表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

208/644

206

 弱音というか。

 ちゃんとした大人でなくては、といつも私は思っているんだと感じています。

 大人って何だろう? から始まって、弱音を吐かないで頑張る姿っていうのが理想なんじゃないかな。

 実際にはそんな人間いやしないと思うんだけどね。だって人間だもの。


 前世の記憶があるのも関係しているのかなと思ってはいますが、そこまでちゃんと考えたことはなくて……なんて言うんだろう?

 日々を生きるのが精一杯っていうか。


 ご側室さまに出会えて、プリメラさまに仕えて、幸せで。

 だからその幸せを手放さないように、でも私は平凡だから、人一倍努力をしてなくちゃいけなくて、それは弱音を吐いている余裕なんてなかったし、強がりだって必要だったんだと今は思います。


 そんな私に対して、アルダールは困ったように笑っていました。


「……でも、怖い思いをしたんだったなら、私にもっと甘えてくれていいんだよ?」


「だって」


 だって、それは。あの時、アルダールはそばにいなかったんだから、どうしようもなくて。

 実際に、私は無事で、確かにエイリップ・カリアンさまに腕を掴まれて怖いと思ったのは事実で、アルダールがいてくれたらってちらりとも思わなかったといったら嘘になるけど。


 怖かったの。そう甘えて、良いのだろうか?

 何もなかったのに、彼のせいじゃないのに。


 だけど。もし、許されるなら。


「……少しだけ、怖かった」


「うん」


「少しだけ」


「うん」


 でも、言葉にしてみたら。それはすとんと私の中で、落ち着きました。

 怖かった、助けて欲しかった、ほっとした、そんな感情は言葉にはなりませんでしたがきっと彼にはわかったんでしょう。

 そのまま引き寄せてくれて、抱き留めてくれました。

 恥ずかしいはずなのに、温かくて、優しくて、ああやっぱりすごいなぁって思っちゃって。


「……アルダールを、すごい、って私言ったでしょう?」


「え? あぁ、そうだね」


「私、……家族と仲が悪いわけじゃないですけど、すごく良かったわけでもないんだなってようやく向き合うようにしようって思ったんです。アルダールが、家族と向き合ったのを見て、私もできるんじゃないかって勇気をもらったんです」


「私が? ユリアに勇気を?」


「ええ」


 私の為に、と家族と話をして手を借りるまでしてくれたアルダールに、家族と向き合ってちゃんとできている彼の姿に。

 知らない間に、私も、なんて思ったんです。

 

「お父さまが私のことを愛してくれていても『不器量だ、働くしか道がないなんて可哀想だ』って言うたびにそんなことはない、幸せだって……手紙とかで伝えてきました。でもそれは、ちゃんとお父さまの目を見て、私の気持ちを正直に伝えたとは言い切れなくて。心のどこかで、親なんだから理解してくれて当然だって思っている部分があって」


「……うん」


「お父さまが仰ることは、何もおかしなことはないんです。領地持ち貴族の長女ですもの、一般的に言えば早々に婚約者を見つけて嫁ぐのが当たり前で、……だから、お父さまは間違ってはいない。私の方が、珍しいんですもの」


 そう、私の考え方が前世に影響されているんだろうなっていうのは自覚している。

 働く女の何が悪い、って開き直って。プリメラさまのおそばにいることが楽しくて!

 でもそれは、あくまで私の都合。


 一般的な考えと違う娘を持つ父親の苦悩を、見ないふりをして『親なんだから』って考えを押し付けていた私の逃げ。


「それで、ちゃんと話せばきっとなんとかなるって思ってて。でも上手くいかなくて……結果としては、パーバス伯爵さまたちがいたから逆に話し合えたり見えたりした部分があって」


「うん」


「ごめんなさい、……変な話をしてる」


「いいよ」


「アルダールが、私に、きっかけをくれたの」


 それは、ちょっぴり苦しいことだったけれど。

 お父さまの気持ちも、お義母さまの気持ちも、知れて良かったと思えています。

 なんでこんな複雑なことを、簡単に解決できるって思ったんだろう?


 そう思うと、ますますアルダールが家族と向き合うってちゃんとしたのが凄いなって思うんですよ。


「エイリップ・カリアンさまが仰っていたことは、城内でも噂になっていたから知っているの。だから、今更傷ついたりなんてしない。もし、とか考えなかったわけじゃないけど……」


「けど?」


「私は、……アルダールのことを、私が好きなんだっていう気持ちがあるから」


 疑うというよりは、自分に自信が持てなくて最初の内は傷ついた。

 だけど、それはあくまで自分に対しての問題であって、アルダールに疑心を……とかはなかった。

 どうしてこの人は私のことをこんなに大事にしてくれるんだろうって、ドキドキすることはあるけどね!


「そりゃ、すごい美人にはなれないし照れてばっかりで恋愛初心者すぎるし、名前を呼ぶのだって随分と時間をかけてしまって……その、迷惑をかけてばっかりだけど」


 あれ? 何を話そうと思ったんだっけ。

 段々と纏まらなくなってきた思考に困ってしまった私を見て、アルダールがふっと笑った。


「アルダール?」


「私も、ユリアが好きだよ。ありがとう」


 好きだ、と改めて言葉にされた上で掠めるようにキスされて、その流れるような動作に思わず見惚れてしまいますけど今されたの私だ!

 熱が上がってくる感覚に思わず離れようと身を引こうとしても、それはできなかった。


「やっぱりアルダールは、すごいですよ」


「そう?」


「……こんな私を、甘やかしちゃうんですからね」


「恋人を甘やかしたいっていうのは、普通だと思うけどね」


「それはそうかもしれませんけど。……やっぱり手慣れてる?」


「へぇ、そんなことこの状況で言い出すんだ?」


「あっ、やっぱり今の無しで」


 にっこり笑顔が怖くなる!

 やらかした!! そう思った瞬間に、アルダールがぎゅぅ、と抱きしめてきて、あっこれマズいと思った時には弁明の機会もなく唇が重ねられる。

 あっ、ほんとこれダメな奴だ!

 私が何も考えられなくなっちゃうやつだ……!!

 

 身の危険を感じて突っぱねようにもアルダールと私じゃ力の差が歴然としているわけで、下がろうとすれば抱きしめる力が強くなるしだからって身をゆだねてとかそんなのちょっと無理無理無理!!


「またすぐ逃げようとする」


「と、当然です……! こ、ここどこだと思ってるの!」


「馬車の中」


「それはそうだけど、そうじゃなくて!」


「……うん、まあ。キース殿にも紳士の振る舞いを、とは言われてるからなあ。自重しようか」


「是非!!」


「嬉しそうなところが問題かなあ」


 苦笑するアルダールですが、私にとっては身の危険をこういかに安全に回避するかって話なんですよわかりますか!

 必死になる私に、呆れたように笑うアルダールでしたけどちゃんと引いてくれました。こういうところが紳士ですよね、ありがとうございます!!


「ね、アルダール」


「なんだい」


「私の為に、怒ってくれて、ありがとう」


 そっと、この気持ちは伝えておかないと。

 今更、遅くなってしまったけど私がそうやって言葉にすれば、彼はちょっとだけ驚いたように瞬きをしてからまた笑ってくれました。


「……どういたしまして」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよろしくお願いします!

魔法使いの名付け親完結済
天涯孤独になったと思ったら、名付け親だと名乗る魔法使いが現れた。
魔法使いに吸血鬼、果てには片思いの彼まで実はあやかしで……!?

悪役令嬢、拾いました!~しかも可愛いので、妹として大事にしたいと思います~完結済
転生者である主人公が拾ったのは、前世見た漫画の『悪役令嬢』だった……!?
しかし、その悪役令嬢はまったくもって可愛くって仕方がないので、全力で甘やかしたいと思います!

あなたと、恋がしたいです。完結済
現代恋愛、高校生男児のちょっと不思議な恋模様。
優しい気持ちになれる作品を目指しております!

ゴブリンさんは助けて欲しい!完結済

最弱モンスターがまさかの男前!? 濃ゆいキャラが当たり前!?
ファンタジーコメディです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ