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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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「それでは行ってくるが、お前たちもはしゃぎすぎないように」


「はい、お兄さま。……でもどうしてもセバスを連れていかれるのですか?」


「ああ、お前の執事は狐狩りの名手とニコラスから聞いていたからな。手並みを是非拝見したいと思っていたんだ」


「……お兄さまがそこまで仰るのでしたら……でも次はだめですからね!」


「ああ、湖の辺りは景色も良いから楽しんでいればいい。そう待たせることもないとは思うが」


「はい。……セバス、何もないと思うけれどお兄さまたちのこと、よろしくね?」


「必ずや」


 狐狩りに出発する男性陣を見送るために、私たちは玄関先に出てきているのですが……私としては不安しかありません!

 だって、何を思ったのかというかニコラスさんの入れ知恵によってなんとセバスチャンさんが狐狩りに同行するってんですよ。

 その代わりに私たちの給仕兼護衛にニコラスさんがついてくるってね?


 不安しかないじゃないですか!!


 当のニコラスさんはニコニコと今まさに私の横でお見送りの体勢を整えていて、セバスチャンさんが超絶睨んでいらっしゃいますが当人はどこ吹く風。

 ……セバスチャンさんも食えないお人ですけど、ニコラスさんは食えないっていうかもうなんていうんでしょうねえ。もう!


「ではウィナー男爵さまも、どうぞ狐狩りをお楽しみくださいませ!」


「ありがとう、ニコラスさん」


「どうぞニコラスとお呼びください、王太子殿下の執事である身に過ぎませんので」


「……ああ、でも、えーと」


「ウィナー男爵さまは爵位をお持ちの『貴族』なのですからこのように下々の人間との付き合い方もそろそろ慣れませんと。公的な場でのふるまい、その練習と思ってさあどうぞ!」


「……では、その。ニコラス、ありがとう」


「どういたしまして」


 馬に乗ったウィナー男爵が照れ笑いを浮かべましたが、私としては何とも言えない気分です。

 今回の目的が、ウィナー男爵とミュリエッタさんを何かそれぞれに立場を教え込んで引き離す……まではないんでしょうが、似たような空気を感じますよね。

 狐狩りが終わるまでミュリエッタさんは館の来賓室で待機、私たちのはしゃぐ声が聞こえては哀れだという配慮(・・)から私たちは森にあるという湖にピクニックに行く……とまあ、つらつらと午後の予定を聞いて私はここまで全部が計画だったんじゃないかなとほぼ確信に近いものを覚えたわけです。


 まあ、それもこれも仕方がないのかなと思うのですが、そこまでする必要があるのかなとも思ってしまう辺り私はやっぱり世間知らずで甘いのでしょうね。


(……まあ今まで色々やらかしちゃったのが積み重なった結果こうなったんでしょうね……)


 ヒロイン補正でなんとかなるって思ってたみたいだし、取り返しがつかなくなる前に、これを機にその能力を活かして令嬢として成功したらきっと大丈夫だと思うんですけどね。

 下手に顔見知りっていうか言葉を交わした相手が不幸になる、というのはあまり気分が良いものではありませんから。


 とはいえ、率先して助けに行くとかそんなヒーローみたいなことは私の役目でないことも自覚しているので、心の中で応援するばかりです。

 きっと彼女は賢い人だと思うので現実さえ見えれば、立て直すことだってできるんじゃないでしょうか。


 男爵がふと上を向いて、笑顔で手を振りました。

 つい、私もつられてそちらに視線を向ければそこにはミュリエッタさんの姿が。

 なんともいえない表情で、窓に手をついて私たちを見る彼女はいつもの溌剌(はつらつ)としてキラキラとしたヒロインの雰囲気ではなく、不安そうにする年相応の女の子でした。

 

「ユリア」


「えっ、あ……アルダール」


「それじゃ、行ってくるから」


「え、ええ……あの、怪我などなさらないようお気をつけて……」


「そうだね」


 馬の手綱を握ったアルダールが小さく笑みを浮かべて空いている手を私の頬に添えて、ちらりとニコラスさんに向けました。

 どうやらアルダールもニコラスさんが残ることに関してはちょっと思うところがあるようで、まあそこは私もなので心配してるんだろうなあとは思うんですが。


 なんでしょうねえ、この状況!!


 背後の館に切ない表情をした乙女、私の近くににこやかな胡散臭い執事、目の前には心配する彼氏!


(……こういうのをカオスって言うんでしょうね、多分……)


「ユリアも、十分に、気を付けて?」


「は、はい……」


「そんな、バウム卿! 王女殿下とファンディッド子爵令嬢さまは僕がこの身に替えましても必ずお守りしますのでご安心を」


「……それじゃあ、行ってくる」


 ニコラスさんの大げさな言葉には答えず、アルダールはもう一度私の頬を撫でた後、馬に乗りました。王太子殿下たちと共にゆっくりと馬を歩かせて次第に駆け出していくその姿を見送って、私はそっと溜息を吐き出しました。


「ユリア、私たちはいつ出発するの?」


「そうですね……ニコラス殿、どのように?」


「はい、ピクニックのための準備はほぼ終えておりますので、今お二方のための馬に鞍を着けているところでございます」


「そう」


「準備を終えるまで屋内でお待ちになってはいかがでございましょう。体を温める飲み物などをお召し上がりになってから出発される方がよろしいのではないかと愚考いたしますが」


 ちら、とプリメラさまが私の方を見ました。

 いつもでしたら私がプリメラさまの意向を汲んで行動をしますが、今の給仕責任者はニコラスさんですので口出しはできません。


「それじゃあ、プリメラはココアが飲みたいわ。準備できるかしら」


「かしこまりました。ファンディッド子爵令嬢さまも同じものでよろしいでしょうか?」


「……ええ、よろしくお願いします」


 恭しくお辞儀をしたニコラスさんが振り返って指示を出す姿はなかなかどうして様になっています。

 王子宮に配属された人間としては新参者ですが、やはり王子専属執事というのが大きいのでしょうか。

 王子宮筆頭は館に残って狐狩りとピクニックに出た私たちが戻った時のために待機という形になっているので、実質ミュリエッタさんの相手は王子宮筆頭がする……というところでしょうか。


「……そんなに警戒をなさらなくてもよろしいじゃありませんか、ユリアさま」


「ニコラスさん」


「英雄も、英雄の娘も、それぞれが自分の足で立つことを覚えるべき……という道を示しただけに過ぎませんよ。なぁんにも悪いようにはいたしませんとも!」


「……そうですか」


 胡散臭い。

 相変わらず私の中でニコラスさんの印象はそれに尽きますよね。


 この間ちょっとだけ見直したんですけどねえ……本当にちょっとだけ。

 けれどやはり王太子殿下の専属ということで、私とは違った側面……というか、役目を持つ人間なんでしょう。


 私は、プリメラさまの母親代わりとして傍にいることを望みそして望まれました。

 彼は、王太子殿下の手足になるようにと命じられ、それを心底誇りに思っているのでしょう。


 分かり合えない部分の方が多く、そして分かる部分もある、というところでしょうか。

 だからといって率先して仲良くなりたいとは思いませんけどね!!


「まああのお嬢さまが未練がましく見送りという体でバウム殿を熱く見つめていたのには呆れますけどね」


「……」


「ただまあ、愚かな少女でなくてボクもほっとしましたよ。今後どのような行動を取るか、こちらとしてはそれで彼女の評価を変えていきたいと思っておりますよ」


「……王太子殿下は彼女に一体何をお求めなのですか」


「何も」


「え?」


「何も求めてはおりませんよ。彼女はどうやら稀有な回復魔法の力を秘めているようですが、それが我が国にとって不利益に働かないのであれば別に何も」


 にっこりと笑ったニコラスさんに、私は足を止めました。

 プリメラさまが侍女に誘導されて休憩のために用意された部屋に消えていく姿を横目にしつつ、私はニコラスさんを見るしかなかったのです。


 回復魔法は稀有な、とても有益な魔法です。

 それを持っている人間は重宝され、富を得るとまで言われています。


 ゲームのステータスを極めたなら、それこそ彼女の能力はとんでもない回復力を秘めているとも言えます。

 それらを知っていて、何も求めない、というのはどういうことなのだろう。


 私の疑問に、ニコラスさんはなんてことない話だというように笑いました。


「我が国の基盤は、その程度で揺るがないと王太子殿下はお考えです。勿論、役に立ってくれるならそれに越したことはありませんけどね! 彼女にその気がないものを無理強いするのは可哀想でしょ?」

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