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あの後、アルダールに届いた荷物を渡してちょっとお茶もして、……まあなんていうかニコラスさんの件であの人には気を付けるように散々注意されてなんだか納得できないけどまあそこは私としても気を付けるということで落ち着きました。
まったくアルダールは心配性です!!
で、ですね。
アルダールも去って一人になったところで、ティーセットを片付けていたらふと思ったんですけどね?
ミュリエッタさん、ニコラスさんの登場に「なんで」ってびっくりしたんですよね?
ってことは、彼女が知るシナリオにはニコラスさんが登場するものがあるってことでしょうか。そうでしょうね!!
うぅーん、私の知らない『シナリオ』、どこでどう影響するんだろう?
ほとんど影響なんてないって思ってましたけど、登場人物が出てくるって辺りで何かしらやっぱりあるのかなと心配になっちゃうじゃないですか。
それにニコラスさんの言葉もそれを踏まえて考えると、ミュリエッタさんがゲームと同様の対応をして、妙な言動をする娘と思われているような発言でしたよね……。
そして私のことも、疑っていた、と。
あああああああこの可能性に行きあたってたら挙動不審になってたかもしれない!!
でもニコラスさんが隠しキャラだったと仮定して、私はちょっと遠慮したいタイプだなあ……ああ、そういうことじゃないって?
いやそういう風にでもお茶らけて考えないと神経すり減りそうです。
次にあの人に会った時に平静でいなければ。
私とプリメラさまの平穏無事な暮らしのためにも!!
(……しかしそうなるとますますミュリエッタさんと縁が切れないなぁ……)
エーレンさんも結婚を機に地方へ。
ミュリエッタさんは数々の問題から当面令嬢教育を厳しく、そして学園生活。
そうなれば私と彼女の、プリメラさまと彼女の縁はほとんどないと言っても良い。
これで安心! そう思ってたんだけどなあ……。
まあプリメラさまが悪役っぽく成長していない状況でバッドエンド系の話はまるでないんだけどね。あんな天使どこを探してもいませんよ、優しくて可愛くて頭が良くて可愛くて可愛くて……ってもう最高。
だからとりあえずは心配していません!
むしろ心配なのはアルダールに対してのミュリエッタさんの行動、でしょうか……。
前回セレッセ領でのこともありますしね。
彼女がアルダールを好いているというのは、父親であるウィナー男爵だって分かるほどです。
バウム家に対してなにかしようとする人々がミュリエッタさんを神輿に担いでどうこう、っていう可能性があるからニコラスさんが出てきたわけでしょう?
いえ、他にも理由はいくらでもあるのかもしれませんけど。
……ニコラスさん、ミュリエッタさんに興味持ってくれてそっちを口説き落としてくれたら丸く収まったりしないかしら。
なんとなく近寄りたくないカップルが完成しそうですけど。
まあ、そちらはそちらで私には関係ない、という態度で行くことにしましょう!
あんまり首を突っ込んでも藪蛇な感じしかしませんからね……。
ティーカップを片付けて、溜息も吐き出して、よし、気分を切り替えましょう。
ビアンカさまからのお手紙は、お茶会の日程案内でした。
公爵家のお庭で、ですって!!
でもなんでか『パートナー同伴で来てね』って書かれてるんですけど……。
え、これってあれですよね?
この場合のパートナーってどう考えても恋人とかそういう意味合いの男性っていう意味であって親しい友人女性とかそういうのはちょっと苦しいですよね。
ってことはやっぱりどう考えてもアルダール誘えよってことですよね!?
(えええ……婚約者とかそういう立場でもないのに良いのか!? 良いからビアンカさまもこう書いてきたんだろうけど!!)
いえ、むしろアルダールの仕事の都合によっては一緒に行けない可能性だってある……!?
こ、これは早急に確認を取らねば!
いやなんて聞けばいいのかしら。
(……ビアンカさまがお茶会に、パートナー同伴でって仰っているのでお願いしたいのだけれどって言えばいいのかな……)
仕事で無理って断られたらそれはそれでちょっとどうしよう。
ビアンカさまに「無理でしたー、てへ☆」って手紙書けば済むんですかね!?
ここにきて難題だ……!!
それに。
あの時買ってもらったドレスを着ようと思っているし、アルダールにもそのつもりで話をしていたわけなんですが……改めて考えると買ってもらったドレスを当人に見せるのは大事かもしれませんが、それを着て一緒にお出かけってなんだかとっても恥ずかしい!?
いや、違う。
こういう時にはむしろ着ていかなければ……!
アクセサリーももらったもので揃えて、そういう感じでいいと思うんだよね。
(あれ? でも前世的には男が女に服を贈る時は、意味があるって……確か、なんだっけ?)
雑誌とか映画とか、ドラマだったかな?
プレゼントには理由がある、ってやつです。
「あっ、そうだ」
思わず思い出せたことに喜んで声を出しましたが、そのまま私は固まりました。
ええ、ええ、そうですよ。
男性が女性に服を贈る理由、それは……その服を、脱がせたい。
いやいやいやいや!?
アルダールはそういうつもりで贈ってくれたんじゃないよ。あくまで前世での話だよ、なんで今思い出した私の馬鹿!!
やばいよ、そんなの思い出してあの服着てアルダールと一緒にお茶会とかどう考えたって私が挙動不審になるわ。不審者まっしぐらですよ。
どうしようもう……今日はアルダールに会うのが思い出す前で良かった……。
「って違う!? 会いに行かないといけないんだった!?」
そうですよ、だってつい今さっき確認しなきゃって思ったばっかりですよ!
ああー本当に何故そんなことを思い出してしまった私。
冷静になるんだ。そう、冷静になるんですよ私!
そう、ドレスのことはこの際考えません。今大事なのは、アルダールの予定を聞く。確認をしてだめだったらその旨をビアンカさまにお伝えして、一人でそちらに伺っても良いのかと聞く?
それともアルダールがだめだった場合、誰か別の人……そうですね、この場合はお父さまとか? メレクとか?
まずは建設的にものを考えなければなりません。
変なことを考えすぎて動揺しすぎてちょっと自分でも慌てすぎだとは思いますが。思いますが!
とりあえず!
そう、冷静に……目を見てお話ししなければ大丈夫。きっと大丈夫……。
アルダールがいくら察しが良いからってそういうことを考えただなんて私が思っているとは気づくまい。
ちょっと挙動不審だなって訝しむかもしれないけど。
(おかしいな……色々あったけど平和な生活が戻ってきた、じゃなかったのかしら……?)
一人で慌てて動揺してぐったりですが、休憩時間の終わりというものは必ずやってくるのです。
ああもう、どうしてくれようか!!




