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ギルド、と案内された場所は大きめの建物でした。
といっても街の中にあるから普通の家よりも少し大きい、商店で考えたら中規模、といったところでしょうか?
私が想像していたのとはなんだかちょっと違いました。
鎧とかを着こんだ色んな冒険者でごった返していたりお酒を片手に受付嬢に俺強いんだよアッピールしている人とか、新人見つけていびり倒してやろうと待ち構えているような人とかはいませんでした!
むしろ清潔感に溢れているロビーっていうか、そこに受付帖みたいのがありましてね? そこにまず必要要項を記入して、希望の受付窓口に提出するようです。
依頼をしたい方はこちら、依頼を受けたい方はこちら、みたいにカウンターが分かれていてなんていうんでしょう。
うん、前世の市役所を思い出すっていうか。
そんな感じでしたよ……? あれぇ、剣と魔法のファンタジー世界に私いるはずなんですけど。
ま、まあ現実的に効率を考えたらこういう形になるのかもしれません! よくわかんないけど!!
私たちは正面から入りました。裏口もあって、色々道具とかの搬入をする際はそちらなんだとか。
まあ普通に考えたら何かあった時に裏口とか出入り口は正面以外にあってもおかしくないですからね。そういう意味でも商店と造りは似ているのかもしれませんね。
とはいえ、私たちは入って正面にあるカウンターでお話を……なんてことは当然なく、捕えられた冒険者たちと共に二階の部屋へと案内されました。
地下に保管庫。
一階が受付や事務室、他に座学の講習部屋。
二階は来客室、来賓室、会議室。
三階にギルド長の部屋、という造りになっているんだそうです。
「良いんですか? 内部の説明をしても」
「問題ありません。一般の方を含め今後ともギルドとのお付き合いをしていただくことを考えれば、明瞭にしておくもんだというのがギルド側の意見ですしね! ……我々自警団に協力するギルド員としても詳細を話すわけではありませんから、大まかに説明する分にはむしろ迷子にならないでいただけるというものですし」
「……迷子になる方が?」
「ええ、依頼主や新人が時々ですがね。まあ迷子のフリで重要な書類や、納入品、或いは貴重な保管品や危険物などに手を出そうとする間抜けもいるといえばいますが……そんな大事なモノを簡単にはいそうですかと差し上げられるほど我々も抜けちゃいないと思いますよ」
快活に笑って案内してくれたのは自警団と一緒に現れた人でしたけれど、エスコートしてくれる所作はとても洗練されてるんですが言葉遣いがなんだろう、ちょっと丁寧なメッタボン?
この方も生粋の冒険者で、貴族とか商人たちとそれなりにお仕事をしたことがあるんでしょう。
通された部屋は二階の広い会議室でした。
そこに縛られた冒険者たちも椅子に座り、私たちが座った前にはほどなくして事務員の方がティーセットを運んできてくださいました。しかもクッキー付きで。あら好待遇!
とはいえ、落ち着いているってわけでもないんですよ。相変わらず意識のある酔っ払いの方々には睨まれてますし。
いくら縛られて、そして自警団と一緒にいた冒険者の方々が彼らを見張っていてくれているとはいえ睨まれていて紅茶を飲みつつクッキーを頬張るなんてできるほど私は度胸があるわけではありませんので……表面上冷静を装っておりますけれども内心はなんで別室にしてくれないのさと悪態をつきたい気分ですね!!
事情聴取だけでしたら別にそれぞれで話を聞くんで良くない? ねえ。
ゆらゆらと湯気を立てる紅茶は美味しそうでしたし喉は乾いていたし外は寒かったしでとりあえず飲むことにしましたが、酔っ払いさんたちの方は見ないことにしました。
幸いなことにテーブルの端と端でアルダールを壁にするようにしてしまえばまあ、なんとなく見えないような見えるようなやっぱり見えるわ。
とはいえこちらからもじろじろ見るわけじゃないですし? 不可抗力ですし!?
「お待たせいたしました」
それからそう待つこともなく、一組の男女、そしてキース・レッスさまとメレクが現れました。現れた男女は渋い顔をしてましたね、ええまあ不祥事的なことですから責任者の方と思うので恐らくこのギルドの偉い方なんでしょう。
そしてキース・レッスさまが呼ばれたのは領主だから、で。
メレクはキース・レッスさまと一緒だったから、でしょうねえ。
勿論被害者が我々であるという点が大きいのだと思いますけれども。
でも何にも心配なんかしてませんでしたっていう余裕というかキース・レッスさまの笑顔が若干こう、いらっとですね。ええまあアルダールがいますから? 怪我なんてしてませんけど?
でも怖い思いをちらっとでもしていないわけじゃないんですからね!!
(まあわかってますよ、貴族は見栄と体面。例え心配していたとしても、領主としてここで狼狽えるだなんてことはしてはならない。そういう意味ではキース・レッスさまはあの笑顔でまったく読ませないんだから、その点はメレクが学ぶところなんでしょうね)
なにせ、メレクったらなんとか表情をきりっと保ってますけど不安そうに眉を寄せているし視線はあちらこちら彷徨っているし……そんなんじゃあ百戦錬磨の商人とかの良いカモになっちゃいますよ! 心配だなあ! 素直な弟、可愛いけど!!
「……えっ」
思わず、その後に続いて入ってきた人物を見て私は声を漏らしてしましました。
だってそれは、薄紅の髪を持った美少女で。
どうしてここに呼ばれたのかまるでわかっていない、という雰囲気で目をぱちくりさせた、ミュリエッタさんだったんですもの。
あちらもアルダールと私の姿を見つけて驚いたようですが、すぐに満面の笑みを浮かべて手を振ってきたのでちょっと躊躇ってから私は手を振り返しました。アルダールは気が付かないふりしてましたけど。
いや気付いてるよね? 完全スルーするのはどうかな!?
ううん、いやこれわざとだろうなあ、あの時も名乗らなかったことに多分意味があっただろうし、立ち回りもよく考えたらあの実力差でアルダールが自警団の到着を待ったことに何か意味があったんだろうし……。
ミュリエッタさんは笑顔でこちらに歩み寄ろうとしましたが、それをギルド職員の方が声を掛けて留めました。そしてその後ろには、縮こまったウィナー男爵のお姿が。
(……うん?)
これはまあ、普通に考えて先程のトラブルに関して、なんでしょうけれども。
なんで都合よくウィナー父娘がここにいるのか、とか。
キース・レッスさまとメレクはどこでこの話を聞いてやってきたのか、まさか仕組まれてないよな? とか。
最近トラブル続きで大人ってコワイとか思っていた私の脳内を色々な疑問が駆け巡ったわけですが……。
誰かが素直に答えてくれる、とはこの状況では思えません。
ああ、メレクが微妙な顔でどうしていいのかその気持ちよくわかります。
(とはいえ、私はここで動揺を顔に出したらいけないのよね? 多分)
そしてアルダールが黙することを選択しているということは、私も同様に振る舞うのが適しているんでしょう。
そのくらい空気読めるよねっていう空気ですよええもう空気空気ハイハイ!
とか茶化せるだけのチカラはないので大人しくしておりますが。
正直、この面子で碌なことがなさそうって思っちゃうのはいけないことですかね……?
普通に考えてあんまり楽しくない感じですよ、頭を使わなくたってわかりますとも。
「それでは、当事者が揃ったということで今回のトラブルに関して事情を各自にお伺いしたいと思います」
そしてみんながテーブルについたところで、ギルド職員の男性が重々しくそう言ったのでした。




