスさんで結局プラマイゼロなのか……。


 いいのよ? 雰囲気読んで下がってくれても良いのよニコラスさん!!

 できる執事はお客さまの空気を読んで行動するものですよね!


 なんて心の中で思ってみたものの、この胡散臭い人物はわかっていて私たちの側を離れないんだろうなあってことくらい私にもわかりますよ……。

 まったく、もう疑ってもないし普通の人だって判断したならそんなに構ってくれなくていいんですよ、寧ろお断りですよ。


「間もなく準備は整うものと思われますので、もう少々お待ちくださいませ」


「わかったわ、ありがとう」


 プリメラさまはにっこりと応じておいでですが、本当は直ぐにでも準備できたんじゃないのかと私は疑ってしまいますよ。

 先程の会話をしたいがためだけに遅らせたとか……いやそれは考えすぎですよね、ニコラスさん個人の性格が悪いっていう部分はともかくとして、彼は王太子殿下に忠誠を誓う執事として仕事はきちんとしているのでしょう。

 だとすれば、わざわざそんなことをしてプリメラさまをお待たせするようなことはない……はず。

 言い切れない部分に関しては、私にとってプリメラさまが至上であるようにニコラスさんにとっては王太子殿下が至上だから、なんですけどね。

 まあだからって後回しにする理由にはならないか。


「湖ってどんなのかしら。楽しみね!」


「さようでございますね。本当に今日は天候も穏やかでようございました」


「本当はお兄さまやディーン・デインさまもご一緒だったら良かったのだけど」


「殿方には殿方の、親交の深め方というものもございますので」


「そうよね……うん、そうよね。わたしはユリアとお出かけができるんだもの、それでいいわ!」


「……おそれいります」


 ああ、天使……!!

 私とお出かけできるから嬉しいだなんて!


 そりゃまぁ王太子殿下とディーン・デインさまと並べられるというのはかなり胃が痛い感じですが、今この場では私の一人勝ちです。

 この可愛らしいプリメラさまの笑顔、独り占めですからね。


 天使を独り占めできるなら胡散臭い執事の一人や二人我慢して……我慢して……いややっぱりちょっと遠慮したい。


「今の季節でしたらば湖のほとりには野生のスイセンが咲いていたと思われますので、お楽しみいただけることかと」


「まあ楽しみ! ね、ユリア!」


「はい、プリメラさま」


「そういえば貴方ってお兄さまの専属執事なのよね?」


「はい、さようでございます」


 ニコラスさんが話題を振られて、にっこりと微笑みました。

 プリメラさまに対して胡散臭い笑みでないことは評価しますが、ちょっと驚いたようにも見えましたね、今。


「じゃあわたしとユリアみたいなのかしら?」


「どうでしょうか、……僭越ながら、王女殿下と王女宮筆頭さまの関係と、王太子殿下とこのニコラスめの関係は、少々異なるように思います」


「そうなの?」


「はい。王女宮筆頭さまのお役目は、王女殿下が国を体現なさる淑女の鑑となられるようお手伝いをなさることかと思います。このニコラスめの役目は、王太子殿下のおそばにて、雑事ながら国のためになることを行う、そのようなことにございます」


「……? ごめんなさい、よくわからないわ」


「さようでございましたか、無学ゆえ、失礼をいたしました」


「ユリア、どういうことかしら?」


「えっ。……ニコラス殿のお役目は……」


「役目は?」


「王太子殿下が、これより双肩に担われる王の責務、それを全うされるよう微力ながらお支えする、そのようなものと思われますが」


 まさか表立ってできない部分をこなす人ですよ、なんて言えないし。

 プリメラさまがわからないのではなく、気が付かれていないからできる限り言葉を選んだ私を誰か褒めてほしい。


 小首を傾げたプリメラさまが、少しだけ眉間に皺を寄せたところを見ると何か察したような気がしないでもないけどね! 賢いって、こういう時に良いことなのかわからなくなります……。

 できれば私としてはプリメラさまに暗い大人の部分なんかまだ見ず、健やかで楽しい時期を過ごしてほしいんですよ。

 せめて、そう、せめて社交界デビューのその日まで!


「それって」


「プリメラさま」


「え? なぁに」


「ニコラス殿は、王女宮の筆頭執事、セバスチャンの身内でもあるのです」


「あ、そういえばそうだったわね」


 ぱっと顔を綻ばせたプリメラさまが、ニコラスさんの方に向き直りました。

 真面目な会話も大事だとは思いますが、今はまだ……と思うのはきっと私のエゴなのでしょうね。

 可愛い子供に、何も知らない無垢なままでいてほしいと願ってしまうのはきっとよくないことなのだと思います。


 でもどうせだったら、あんまり変なことは知らないままでディーン・デインさまと幸せな結婚をしてほしいと思うのです!


(まあそれも勝手に私が願っていることであって、……バウム家の奥方さまとなられればまたそれはそれで色々あるとは思うんですけどね)


 プリメラさまに幸せになってほしい。

 それだけで突っ走ってきた私ですが、成長したプリメラさまを前に、私ができることは何だろうと最近よく思うわけですよ。

 まあ何があろうと味方ですよってところは変わらないんですけどね。


「セバスチャンのことを話してくれる?」


「……そうですねえ、僕としては歓迎したい話題ですが、後で叱られてしまいそうです」


「ナイショにするわ?」


 目を輝かせておねだりするプリメラさまプライスレス。

 ニコラスさんもちょっとだけ苦笑しつつ、これはかわし切れないようです。


「では秘密ですよ?」


「ええ!」


「おじいさまはですね、……おや、準備ができたようです」


「ええー! ひどいわ、ねえねえ、続きは!?」


「では道すがら。面白いお話になるかは保証いたしかねますが」


「もう……行きましょう、ユリア!」


「はい、プリメラさま」


 さっと身を翻したニコラスさんは、一体どの(・・)タイミングで準備ができたとわかったのでしょうか。

 侍女が呼びに来たわけでもない、馬の(いなな)きが聞こえたわけでもない。

 プリメラさまはなんの疑問も抱かれなかったようでしたし私も良いタイミングだなあと思っただけですが、ふと気づいたんです。

 室内にいて、外が見えない位置に立っていて、彼はどうして気が付いたのでしょう?

 私の疑問に答えるように、ニコラスさんが私の方を振り向きました。


 そして人差し指を唇に当てて、そっと笑ったんです。

 内緒ですよ、そう言っているように見えました。笑顔は優しいものでしたが、どこか妖しくてやっぱりこの人、アブナイ人だ。


 改めてそう私に思わせましたね!


(あんまりプリメラさまが近づかないようにしなきゃ)


 良い影響がある大人とは思えません。

 まあ普段は王子宮にいるので危険度は低いでしょうし、王太子殿下が溺愛しているプリメラさまに対して変な行動もしないでしょうけど。


 そして馬に乗ってゆっくりと森を散策しながら、私たちはニコラスさんからセバスチャンさんの話を聞くことができたのでした。


 曰く、実は海鮮が大好物で特に屋台のイカを焼いたものが大好きだ、とか。

 昔叱ってくるのが怖くて逃げだしたら全力で追い回された挙句に冷たい廊下で正座をさせるくらい厳しかった、とか。


 ……意外と普通の祖父と孫やってたんですね、セバスチャンさんとニコラスさん。

 もっと殺伐とした関係なのかと思っていましたが……これは後で聞いてみよう、そう思ったのでした。

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