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それから程なくして到着なされたプリメラさまと、王太子殿下が仲良く並んでお喋りをしていらっしゃるその光景は……ああーこう、目の保養! 麗しい! 可愛い! 素敵!
語彙力がどこかに吹っ飛んでいくような感じで大変申し訳ないと思いますがやはりね、麗しの兄妹なんですよ。そこだけで絵画が何十枚と描けるんじゃないでしょうか。
嬉しそうに笑うプリメラさま、今日は乗馬用のドレスでまた一段と可愛いです。まぁドレスを選んで推薦したのは私なんですけどね!
陽の差し込む部屋で昼食をとる、ということで円形のテーブルに私たちは全員座りました。
全員、と言っても王太子殿下にプリメラさま、王弟殿下とディーン・デインさまにアルダール、そして私という顔ぶれです。
そして給仕についている王子宮の侍女や執事たちとは別に、王太子殿下の後ろにニコラスさん、プリメラさまの後ろにセバスチャンさん。
おや? 腹黒い執事さんが揃って……じゃなかった、いやなんでちらっと思っただけなのにこっちを見てるんですかねセバスチャンさん、そんな腹黒とか思ってませんよ素敵ダンディと思っております、はい!!
「みな忙しい中、今日は良く集まってくれた。礼を言おう」
「お兄さまの狩りにお誘いいただくのは初めてだから、プリメラも楽しみにしておりました!!」
「お前はあまり狩猟には興味がなさそうだったからな、悪かった」
「いいえ、こうして場を設けてくださっただけで十分です」
ニコニコ笑うプリメラさまと、それにつられるようにふっと笑みを浮かべちゃう王太子殿下。なにこの兄妹、可愛い……!!
思わず不躾にも凝視しちゃいそうでしたのでそっと視線を逸らしましたよ。ええ、私もちゃんと場を弁えておりますからね。
そして視線を逸らした先で自分もプリメラさまとお話ししたいっていう空気を隠し切れないディーン・デインさまのそわそわっぷりが目に入ってもうね、……もうね……!!
(ああー、なにこの空間尊い……!)
これまで侍女として培った冷静な表情を保つスキルがこんなところで役に立つだなんて思ってませんでしたが、令嬢としてもここでニヤニヤなんてできるわけがありませんのでとても助かりました。
不愛想とか鉄壁侍女とか私としては不本意なあだ名ですが、こういう時には役立つものなんですね……扇子持ってくれば良かったとちらりと思ったので令嬢としてはまだまだ半人前だなと自分で思いました。次回気を付けるといたしましょう。
(でもウィナー男爵が参加するんじゃなかったの?)
私だけが聞いていたならニコラスさんが私に対して何か揺さぶりのようななにかをしてきたのかなと思わなくもありませんが、アルダールも聞いているとなると本当のことなんでしょう。
だとしたらこの場にいないのはどうして?
その疑問をニコラスさんに視線を向けることでぶつけてみましたが、にっこりと笑顔を返されただけでした。
アイコンタクトとかできるわけじゃないんでできたらもう少しなんかアクションくれませんかね!?
「今日はプリメラの兄として一度ゆっくりと話してみたいと思っていたのだ、バウム公子」
「は、はいっ! 本日は、お招きありがとうございます!」
「それは先程も聞いたが、王太子としてではなく妹の身内として仲良くしたいと思っている。聞けば、バウム公子は私と同じ年齢だとも耳にしているのでな、これから将来共にこの国を盛り立てる友人としても共にあれたらと考えているんだ。いずれはバウム伯爵と同じで騎士として仕えてくれるのだろう?」
「あ、ありがとうございます……! 俺、じゃなかった、私も王太子殿下のご期待に添えるよう精進して参ります!」
「そう畏まらなくて良い。プリメラの婚約者として今後は顔を合わせることも増えるだろう?」
「そ、そう……でしょうか。自分はこの春より学園に通う身となりますので、王城に上がる機会は今よりも少なくなると思っております」
「学園か、ではバウム公子も次期領主としてのことを多く学ぶのだな」
「はい。父からは、学園で数多のことを学べる機会を大切にせよと言われました」
きりっとして答えるディーン・デインさまのお姿からは、御父上であるバウム伯爵さまを尊敬している様子が窺えました。
ちらりと横に座るアルダールを見ましたが、微笑ましそうにしているだけでそれ以上は読み取れませんでした。うん、まあなんとなく家族とは上手くやれるようになったと言ってもなかなかそうまるっと変わるわけじゃありませんものね……。
自分の家のがったがただった関係を考えるとまったくもってバウム家の複雑な事情の方が大変なんですけどもそこを考えるとやっぱりアルダールすごいなって改めて思うっていうか惚気じゃありませんよ断じて。
「近衛騎士として何度かその顔は見たことがあるが、言葉を交わすのは初めてかなバウム殿」
「は、この場にお招きいただけることを光栄と」
「若くして近衛騎士隊に入隊し、次期剣聖としての呼び名も高いが驕ることもなく真面目に職務に取り組んでいると耳にしている。そのような人物が王家に忠誠を誓ってくれることはむしろこちらが感謝すべきだろう」
「……畏れ多いお言葉にございます」
「ファンディッド子爵令嬢も、よく妹に仕えてくれている。二人とも今日はこの会を楽しんでくれると良いのだが」
「ありがとうございます、王太子殿下」
王太子殿下とディーン・デインさまが同い年、とはいえもうなんだか貫禄がほんと段違いっていうか、王太子殿下が成長早すぎるのかなって思うんですけどね。
とはいえ、和やかな始まりで主にプリメラさまを間に挟むようにして王太子殿下とディーン・デインさまが楽しく会話をし、時々そこに王弟殿下が交じって……というなんだか目の保養のための会ですかねこれ?
いえ、私とアルダールが呼ばれた理由はどこに……。
狐狩りが始まったらまあ私はプリメラさまの相手役、アルダールはディーン・デインさまの護衛を兼ねてるっていう役目があるんでしょうけれど。
でもまあこの和やかな場を見れるっていうのは役得だし、特に面倒がないんだったら全然オッケーですけどね!!
「王太子殿下、失礼いたします」
「なんだニコラス」
「はい、お招きいたしましたウィナー男爵さまが到着なされたのですが、どうやら手違いがあったようで」
「……なに?」
ニコラスさんがちらりと私に視線を向けましたが、私はそれを受けてセバスチャンさんを見ました。セバスチャンさんは私の視線に気が付いているはずですが、決してこちらを見ずどこか一点を見つめて微動だにしていません。
執事の鑑ですが、あの厄介な人セバスチャンさんの身内なんだからね……!!
「ウィナー男爵をご招待すると招待状を送ったのですが、ご息女を伴って到着となりまして」
「……パートナー同伴とは書かなかったのだろう?」
「はい、間違いなくウィナー男爵さまのお名前だけを記した招待状を用意いたしました」
「では彼らはまだ招かれることに不慣れゆえの失敗だろう。とはいえご息女に恥をかかせるわけにはいかないから客間にでも通して持て成せ」
「かしこまりました」
「ウィナー男爵には私自ら説明しよう。叔父上もそれで宜しいですか」
「ああ、王太子殿下にお任せしよう」
あれっ、急に空気がぴりっとした気がしますけれど同時に茶番臭がするんですが、気のせいでしょうか?
いいえ、多分それはニコラスさんの笑顔のせいですよね。
王太子殿下は真摯な様子ですし、……まあ王弟殿下は違うようですが、とにかくミュリエッタさんもこの館に到着した、というところまではわかりました。
「……ウィナー男爵さまは到着の時間が我々と異なるのですか?」
「ええ、ファンディッド子爵令嬢さま。ウィナー男爵さまは狐狩りよりご参加いただくようお願い申し上げた次第でございまして。迎えの馬車も王子宮の方で手配いたしましたが、招待状の文面がわかりづらかったのやもしれません」
にっこりと笑ったニコラスさんが「それではウィナー男爵さまをこちらにお連れいたしますね」と去って行く姿を見送って、私は改めて思いました。
こいつやっぱり胡散臭い……と!




