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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 ニコラスさんとのご挨拶以来、まあなんか言っていた割にその後は接触はありません。平和なものです。

 平和ばんざい!

 ちょっと身構えていた私ですが、もしかしたらあちらはセバスチャンさんが上手いこと対処してくれているのかもしれませんね。


 こうして王女宮に戻って来て平穏で、いつも通りの日々を過ごしつつも振り返ってみるとそれなりに今回の帰省って色々あった気がします。

 帰って戻って、なんて単純じゃなかった不思議……。

 実家帰省のはずが小旅行になったというのはちょっと私の中でも不思議な問題ですが、概ね平和なんだからそれに越したことはないですよね。


 しかし結局オルタンス嬢をお迎えするにあたっての情報を聞くどころか本人から色々レクチャーを受けたであろうメレクからのお手紙は、……うん、いやでもほら家庭ってそれぞれ事情があるし本人たちで上手くやれるようで他人に迷惑が掛からないなら良いと思うの。

 尻に敷かれる夫婦だって問題ないと思いますよ、そういう点でオルタンス嬢は外では夫を立ててくれるタイプの女性とお見受けしましたし。

 とりあえず、顔合わせの日程だけいただいたのでその前後で私もお休みをとってファンディッド子爵家でご挨拶と決まって一安心です。


 あれ以来、お父さまとお義母さまも、ちょっとずつ本心でお話をしている……というような内容のお手紙をそれぞれからいただいて、私もできる限り“娘として”正直な気持ちでお手紙をお返しするようにしています。

 こうして見れば、今回の帰省は実り多いものだったのでしょう。少なくとも、私たち家族にとっては。


(……まあ、そうなると次はビアンカさまが開かれるお茶会よね。アルダールが買ってくれたドレスができあがったって連絡も貰ったしそれを着て行こうかしら)


 彼氏からのプレゼントで初めてのお茶会とか照れるけどね!

 でもこういう時に着ないとダメな気がする。特にビアンカさまはほら、私にとって大切な……『友人』だもの。

 私の為に、内輪で誕生日を祝うお茶会を開いてくれるというなら私は私のできる最高の装いをしなくっちゃ。

 恋人とも仲良くしているし、幸せだって。そうしたら、ビアンカさまはきっと喜んでくれる気がする。

 王太后さまもビアンカさまのお茶会だったら経験を積む意味でも是非いってらっしゃいってお返事をいただけたし、私も遅まきながら令嬢として経験を積んでいきましょう。

 参加できる旨を記したお手紙を送るのは緊張しましたけど、すぐにクリストファがお返事を届けてくれました。『日にちは改めて知らせるけど参加を決めてくれてありがとう、嬉しい』っていうビアンカさまのお手紙は嬉しくて大事にとっておこうと決めてありますよ!


 きっとこのお茶会、私にとって学ぶことはたくさんある。そんな気がします。

 何事も学ぶことに遅いということはないはずです!!

 いや、お茶会経験がここまでないっていうのは令嬢としてあるまじきくらいの話なんですが……王女専属侍女っていうのはなかなかに忙しかったんですよ!?

 などという言い訳はともかく、そういう点では私とミュリエッタさん、令嬢としてのレベルは一緒と思っていいんじゃないですかね……私の方が侍女としての暮らしや貴族社会に対する理解という点では勝ってますけど、あちらは若さと順応性がありますからね。


 まあ、今後そう接点もないと思いますけど。

 ただニコラスさんっていうあの胡散臭い存在が……ってそれは言い過ぎでしたね、失礼失礼。割と本音です。

 彼の存在が、どうやらミュリエッタさんはアルダールを諦めていない、とかそういう雰囲気を伝えてきたわけなんですよね!

 いやいや……あそこまで色々やらかしちゃって今後なにがあるかわかったもんじゃないんですけど……そういえばハンス・エドワルドさまも最近はあんまりミュリエッタさんのこと話題にしてないのかな、アルダールからは聞きませんね。

 スカーレットがハンス・エドワルドさまへの片想いをすっぱりきっぱり諦めたからでしょうか、この宮で彼に関することってそう名前も聞きませんから。

 

(今度アルダールにでも聞いてみようかなあ)


 そうそう、アルダールと言えば例のマウリアさん特製のお守りコサージュとスカーフ、届きました!

 ちょっと光沢のある布を選んで作ってくださったそれは、まるで本物の花のように綺麗でびっくりでしたよ……。スカーフの方も同じ布地なんだよね? って思うんですが、いやぁプロってすごいなあ……。


 ちゃんと私が希望した通り、ローズクオーツも付いてました。

 一緒に入っていたマウリアさんのお手紙によれば、恋愛成就のお守り石付きにしたところ、他の店のお守りよりも今売れ行きが良くてありがとうございます、だそうです……。

 お、おう。そうですか……。


 お礼と言ってはなんですが、と添えられていたのは髪飾りとハンカチが数点。

 どれも良い布で作られていて、恐らくマウリアさんの工房作品なんでしょうね。 

 私としては大したこともしていないのに、新進気鋭のデザイナー作品を手に入れられたので申し訳ないくらいですが素直に感謝して受け取ることにいたしました。

 お互いに喜べる結果になったのだから、こういう時は素直なのが一番ですものね。


 普段使いにも使えそうなデザインのものもあったので、お休みの日には色々髪型を変えてみるというのも良いのかもしれません。

 私だって恋人ができてリア充生活を歩み始めたレディの端くれ!

 休日にお洒落を考える位あっても良いのです。


 ……じゃあ今までもそうすりゃよかったじゃんって突っ込まれそうですが、ほらそこはあれですよ……見せる相手が特にいるわけでもないし肉食女子でもなかったですしプリメラさまがいてくれたら私幸せでしたんで。

 いや割とマジで。


「ユリア?」


「あらアルダール。珍しいですね、どうしたんですか?」


「君こそ書庫に足を運ぶなんて滅多にないんじゃないか?」


 空いた時間になんとなく娯楽用の本が欲しくて書庫に足を延ばしたところ、用事を済ませて出たらなんと出入り口付近でアルダールに出会いました。

 どうやらお互い気が付かないうちに、同じ時間帯に書庫を利用していたようで……ファンディッド家の書庫みたいに狭い場所ならともかく、王城の書庫となるとこうして顔を合わせることもない、なんてこともあるんですねえ!

 それにしても珍しいと言われましたが、たまには私だって直接足を運びますよ?

 筆頭侍女として人にある程度の本を頼むことはあっても自分で探したい日もあるんですよ。特に娯楽系の本となるとね。


「そういえば、アルダール知っていますか? 王子宮に新しい執事が加わった話」


「え? ああ、そういえば見慣れない執事が王太子殿下に付き従っていたような……」


「ええ、ニコラスさんという方です」


 変に絡まれているところをアルダールに見られて妙なことにならないうちに、ちゃんと言っておいた方が良いですよね。

 とはいえミュリエッタさん対応担当が王太子殿下付になって、どうにも得体の知れない人で、国王陛下がつけたらしい……など色々どこまで話してよいかわからない人ですので当たり障りなくというとこの辺りまででしょうか。


「あまり私は得意なタイプではないですが、どうもセバスチャンさんとは縁戚にあるようですのでもしかしたら王女宮でも会うことがあるかもしれません」


「そうなんだ。わかった、覚えておくよ」


「あっそうそう、マウリアさんから先程荷物が届いたんです! 後でお届けしようかと思ったんですが、もしお時間あるなら、その……」


「あ、そうなんだ? 思ったよりも早く届いたね。じゃあディーンの分も合わせて受け取らせてもらおうかな。ごめんね、ユリアの部屋を届け先にして」


「いいえ、私は個室ですしその方が便利ですから」


 平穏ばんざい!

 どうですか、この穏やかな生活。


 やっぱり、平和が一番です。うんうん、平穏ばんざい。もう一度そう心で唱えて、アルダールと書庫から戻ったわけですが。

 私は思わず足を止めました。顔が引きつらなかったか心配です。


 だって、私の部屋の前。

 そこで壁にもたれかかるようにして、白い髪の小さな子供と話す執事服の青年、だなんて。


 クリストファと、ニコラスさん以外いないじゃありませんか!

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