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プリメラさまの誕生パーティが差し迫る。
当然、招待客は近隣諸国の王侯貴族に自国の貴族とその家族だ。
王太子の生誕祭ともなれば国を挙げてのお祭りになるが、流石にプリメラさまの場合は大規模なパーティだけだ。
それでも恐ろしいほどの招待客のリストだけどね!!!
本当ならもうちょっと余裕持って書類とか書類とか色々準備とかするんだけど、自分の社交界デビューとか実家のこととか交じってきたからもう大変である。連日徹夜……とまではいかなくても必死です。
でもその前に、ディーン・デインさまとの約束があるわけです。
いやね、楽しみにしてたからね?
あの子犬のような男の子の初恋を勿論応援したいと心の底から思っているよ!
だってプリメラさまと並んでただ彼女だけに愛を注ぐ、護国の騎士とか萌えるじゃん?!
最近の手紙によれば(そして少し読める字になってきた!)プレゼントは大体目星はつけていて、本当なら商人を呼んで決めるとかなんだけどどうしても自分の足を運んで目で見て決めたいということらしい。
あと、最近プリメラさまがハマっている冒険奇譚をどうかと読書を勧めたところものすごくディーン・デインさまもハマったらしい。
アルダール・サウルさまがびっくりするくらい、修行修行だった男の子が夢中になって本を読んでいる姿になっているんだとか。
これは次にお茶会とかしたらきっとその話題で盛り上がれるね!
ところで当然プリメラさまは成人の年齢ではないので社交界デビューしていない。
だけれど本人の誕生パーティ、王族なのだから姿を出さないわけにはいかない。
こういった状況はままあるのだけれど、この国では社交界デビュー=成人していない若者はパーティに出席する際には仮面をつけることが約束されている。
それにより幼女趣味・少年趣味の厄介な大人に悪戯される哀れな子供たちを守るという意味合いもある。
仮面をつけた出席者には必ず家族が連れ添うか古い家柄であれば貴族出身の護衛兵を連れてくることが許可されている――勿論、同行者の申請は必要であり、この場合は帯剣は許されない。
ディーン・デインさまはパーティに出席なさる予定になっていることは、書類で確認した。
そしてアルダール・サウルさまも出席ということは、きっと、弟と共にいるつもりなんだな。
本当に仲の良い兄弟だこと!
兄弟といえば私の弟は私が社交界デビューして自身が子爵家を継ぐことには驚いたようだけど納得もしていた。
そして先に社交界デビューした弟が姉をエスコートするという形になるのはとても申し訳ないと私に謝った上で、「それでも姉上と共にパーティに行けることはとても嬉しいです! 当日が楽しみですね!」と手紙にはそう記されていた。天使がいる。
というわけで、パーティに出席する側である私は基本的には侍女としてすることさえすれば良いのだけれど、他の侍女や王女宮のメイドたちが頑張ってくれるというので自由時間が増えている。
王女宮の執事長以下男性陣も私が社交界デビューするということには大賛成らしい。なんでだよお前ら私がどんな思いで今必死になってるのか知ってて無言で親指立ててくんのほんとやめてくんない?!
まったくナイスミドルな年代が多すぎる王女宮だけに(これは国王陛下が若い男だとプリメラ様になにするかわからないという偏見に基づいての人選であって決して私の趣味とかじゃないよ!!!!)私のことを娘みたいに思ってくれるのはありがたいけど有難迷惑だからね!! そっと私の部屋に貴族令嬢用のマナー教本:上級編とかダンスレッスンの教本とか置いていくの本気でやめて欲しい。
まあプリメラさまも私の社交界デビューを喜んでくれているし無様な姿は見せれないし弟にも格好つけたいですし……。
話がずれました。どうも注意力が散漫で良くありません。
とりあえず、今日はもう自由時間をいただけたのでディーン・デインさまとの約束の場所に行かねば。
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出かけた先ではディーン・デインさまは相変わらず子犬だった。
それも好感度MAXらしく、尻尾がちぎれんばかりに振ってるような幻覚が見えたよ!
その後ろにいるアルダール・サウルさまがリードを持っているような気さえしたね……。
なんでアルダール・サウルさまがいるんだって思ったら、護衛騎士を連れてきたくなかったらしいディーン・デインさまの我儘を優しいお兄さんが聞いてあげたらしい。
そして買いたいものはほとんど決まっているということでリジル商会に行けば、背後から現れた店長さんがそっと私に封筒を渡してきたよ。怖いよ。「リードさまから貴女様宛と預かっておりました」とか何なの……ってまあ、私のお父さまの借金関連の情報をくださいとお願いしてあったんだからわかるんだけど、この店長さん気配なさすぎて思わず悲鳴上げそうになったわ……。
ふっとニヒルに笑って「冷静に対応してくださる姿、まさに噂通りですな」とか言われたけど何のことかさっぱりです。怖いから止めてください。
アルダール・サウルさまは何故か私の隣にずっといて、帰り際に髪飾りを下さったけど……いいのかしらね、貰って。
結構リジル商会の商品ってお値段ピンキリだったんだけど、今日はお高いコーナーに来ていたわけですし……。
まあディーン・デインさまにしろアルダール・サウルさまにしろ、請求はバウム伯爵家に行くんだけどね!
こんなところで高価な金貨のやり取りとかは無粋です。というか危険ですので。
ちなみに決まっていると言っていたのはネックレスだったんだけど、ディーン・デインさまはしばらく唸ってから私に何度かアドバイスを求めて、それからまた悩んで、を繰り返していました。
ああープリメラさまのことを考えて悩むその真剣な姿ッ! 可愛いっ!!
このディーン・デインさまの姿を見たら、きっとプリメラさまはプレゼントを喜んでくれるに違いない、と私は確信した一日だった。
うん、戻ったら今度は『ダンスの上級テクニック~これを入れるだけで殿方は魅了される~』なんて本が机の上に置かれていたけど、見なかったことにする。