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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 案の定、と申しますかなんというか、まああの後のことは語れません。

 送るというアルダールの言葉を丁寧にお断りして騎士隊宿舎から王女宮に戻る今。

 ああああああ。送られてたまるかってんですよ。こんな顔見せられるかってんですよ。

 いや、さっきまで散々見られてた気がしますけど恥ずかしいんですよ。ええ、ええ、恥ずかしいんですよ!

 段々早足になる私、全然淑女じゃないし筆頭侍女としての優雅さなんてどっかに置いてきておりますが気にしない!!

 自室についてドアを背にへたり込んでも私悪くない!!


 だって! だって!

 全部アルダールがいけないんですよ、私はちゃんとダメって言いました!!

 その上で送るとかあちらは余裕でしょうけどね、私はそうじゃないんですよ。


 こう……若干生まれたての仔鹿のように力が入らない足を叱咤して、ちゃんとお仕事戻りますよっていうアピール。私なりの意地ですが、そうした原因はアルダールにあるんですよと……。

 ……。

 ……。いえ、拒み切れない私がいけないっていうか、なんだろうあぁいった空気とかキスされるのが嫌だとかそういうわけじゃないんですけどね。


(これが経験値の差なんですかねえ……)


 はぁ、とため息がこぼれ出てしまいます。

 キスってなんであんなになっちゃうんだろう、思い出そうとしてもよくわかりませんが。いや思い出したらダメだ、思い出せなくていい。

 でもついつい唇に触ってみたりしちゃうんですよね、だからやだってんですよ……もう!

 別に何があるってわけでもないですし、ただただ自分が恥ずかしいだけなんですがこうなることはそんなに回数あるわけじゃないんですよ!?

 というか、回数があってたまるかってんですよ。


 体勢がきつくなったので床に体育座りしてしばらくぼんやりと過ごしましたが、いやいやこんなことしてる場合じゃなかった。

 今日はマシュマロを、宰相閣下にお届けです。

 やっぱりどこからどう情報を手に入れてるんだか王女宮の中でだけ楽しんでいたマシュマロ、あれがいつの間にか宰相閣下にバレてましてね?

 いやまあジェンダ商会にレシピは渡してあるんだからその内どこでも買えますよって話なんですが、それまで待てないんだそうです。


 こちらでもまだ、試作でピューレとか入れてる段階なのに!!

 ですが、ビアンカさまが公爵家の関係でお忙しいらしく、その労いの意味もあるのだからと言われれば私だって売り出されるまで待ってくださいとは言えないじゃないですか。


(……届けるの、メイナにお願いしたらだめかしら……)


 まだちょっと顔が赤いのが引かない、という理由のほかにもちゃんとありますよ!


 なんだか宰相閣下に会うのも大体面倒ごとが起きた時とかそういうイメージなのよねえ。

 私本人に届けさせろとか注文があったんだけどさ。

 わざわざ私を指定する辺り、なんていうかね? なにかお小言でもあるのか、或いはまた妙なお話がどっかからあって、それに対しての行動を指示されるとか……そんなような気がしてなりません。


 まあ、流石に本当に代理に行かせるような真似はいたしませんけどね。

 私も大人ですし、王女宮の筆頭侍女ですもの! 

 ……会いたくないけどね、本音を言えばとても会いたくないけどね……。

 はぁ、やれやれですよ。でもこれもお仕事の一環だと割り切るしかありません。


 それから私は顔を洗って、髪の毛を直して気分を切り替えました!

 そのくらいお手のもの!! ……というわけではありませんが、メッタボンに用意してもらった、ラッピング済みのプレーンマシュマロを持ったらちょっと緊張してきました。

 なんだって一介の侍女である私が、内宮のお偉いさんばっかりがいる区画にある宰相閣下のところなんて行かなきゃいけないのかと思うとそりゃ緊張だってするでしょう?

 以前行ったときはあれですよ、お父さまのことからシャグランの陰謀っていうよくわからない繋がりのまま巻き添え喰ったあの時以来ですよ!


 あの時は碌な説明もなく『とりあえず社交界デビューしてもらう、異論は認めない』っていう暴君のような発言で追い出された記憶しかありませんからね……!!

 いやまあ、結果としておかげで王太后さまのところの、お針子のおばあちゃんと親しくなれたのだからそういう意味では悪くない話だったわけですよね……プリメラさまのことも、こっそりとですがお名前で呼べるようになったのですし。

 その上でファンディッド子爵家も救われたしメレクも次期当主として立派になった訳で……。


 ……うん? 悪いことよりも良いことの方が多いのか?


 なんだか考えるだけ宰相閣下の思うつぼな気がしてきましたので、そこで一旦止めて小さく咳ばらいをし、目的のドアの前に立つ衛兵に呼ばれてきた旨を伝え、入室の許可が出るのを待ちました。

 そして許可が出て入ると、大きな机に相変わらず積み上げられた書類、そして脇には秘書官が数人、バリバリ仕事をこなしてらっしゃる姿が。


 私が淑女の礼をしてご挨拶をしても、宰相閣下は書類から目を離さずに「そこで座って待っていろ、すぐ済む」と仰っただけでした。

 いやいや、お仕事忙しいようでしたらマシュマロ置いて私戻りますよ……と言いたいところですが言えるはずもなく、大人しく来客用のソファに座っておきました。


「旅先でも例の英雄の娘に出会ったそうだな、運のないことだ」


「……そこに関しての感想は差し控えさせていただきます。宰相閣下、こちらがご所望の品にございます」


「む、それが新しい菓子か。ビアンカが気にしていた。何故直ぐにでも贈ってこなかった」


「改良を重ねてビアンカさまが王女殿下とのお時間をお過ごしの際にお出しできればと思っておりましたので」


「……それでは私が食せぬ」


「公爵夫人さまへの労いと伺っておりましたが?」


 なんだよ結局アンタが食べたいのかよ!!

 と突っ込みたくなりましたが、冷静にビアンカさまのためって言っただろうと返してみたところ宰相閣下の眉間に皺が寄りました。

 素直に食べたいって言えばいいのにさあ、どうしてこうもまあ甘いものが好きでそれには正直なのに人に頼むのはしないのさ。


「貴様は性格が良くないな。知っていたが」


「……それはお褒めの言葉と受け取るべきでしょうか?」


「褒めている」


 どう考えても褒めてないからな!?

 と思うんですが、どうなんでしょう。


 いや字にしても耳から聞いても絶対褒めてないよそれ……宰相閣下的には切り返しが見事だったって意味なんだと思うんだけどこういう人だから私は苦手なんだよ!!

 悪い人じゃあないんだと思うんだけど、……いや腹黒か。長年の友人である王弟殿下もそう言ってるし。


「……どうぞ奥さまとご賞味くださいませ。食べ方については幾つか王女宮で好まれるものをメモしてこちらに同封しておきましたので」


「よかろう」


「それでは私めはこれで失礼しても?」


「まあゆっくりしていけ。……いささか、お前に聞かせておきたい話もあるからな」


(やっぱりー!!)


 面倒ごとはごめんですよ!?

 いや、なんだか言い方からすると忠告っぽいような気がしないでもないけど碌でもないことの可能性だって否めないっていうかそっちの方が可能性高くってもうね……。

 でもそんな風に言われたら大人しく座っとくしかないじゃないですかー!!

 宰相閣下がひらりと右手を振っただけで、秘書官さんたちが作業の手を止めてお辞儀をし、退室していきます。


 ……なんでしょう、すごいですね……!?

 驚きのまま見送った私の前に、温かいお茶とお茶菓子が置かれると、室内には宰相閣下と私だけになりました。いえ、恐らくは公爵家の護衛はどこかにいるんでしょうがとりあえず姿は見えません。


 室内が一旦静寂に満ちたところで、宰相閣下は私を真っ直ぐに見つめて口を開きました。


「あの英雄の娘の動向、お前の耳に入れておいてやろうと思ってな」

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