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 説明されて納得はある程度しましたが、ミュリエッタさん関連のことを聞こうとしたらキース・レッスさまに小首を傾げられてしまいました。えええ、何その反応。

 なんで? って顔をされても……いや、気になるじゃないですか。ええ、気になるじゃないですか?

 あれっ? 私がオカシイの? 気にしちゃだめなのか!?


「まあ知りたいなら教えるが……彼女がパーバス伯爵の孫と縁結びの運びとなったところでユリア嬢にとって悪いことはひとつもないと思うんだが」


「それはそうですが」


「アルダールにちょっかいかけることもないし、キミに迷惑をかけることもないし。まあ、縁戚になるといえばそうだが直接的なものじゃないし、今回のことでより接触も減ると思うんだがね」


「それは……」


 まあ言われればそうなんですけど!

 あのエイリップ・カリアンさまに見初められるとかはちょっと、さすがに、ねえ? ミュリエッタさんだって望んでないと思うんですよ。そこまで不幸になって欲しいとか私思ったことはないですからね!?

 というか、キース・レッスさまは一体どういう風にミュリエッタさんを見ているんでしょうか。

 まあ、王城内であったことはこの方の耳に入っていると考えてよいと思うので、あまり好印象はないのでしょうけれども……でもでも、彼女はまだ貴族になりたての、言うなればひよっこ同然!

 そりゃ当事者としては面白くないこともありますけれども、できたら彼女にも平和な生活を送ってもらいたいと思っているんですよ、それは本音です。


(要するに、ゲームみたいな展開を望んだりアルダールにちょっかいさえかけてこなければ私としてはいいっていうか)


 ただまあ、そんな本音を明け透けにキース・レッスさまに言うわけにはいきませんから……。

 どうしたもんかな、と戸惑う私を見て、思うところがあったんでしょう。

 メレクがしばらく私を見つめていたかと思うとキース・レッスさまの方に視線を向けました。


「僕は関係が出てくるのでしょう、そのウィナー嬢がエイリップ殿と婚姻を結ばれたとなれば」


「うん? いやまあ、そうだが。そうなったとしても今回のことがある。あのご老体がどのように孫を扱うかは……」


「縁ができればそこからまた姉上にご迷惑がかかる可能性もある。そういうことなのでしょう? セレッセ伯爵さまは姉上と、パーバス家との縁が途切れた、そこに嫁げばウィナー嬢との縁も途切れる。そうお考えなのでしょうが、最悪の事態を常に想定せよと教えてくださったのもセレッセ伯爵さまです」


「む……うぅん」


 メレクの真っ直ぐな言葉に、キース・レッスさまが曖昧に笑いそうになる口元を、手で隠されました。

 あっ、私なんとなく気付きましたよ?

 いいようになる、なんて聞こえの良い言葉で私たちを釣っておいて、裏で何かを動かすから『大丈夫』で聞かせるおつもりがなかったってこと……なんかじゃないですよね! なにその陰謀説みたいの!?


「まあ、正直なところウィナー家はまだどこの派閥にも属していない。公爵家が今は後ろ盾として教育に当たっているが、抱え込む様子もないのは事実。そして派閥と無縁の立場を公言しているバウム家と新人貴族が少々(・・)険悪な空気になったと噂も出たには出たが、それを補って余りある『英雄』というネームバリューは誰しもが欲しがっているものだ」


 苦笑しつつも、今度は真面目に話をしてくれるらしいキース・レッスさまは姿勢を正して、私たちに向かって少しだけ低めの声で話し始めてくれました。

 というか、貴族の情報網侮れないっていうか、バウム家と新人貴族が険悪ってそこまでじゃないんじゃ?

 噂には尾ひれがつくのがつきものとはいえ、少々手荒い洗礼となってしまったというのが現実でしょうか。


 まあ、自業自得と言われればそうなんですし、私が同情する謂れはこれっぽっちもないんですが。

 だってほら、一応初めて会った時には『貴族って面倒だからね! 軽い気持ちで行動しちゃだめだよ!!』ってのをやんわり伝えたつもりだったんです。伝えたつもりだったんですよ……?

 でもその結果があれでしたし、途中経過でもらった手紙とかでもうなんかちょっと色々脱力したっていうか、教育係さん頑張って……!! ってなったわけです。

 でもウィナー男爵もきっと悪い方ではないし、ミュリエッタさんは……もうちょっと現実を見た方が良いんじゃないかって心配になってきた。

 ゲームとは違うんだよ、わかってるとは思うけど。ゲームとは違うんだよ……!!

 ああ、ハラハラしちゃうのは同じ前世の記憶持ちである転生者だからなのか、それとも同じ【ゲーム】をプレイした仲間意識から来るものなのか?

 はたまた、同じ男性に“恋している”からなのか?


(自分でもよくわからない、けど……)


 でもわかっているのは、彼女はまだ年端も行かない少女。

 この世界で、貴族社会では成人として扱われてもおかしくない年齢ですが、まだ貴族になったばかりの冒険者、つまり平民の娘である彼女は考え方が幼く夢見がち、そう思うと心配にもなるというものです。


「パーバス伯爵も、孫に婚約者を決めていないのには理由が何かあるのだろう。あの年齢の直系男児に婚約者がいないというのは少々珍しくもあるが、まぁないわけじゃないしね。家長の意向がどうしたって色濃く出るのが貴族社会だ。そこは二人もよくよく知っていることだと思うが……」


「はい、存じております」


「ユリア嬢も、その年齢まで婚約者がいない。それを笑う者もいるだろうが、婚約者を定めずにいたのはファンディッド子爵が無理に話を進めなかったからだということをどう思っている?」


「……甘くも、優しいものだと今は思っております」


「そうか。メレク殿はどう思うんだ?」


「僕の婚約が済んでからと思っていたのではと」


 控えめに私に視線を送りながら、メレクが言いにくそうに答えました。

 まあそれも一つですよね。長女がとっとと持参金を持って嫁に行くよりも次期子爵の嫡男へ良き縁談を見つけるために財を使う方が貧乏貴族としては正直……ね。

 持参金を持って出て行った娘が良縁を持ってくるとは限らないんですからね、堅実に行くなら使い道は大事な方に、ってやつです。


「それでは遅いでしょう?」


「そ、そうでしょうか? 姉上は王城で仕事もなさっていましたので、良縁がそちらから来ると父上はお考えだったのかもしれませんね」


(そう、かなぁ)


 正直なところ、娘としては愛されていることを実感しましたけど私が不器量で哀れだと思っていたお父さまのその考えもねえ。あれ本音だから。きっとお仕事で生きるしかないなんて可哀想だけどその方がいいのかな、いやどっかの同じくらいの家格で欲しいって言ってくれる人もいるかもしれない! 諦めちゃだめだ!! くらいの気持ちだったんじゃないのかと思いますが。

 まあ無理矢理どうこうしようとは考えない辺り、お父さまの甘さであり優しさだと思うんですよ。


「まあ、そういう貴族間の“ややこしさ”からウィナー嬢がパーバス伯爵に目をつけられた、というだけでその競争率は計り知れない。ユリア嬢が私が話したことによって喜色を見せるなら、そちら(・・・)に手助けしてみようかとも思っていたんだが、そうじゃあなさそうだしね」


 止めておくとしよう。

 そう笑ったキース・レッスさまですが、私を見る目が随分と柔らかくなった? 気がする?

 なんだろう、また勝手に勘違いされて株が上がった気がする。

 いやいや、優しさとかそういうもんじゃないんですよ、前世の記憶っていう縁がですね……って言えれば納得もしてもらえそうな気がするんだけど言えるはずがないわー!!


「だがユリア嬢、方々を気にするのは大事だ。大事だが、キミはファンディッド子爵夫人と少し話をした方がいいのかもしれないね」


「え?」


「いや何、なんとなく。だけれどね?」


 ぱちん、とウィンクしたキース・レッスさまは、「それじゃあ失礼して休まさせていただくよ! おやすみ!!」と軽やかにサロンを退出なされましたが。

 ……カッコ悪い親子喧嘩をしよう。そう決めていました。

 そこの“親子”には勿論、お義母さまも含まれてますけれど……なんだろう。


 やっぱり、パーバス伯爵さま絡みで?

 でも私関係ないと思うんだけど? キース・レッスさまが言うことを無視することは容易いですが、あの方が仰ることはなんだか大事な気がしてなりません。これが鬼才の力?

 

 戸惑う私に、メレクも苦い表情を見せて口を開きました。


「……母上は、きっと姉上になら言えることも、あるんじゃないかなと思うんです。息子の僕が頼りないからか、わかりませんが……僕からも、お願いできませんか」


 ぺこり。そう音が聞こえそうなほど綺麗なお辞儀をしたメレクに、私は戸惑いが大きくなるのを感じます。


(……え、なんか物事が無駄に大きくなってない? 気のせい??)

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