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帰ってきました! 王城です!!
はー、やっぱりなんだかんだ言って実家と同じくらいの年月を過ごし、というか活動内容の濃さで言えばこちらの方が高いからもう一つの実家とも言えちゃいますよね王城。王城が実家ってすごくない? かなり違うんだけど、それっぽくない? 勿論そんなこと口には出しませんけどね! 不敬になっちゃうからね。
まあ王女宮にいるみんなが家族同然っていうのは本当です。
お土産の品は残念ながらまだ手元になく、プリメラさまにもちゃんと謝罪はしたんだけどね。
もうそのお返事が天使で……いや大天使で……!!
「いいのよ! ユリアが元気に帰って来てくれただけでプリメラはとっても嬉しいんだから!」
もうどうよ! うちの姫さますごいでしょ!? 可愛いでしょ!!
ああーもうこれだけで癒される。この帰省と旅行の日程、楽しかったけど同時に色んなストレスもあったから癒される!
ただ、途中ミュリエッタさんに会ったこと、そのことで少々トラブルがあったこと。
貴族としての心構えの問題であろうことからキース・レッスさまから宰相閣下とバウム伯爵さま、そしてひいては国王陛下に話が行くであろうことはお伝えしました。
国が選んだ英雄が取った行動、それを人がどう捉えるのか。
色んな配慮とか出てくるんだろうなぁとは思いますが、その現場に居合わせたものとしてプリメラさまにはご報告させていただきました。
口止めもされませんでしたしね。
王女宮の中という限られた空間だから話せるというのもあるんですけど、本当は少しは話をするべきか悩んだんです。
だけれど、プリメラさまは王女という立場をしっかり自覚しておいでです。
関わりのあった相手のこと、そして王族の選んだ英雄のこと、そういうことは耳にしておいても良いのかなと思いました。
不必要な情報かもしれませんが、恐らくは両陛下が報告を受け、王太子殿下も別口で報告を受け……となってプリメラさまだけ知らされないなんてことになって欲しくない、と思うのです。
ですがプリメラさまは公的に政治的お立場があるわけではないので、なにができるわけでもないですが。それでも王族として、……と思ってしまうのは私のエゴなのでしょうか。
プリメラさまは、私の心配をよそに話を聞いて少し思案気でしたが落ち着いておられました。
「……そう……。中々に平民から貴族になるというのも、簡単なものではないのね」
「さようですね、環境はがらりと変わりますので」
「わたしに、お父さまたちが求めるものはないのだと思うけれど知っておけて良かったと思うわ! ……それで、あの。ユリアは、大丈夫……?」
「はい、私は大丈夫です」
怪我をしていないか心配してくれているんだなぁと思うとほっこりしましたが、プリメラさまはふるふると首を左右に振りました。
おや? 違う……?
ちょいちょいと手招きされるままに顔を寄せると、プリメラさまは私の耳元に口を寄せてきました。
「あ、あのね? かあさまが、心をもらったのは……プリメラのためなの?」
「えっ」
「それとも、バウム家が、プリメラの為にかあさまを迎えようとしているから、なの……?」
「プリメラさま……!?」
どこでそれを耳にしたんだろう、そんな妙な噂話なんてこんな王宮まで届かないと思っていたのに!
そもそもそんな話をセバスチャンさんたちが信じるはずもないし、信頼度の低い話を王族の耳に入れるなんてもってのほかだし、そういう話もありますよ、なんてあえてプリメラさまに聞かせる理由もないし。
私が動揺したのを別の意味に取ったのか、プリメラさまの眉間に皺が。
ああああダメですよ、眉間の皺は癖になるんですからね!
「もし、そうならプリメラがちゃんと言うわ。かあさまを守るためなら、わたし王女として言うわ!」
「お待ちください、プリメラさま!」
「だって! プリメラのためって言いながら誰かが傷つくならわたし、王女さまなんだから止めなさいって言わなくちゃ……!!」
「そうです、プリメラさまは王女であられます。ゆえに、その発言の重みを今一度、お考え下さい」
「……」
私が言えばそれまで怒った顔をしていたプリメラさまがくっと息をのんで悔しそうに唇を噛み締められました。ああ、こういうところ、まだまだ子供だった。
そうだよね、立派な王女さまになってみせるからって言ってくれてからずっと努力を続けて完璧なプリンセスでいてくれる、可愛いプリメラさま。
だけど、まだまだ自分の身近な人間のことで感情があっという間に振り切れちゃう、そんな普通の女の子でもあるのよね。
「プリメラさま、まず私の話を聞いていただけますか?」
「……うん」
「ご心配いただきありがとうございます、とても嬉しいです。プリメラさまの優しさが、ユリアはとても、嬉しいです」
「……ほんと?」
「はい、勿論です!」
私が嬉しかったのは本当。
だって、プリメラさまの“大切”な人間の一人に私がいるからこそ王女としての立場を使ってでも守ろうとこの守ってあげるべき女の子が思ってくれた気持ちだもの。
だから、その感謝の気持ちは正直に伝える。これって大事なことだと思うんだよね。
「ですが、プリメラさま。そのお気持ちは嬉しいですが、王女としての権を振るうなどとお声に出してはなりません。たとえそれが事実であろうがなかろうが、プリメラさまのお言葉はそれだけ重さを伴うのです」
「……うん……」
「ご理解いただけて、ユリアは嬉しゅうございます。それに、その、もしプリメラさまをバウム家にお迎えするためにアルダールが私に歩み寄ったのだとして」
こほん。
段々恥ずかしくなってきて、思わず咳ばらいをすればそれまでしょんぼりしていたプリメラさまが瞬きをしながら私の方を見上げていた。うっ、可愛い……。
「そ、その。今は、ええと、ええ。まあ。自惚れるわけではございませんが、その、私たちは私たちのペースで、上手くいっていると……その、思っておりますし。きっかけがどうだと考えるよりも、これからのことを考えるので十分だと思いますし、彼もまたそのように思ってくれているのではと……」
「……それって、どういうこと?」
「ど、どういう?」
「ユリアは難しい言葉で煙に巻こうとしてる!」
「そのようなことはございませんよ!?」
いや、まあ恥ずかしくてしどろもどろにはなったと思うけどね!?
だけどプリメラさまはすごく真面目にじぃーっと私を見てくるわけですよ。ええ、そりゃもうこの無垢で純真で真っ直ぐな眼差しですよ。
それに応えたいといつだって思ってきたわけですから今回だってそうですよ!
でも恥ずかしいじゃん!?
「……つ、つまりですね」
「うん」
「きっかけがなんであれ、今は私がアルダールのことをちゃんと好きだと思っています。そして、少なからず彼も同じように思ってくれていると、信じています。ですから……ええと、まあ、その。噂は噂です、ご心配には及びません」
「なら、いいわ!」
にっこり笑ったプリメラさまは、いつもの天使なプリメラさまだった。
ほっとしたけど、これってやっぱり行き過ぎたらまた『悪役令嬢プリメラ』の影がちらつくフラグ……なんてことないよね? 気をつけよう……!!
「あのね、わたしね、ユリアが幸せなら嬉しい!」
「ありがとうございます」
「それにユリアから恋のお話が聞けるなんてとっても素敵だった! うん、プリメラ、王女として、なんて偉そうなこともう言わないわ。そうよね、そんなこと言って間違ってても王女さまだもの、簡単に撤回なんてできないし……きっとそんなことをするわたしのこと、ディーン・デインさまだって嫌いになっちゃうかもしれないし」
「それはないと思いますけど」
「ええー」
私たちのやり取りを、後ろの方で耳にしていたセバスチャンさんが小さく噴き出したのを私気が付いてますからね!?
ここにメイナとスカーレットが同席していなくて、本当に……本当に良かった……!!




