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『ユリア・フォン・ファンディッド子爵令嬢


 雪降りしきる日々、貴女はいかがお過ごしでしょうか。


 ご家族とはのんびりと過ごせているかしら?

 貴女のことだからついつい細々としたことを自分でしようとして使用人たちを困らせているのではないかしら。目に浮かぶようです。

 今回セレッセ領で開かれる祭にキースが是非招待したいということで、貴女へのご褒美も兼ねてアルダール・サウル・フォン・バウムを護衛につけることにいたしました。

 明日までは近衛隊から派遣された護衛として数え、その後はセレッセ家から来る護衛に引き継ぐこととなりますので小さな旅行と思って楽しんできてくださいね。

 勿論二人でなどと外聞の悪いことではありません。

 招待されるのは貴女と弟の二人です。ファンディッド子爵には話を通してあるとキースは言っていましたから、安心してください。


 名目上はアルダール・サウル・フォン・バウムは分家当主として経験を積むために、旧知の間柄であるセレッセ伯爵領を本人同行のもと休暇を兼ねて視察することとなっています。下種な勘繰りに対しては十分な牽制になるでしょうからそちらも安心してください。

 祭の土産話など、戻った時にはプリメラにしてあげてちょうだい。

 

 それと、あまり羽目を外さないようにキースへ注意はしてありますが、あの子は元々こうした賑やかなことが大好きだから付き合ってあげてちょうだいね。

                                         離宮の主より』



 王太后さまの紋章で封印された手紙は、美しい銀糸を混ぜ込んだ便箋に美麗な字で認められていました。

 え、なにこれ。

 え? なんだって?


 ……つまり? なんだって?


(アルダールと一緒に、セレッセ領に旅行してこいって?)


 思わず手紙を握りしめたまま、アルダールを見る。彼は説明を受けてきたんだろう、動じる様子もなく私ににっこり笑顔を見せてきて、えええ、なにその余裕っぷり!?

 どういうこと!? どういうこと!?

 混乱する私ですが、勿論まあそれを表情には出さないっていうか、お父さまには話が通ってるってどういうことなのかとかもう、えええ。


 アルダールから視線をお父さまに向ければ、お父さまはお父さまで便箋を手にぶるぶる震えていました。

 でもその顔は赤らんでいて喜んでいるなぁってすごくわかるので、どうやら王族から直にいただけたお手紙に感激している……ってところでしょうか。

 これは今問い詰めても何も答えてもらえないっていうか耳に入らなそう。


 じゃあもう、この人に話を聞くしかない。ちゃんと話してくれるのか謎だけど。

 っていうかこれ、メレク知らないんじゃないの? メレクにも話すべきなんじゃないの!?


「……キース・レッスさま、メレクとお義母さまもこの場に呼んで構いませんか? その上でご説明をお願いいたします。手紙では詳しい話は貴方さまから聞くようにと記されておりましたので」


「おや、そうか。構わないよ、パーバス一家はそのまま待機していただこう! レジーナ、メッタボンもここに呼ぶといい」


「かしこまりました」


 私のそばを付かず離れず、見事に護衛役としての任務をこなしていたレジーナさんが柔らかく微笑んでいるところを見ると、彼女も知っていた……!?

 いや、これが元々の計画だったんなら聞かされていてもおかしくない!

 途中でアルダールに護衛の役を交代するってわかってるから休暇期間中でも問題なく二人してついてきてくれた……ってところ? 交代したら二人っきりになれるしってこと?


「驚いたみたいだね、まあ……私も急に聞かされて驚いたんだけど」


「アルダールがこの話を聞いたのはいつ?」


「出立前。近衛隊長と親父殿に呼び出されて王太后さまの命令に従えと言われたときは何事かと思ったよ。まあ、私としては悪い話じゃないなと思ったけどユリアはどうかな?」


「そ、それは……ええと、まあ、貴方に会えたのは嬉しいですけど」


「そう、良かった。私も会いたかったよ」


「えっ、いえそういうのはこういう場では……っ、キース・レッスさま! 笑わないでください!!」


「いやいや、アルダールがこういうやつだとわかってはいたんだけどね。慌てている君が新鮮でつい! すまないユリア嬢!!」


「キース殿、私としてもお聞きしたいんですがいつの間に彼女と名で呼び合う仲に?」


「おっと藪蛇か……」


 アルダールがキース・レッスさまを見ると、苦虫を嚙み潰したような表情をあちらは見せて、それで少しだけ私も落ち着く。なんとなく状況には追い付けないけれど、とりあえず悪いことになっているわけじゃない、というのがありがたいというかなんというか……。

 そうこうしている間にレジーナさんが、メレクとお義母さま、そしてメッタボンを連れて戻って来てくれて私たちは思い思いの場所に座り直しました。


 お父さまはまだ夢見心地って顔してますけど。若干それを見てお義母さまが引きながらもその隣に座る姿がなんだかおかしくて、身内の贔屓目でしょうがうちの両親はもしかしてちょっと可愛い人たちなのかもなぁなんて思ってしまうのはだめですかね?

 お義母さまは状況がわからなくて視線をうろうろさせていますが、メレクはアルダールを見てなんともいえない複雑な表情を見せて……あー、うんごめんねなんかごめんね!?


(いや私が悪いわけじゃないし、アルダールが悪いわけでもないんだけど。急に家族の恋人が家にいたらそりゃびっくりするよね! 多分!!)


「ではお集りの紳士淑女の諸君、お時間をいただくようで心苦しいがこのキース・レッス・フォン・セレッセよりご挨拶申し上げる……などという口上はここまでで良いかな? さて、ファンディッド子爵には前もって説明させてもらい今まで口止めをさせてもらったのだが、今回我がお転婆の妹オルタンスをファンディッド家で迎え入れていただくためにそちらの家族が思案してくださっていること、まずは家族として御礼申し上げる」


 キース・レッスさまがまるで歌うように一気にそこまで喋って、私たち全員を楽し気に見回す。

 アルダールは呆れたように、メッタボンはつまらなそうに、他のみんなもそれぞれの反応があるけれど、私はただ見返しただけだった。


「ついては下手に悩むよりも、我が領の街がひとつにオルタンスが幼い頃に懐いていた人物がいてね。年齢を理由に辞した、私たちの乳母がいる街だ。そこでメレク殿が直接彼女からオルタンスの好きなものや色々な話を聞いてみるといい。私たちでは気づけないことにも気づくかもしれないし、参考までに、ね?」


「キース・レッスさま……」


「それとユリア嬢にこの旅行を贈るのは、金銭でしか褒賞を与えることができなかったことに対する王太后さまと王女殿下のお心遣いだ。勿論、アルダールにも、というところかな? 紳士の振る舞いを忘れずに頼むよ!」


「勿論です」


 即答したアルダールに、私はどう反応していいかわからない。

 ええ……色々公認な旅行って。いやメレクも一緒だけど。お父さまが先に知っていて口止めって。どんだけサプライズしたかったのよ、キース・レッスさま!!


「まあ、名目上アルダールが私の領を見ることで分家立ち上げに役立てる……ということもあるのでね、レジーナとメッタボンはこれでお役御免ということになる。王太后さまよりお預かりの馬車と御者はそのままユリア嬢と護衛のアルダールが使い、私の家人に護衛されて向かうこととなるわけだ」


 そこで一旦言葉を止めたキース・レッスさまが、優しい笑みをメレクに向ける。

 お義母さまと、お父さまにも。


「ファンディッド子爵家が、オルタンスをどのように迎えてくださるか。私としては、できる限りの協力を惜しまないつもりだ。どうか、妹が幸せになれるよう、お互いよろしく頼むよメレク殿」


 そう、締めくくって。

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