表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/640

194

「わた、わたしが……しょだん、する、で、すか……」


 お父さまの声が、ものすごく震えています。

 レジーナさんに支えられている私から見てもお父さまの顔色が一層青ざめて、震えているのがわかるほどに。


 そして対するキース・レッスさまは先ほどまでの楽し気な笑みを消し、真面目な表情でお父さまに向かって頷いておられました。

 階下から、お義母さまとメレクも騒ぎを聞きつけてやってきたのでしょう。この奇妙な場にみんなが困惑した顔を見せました。

 

「そう、貴方が決めるのですよ、ファンディッド子爵。ここは貴方の領地であり、館であり、そして被害者はご息女だ」


「しか、し、……エイリップ殿、は」


「そう、パーバス伯爵の孫にあたる。だが、それだけだろう?」


「私、私が裁くなど……この館には今、パーバス伯爵さまもセレッセ伯爵さまも、おいでなのに……!」


「だがこの場で仕切るべきは君だ。お嬢さんを守ろうとした父親としても、領主としても、責任は果たすべきだろう?」


 諭されるように静かな声に、お父さまが私をじっと見つめた。

 震えながら、きゅっと唇を噛んでいるお父さまは悩んでおられるようで、私はどうしたらいいのかわからない。でも、お父さまはお父さまなりに答えを見つけたのだろうか、今もメッタボンによって手首を掴まれているエイリップ・カリアンさまに向かって、口を開いた。


 開いて、閉じて、を少しだけ繰り返して。


「……明朝、お帰り頂きたい旨をパーバス伯爵さまにお伝えいたします。エイリップ殿は今後、我が家への出入りを禁じさせていただく」


「な、んだと、貴様ァ……ッ」


「……ひっ……! き、貴君は確かに、パーバス伯爵さまのお孫さんだ。だ、だからこそ、出入り禁止を申し渡すだけで済ませたい」


「貴様ッ、貴様……おじいさまの、部下の分際でェ……!!」


「……メレクの婚儀も控えている我が家では、親戚であるパーバス家と断絶のような真似はしたくないんだ……」


 思わずメッタボンが押さえているのにエイリップ・カリアンさまが唸り声をあげればお父さまは短く悲鳴をあげていましたが、ぼそぼそとご自分の考えを述べられました。

 お義母さまが、そんなお父さまを見つめて同じように青ざめておいででしたが、そちらはメレクが支えてくれているので大丈夫でしょう。大丈夫かなぁ……?


「……お前も、私の、決めたことに、不服なら……」


 お父さまが、お義母さまの方を見て、悲しそうな顔をしました。どうしてそんな顔をするのと思わず言いそうになりましたが、キース・レッスさまが私の方を見ていたので大人しく黙りましたが……どこからどこまでがこの方の手のひらの上なのでしょうか!?


「ファンディッド子爵の決定が不服なら、お前も、パーバス家に戻っても良いから……ね?」


「……」


「勿論、異論は聞くよ。きみは、ファンディッド子爵夫人として今までも私を支えてくれた女性(ひと)だし、私の妻であるし」


「異論は、ございません」


 お父さまのどこまでも弱々しい発言に、お義母さまがはっきりと答えました。

 むしろお父さまよりも力強いような気がします。顔色は、……それはもう、酷い様子ですけれど。


「異論はございません、ファンディッド子爵夫人として、その判断を支持いたします」


「そ、そうか!」


 ぱっと顔を明るくさせるお父さま、できましたらもう少しこの場の空気を……いえ、なんと言いますか、味方が欲しかったんでしょうね。きっと荷が重いと思っておいでだったでしょうし。

 それでも一生懸命考えて、きちんとなぁなぁにせずに答えを出してくれたのは、キース・レッスさまがいたからなのか、私が怖い思いをしたからなのか……。

 人によってはお父さまのやりようは甘いと思うでしょうが、キース・レッスさまが満足そうにしておいででしたのできっとお父さまは及第点を取れたんじゃないでしょうか?


(だとしても……パーバス伯爵さまが、納得してくださるかどうか)


 勿論、キース・レッスさまがお父さまの意見を聞いた、支持すると仰ればこの場では多数決となるでしょう。遺恨が残らない、それが大事ですけど……。

 そもそもの、パーバス伯爵さまの目的がよくわからないままこんな状況になってしまって、私の足も生まれたての小鹿のようなままですし? レジーナさんに支えられてなかったらへたり込んじゃいますからね!

 多分お義母さまも同じような状況なのでは?

 メレクがものすごく何とも言えない表情で、とても強張った顔のままエイリップ・カリアンさまを睨んでましたけどそれは見えなかったことにしてもいいですか。


 もうね、私もいっぱいいっぱいなので。

 でも絶対後でキース・レッスさまに色々お聞きしないと気が済みません。

 どこまでわかってて、どこまでが計算の内で、我が家は利用されたのかどうかとか、聞いたら後悔するんでしょうか。はぐらかされる可能性だってあると思います。


 でも怖い思いをしたのは私で、お父さまが助けてくれたしメッタボンとかレジーナさんもこうして側にいてくれますけど、……あぁーなんか納得できない!!

 いやいや待つんだ私。キース・レッスさまが余裕ぶってるからそう勘違いしているだけで、本当の本当にただの偶然ってやつだったかもしれないじゃないですか。ええ、その可能性だってあるんです。

 なんでもかんでも外交官だから、鬼のような才覚をお持ちの方だから何かしら暗躍しているんじゃないかなんてフィルターをかけて人を見てはいけませんよね!


「それでよろしいかな? パーバス殿」


「……そうですなあ、どう見てもどうやらうちの孫がやらかしたようですからなあ」


「酔ってファンディッド子爵令嬢に絡むなど、少々ヤンチャが過ぎるようですな」


「ふっ、ふっ、孫の教育まではわしの管轄外でなぁ。親の仕事じゃからのう……とはいえ、このような不始末を仕出かすようではまだまだわしは引退できそうもないわ」


 階下から聞こえてきたのはパーバス伯爵さまのお声でした。

 この顛末を、ご覧になっておられたのでしょうか? それにしては楽し気な声ですし、キース・レッスさまは唇の端だけをこう持ち上げて笑うっていう、なんだか悪役のようですけれど。

 

「……明朝、準備が整い次第わしらは領地に帰るようにしよう。改めて謝罪と、詫びの品を贈らせていただくのでそれを受け取ってくれるかな? ファンディッド子爵」


「は、はい!!」


「当然パーバス伯爵家当主として、子爵の温情に感謝もした上で厳しく教育し直すと約束しよう。そして出入り禁止も当然のこととして受け入れよう。社交界でもしもお会いした際には近づかぬように、これも加えさせていただく」


「おじいさま!?」


 私が階下に視線を向ければ、パーバス伯爵さまが笑ったお顔が見えました。

 皺を深くして、それはもう、それはもう楽し気に……! 音にするならにまぁって感じでしょうか。


 ヒィ、妖怪がいるよ!?


 思わずそう思っちゃいましたけれども勿論声にも顔にも出しませんでしたよ!?

 私は空気が読める女、そうでしょう?

 いや、ちょっとビビって思わずレジーナさんにしがみつく手に力が入りましたけどね!


「引退も考えておったが、孫の教育もろくにできん息子にはまだまだ任せられんしのう……この老骨がきちんと、二人を、教育し直すとしよう……!!」


 パーバス伯爵さまの宣言に、エイリップ・カリアンさまが大きく目を見開かれました。

 キース・レッスさまが、小声で「やれやれ」なんて言っていたのできっとこうなるとわかっておられたのでしょうね?


 その後はキース・レッスさまがお父さまに声を掛けて、この場は解散となりましたが……私はレジーナさんに支えられたまま、去ろうとするキース・レッスさまに声を掛けさせていただきました。

 あちゃーみたいな顔をしてましたが、しょうがないよね、みたいなお顔も同時になさったので説明する気はあると思っていいんですよね……!?


 さあ! キリキリ! 話していただきましょうか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよろしくお願いします!

魔法使いの名付け親完結済
天涯孤独になったと思ったら、名付け親だと名乗る魔法使いが現れた。
魔法使いに吸血鬼、果てには片思いの彼まで実はあやかしで……!?

悪役令嬢、拾いました!~しかも可愛いので、妹として大事にしたいと思います~完結済
転生者である主人公が拾ったのは、前世見た漫画の『悪役令嬢』だった……!?
しかし、その悪役令嬢はまったくもって可愛くって仕方がないので、全力で甘やかしたいと思います!

あなたと、恋がしたいです。完結済
現代恋愛、高校生男児のちょっと不思議な恋模様。
優しい気持ちになれる作品を目指しております!

ゴブリンさんは助けて欲しい!完結済

最弱モンスターがまさかの男前!? 濃ゆいキャラが当たり前!?
ファンタジーコメディです。
― 新着の感想 ―
[一言] 妖怪じいさま、どっちに転んでも良いように動いてるように思いました。 都合がいい→自分の望んだ方向 都合が悪い→息子達の再教育や教材として みたいな感じで。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ