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 お義母さまと話し合いをして、なんとなく分かり合えた翌日。


 お見送りのために外に出ようとした私たちですが、パーバス一家と向かい合うようにしてサロンでお茶会の真っ最中。勿論、楽しくなんてありません。


 なんでのんびりお茶なんて飲んでいるのかって?


 何故かお帰りになろうとするパーバス一家をキース・レッスさまが引き留められて、ニコニコ笑っていらっしゃってるからですよ!

 今のところその理由としては、私に対するアフターケアとして届く(・・)ものを是非パーバス伯爵さまにも分けて差し上げたいんだとか。


(本当かなあ? ……また面倒なことにならないといいんだけど)


 ニコニコ顔のキース・レッスさまですけど、私知っております。そういう笑顔の時って大抵みなさま碌なこと考えていらっしゃらないと、存じておりますよ! 王城でお見かけする政治家とか腹の探り合いをなさってる方々とか、リジル商会の会頭とか良い例ですからね。

 まったくもって何を考えていらっしゃるのかわからない笑顔の時ほど怖いものです。

 まあ私に今まで実害があったわけじゃありませんけど。


「ファンディッド子爵には先んじて私宛のものが届くと説明してあるのだがね、その際には土産をパーバス殿にもお持ち帰りいただこうと思った次第だ。そろそろ来るはずなんだが、お待たせして本当に申し訳ない」


「いやいや、セレッセ殿がご用意くださるとはなんともありがたいことじゃ。一体全体どのようなものであろうな?」


 結局何が届くのかは私たちも知らないんですけどね?

 お父さまがご存知かもしれませんが、あのご様子では詳しくは知らないっていうところでしょうが……今現在、胃が痛そうでその“ちょっと”すらお聞きするのは気が引けるような表情でいらっしゃるものですから。ええ。

 パーバス伯爵さまがおかえりになったら、気持ちが落ち着くハーブティーなど淹れて差し上げたいなあと思うんですよ。

 

 あの方々が去った後でしたら、今ならきっと家族全員で心穏やかに今後の予定とか話し合えるでしょうし……ってキ-ス・レッスさまはいつまでご滞在になるんでしょうか。

 お身内の方がいるところで顔合わせの内容を話し合うのは憚られますしね……。


 そうこうしている間に執事がやってきて、お父さまに何かを耳打ちしました。

 するとお父さまがものすごく驚いた顔をして、私を見て、それからキース・レッスさまを見ました。え、なんで私を見たの? すっごい形相でしたよ!?

「ゆ、ユリア、一緒に来ておくれ」


「私もですか?」


 お父さまに急き立てられるようにしてサロンから出る時、まあ当然ながらパーバス伯爵さまたちの視線の痛いこと痛いこと!

 一体どうしたことかとお父さまに聞こうにも、にんまり笑うキース・レッスさまが私とお父さまの背を押すようにして一緒に出てくるものだから……。

 まあ、なんだかわからないですがアフターケアの何かが届いたってことなんでしょうが。


「ほら、ユリア嬢。貴女が呼ばれた理由は階下にあるんだ」


「え?」


 キース・レッスさまが私をリードするようにして、階段下の、玄関ホールを見るように促してくるのでそれに従えば私は思わず目を疑いましたね。


「アルダール……!?」


 なんでここに!?

 だって、休暇はズレているからお互い会うのは休暇明けだねって話もしたんですよ。ファンディッド子爵領に発つ前の話ですけど! えっ、なんで? ほんとになんで?

 思わず手摺から身を乗り出して幻じゃないのを確認してしまいましたが、向こうも気づいて見上げてきて笑って手を振ってくるんですよ。もう幻なんかじゃない、本物です。


「な、なんでここに!?」


「ははは! 気に入ってくれたかな、王太后さまとバウム伯爵にちょっとお願い(・・・)をしたんだ。ユリア嬢は無欲な上になかなかに目が肥えた女性でいらっしゃるからね。アフターケアもそこいらのものじゃあ満足してもらえないと思ったのさ! やあアルダール、ご苦労さま!」


 快活に声をかけるキース・レッスさまは朗らかで、アルダールに対してとても親し気な雰囲気を出していて、先程までの胡散臭さがまるでありません。これが素なのか。

 そんなキース・レッスさまに対して、アルダールの方も柔らかく笑って手をあげ応えているからやはり仲が良いんですね。


「まったく、人使いの荒い先輩を持つと後輩は大変ですよキース殿!」


「おやおや、愛しい女性に会える口実を作ってやったと言うのに可愛げのない後輩だ!」


 慌てて階下に降りた私たちにアルダールはまずキース・レッスさまと握手をしました。それから私に貴婦人への礼として手の甲にキスを落とす真似をしてそのままお父さまに丁寧にお辞儀をしました。え、手は離してくれていいんですよアルダール。

 親の前でちょっとこれなんて羞恥プレイ。

 顔が赤くなるわどんな顔してお父さま見ていいかわからないわ、手を引こうにもアルダールががっちり握ってるし。どんな力だ! 痛くないのに抜けないって!!


「あ、あるだーる、あの、手をですね、離して……」


「ファンディッド子爵さまにはお初にお目にかかります。近衛隊所属、アルダール・サウル・フォン・バウムと申します。直にご挨拶することが遅れましたこと、お詫び申し上げます」


「あ。ああ……そ、その、初めましてバウム殿」


「ご息女とは親しくさせていただいております。すでにお耳には入っているかと思いますが」


「噂、ばかり、だけれど……え、えぇと、その」


「ファンディッド子爵、まあ可愛いご息女を掻っ攫おうという男を前に色々複雑だとは思うがまずは用向きを果たさせようと思うのだが、良いかな?」


「そ、それはもちろん……」


「それじゃあアルダール。王太后さまより預かっている書状があるだろう?」


 にんまりと笑ったキース・レッスさまが人差し指を立てるようにしてポーズを決める。

 それがあまりにも演技らしい演技なものだから、笑いを誘うはずなのになぜかこの状況では笑えなくて私としては苦い表情になったんだと思う。

 だってキース・レッスさまは私を見て面白そうに笑っていたからね!!


「はい、こちらに。……では確かに、キース・レッス・フォン・セレッセさまに書状、お渡しいたしました。それと、先輩が注文していたミッチェラン製菓店の品もきちんとお持ちいたしました」


「ああ、ありがとうアルダール。よくできた後輩を持って本当に私は幸せだなぁ!」


 いっそ清々しいほど白々しい。

 ちょっぴりそう思ってしまった私を許していただきたい!

 

 王太后さまの印が入った封蝋の、白くて綺麗な封筒をアルダールから二枚受け取ったキース・レッスさまは満足そうに頷いて一枚をまず開いてざっと目を通し、そしてもう一枚をお父さまに渡しました。


「ファンディッド子爵、王太后さまからキミ宛の書状だ。中にはユリア嬢宛の手紙も入っているだろうからそちらは彼女に」


「は、はい!!」


「私宛ですか?」


 王太后さまから私に。

 それってこの状況の説明ですかね!?


 お父さまが震える手でキース・レッスさまから書状を受け取り、恭しく掲げましたけどそこまでじゃないから。非公式だから。

 うん? でもよく考えたら王族から直接手紙を受け取るとかっていうのはよほどのことがない限り末端貴族からしてみたら栄誉なことで、ファンディッド家としても今までになかったことなのかもしれない。

 いやまあ、内容によると思うけど。内容が問題ですから!


「ゆ、ユリア。こちらがお前宛だね」


「ありがとうございますお父さま。……アルダール、手を離してください」


「しょうがないなあ」


「しょうがなくないですからね!?」


 まだ私、全然理解が追いついてないんですからね!?

 本当は問い詰めたいところを抑えてるんですから。


「とりあえずお父さま。このままでは落ち着いて手紙も読むことができませんから、サロンに戻るか書斎に行くかいたしませんか……?」


 そうですよ、私も動揺しっぱなしでしたけど何も立ったまま色々することないんだよね……!!

 アルダールなんてコート姿のままですから。


 私の提案にお父さまもようやく気が付いたのでしょう。慌てて侍女たちに指示を出し始めた姿を見て、キース・レッスさまが楽しそうに笑ったのでした。

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