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「それで、セレッセ伯爵家との顔合わせはどのようにするか決まったのかな? うん?」


「ファンディッド子爵家の嫡子として、恙なくとだけ申し上げておきます。おじいさまにご心配をおかけするようなことはなにもないと」


「貴様、おじいさまが折角田舎貴族のお前が粗相をしてセレッセ伯爵の前で恥をかかぬようにと遠路わざわざ来てくださったというのに! 頭を地べたに擦り付けて助言を乞うくらいの気持ちを見せたらどうだ!?」


「これ、エイリップ。静まりなさい。お前はもう少し落ち着きを持ったらどうじゃ、メレクの言い分は次期当主としては当然のことじゃぞ?」


「しかしっ」


 うん、なんか変な芝居を見せられている気分です。

 というか、こうやってファンディッド子爵家は『パーバス伯爵家の意向に染まらない』と言われる事は想定済みって事でしょう。まあ当然か。

 パーバス伯爵さまの意図はやはり見えませんが、エイリップ・カリアンさまを軽んじている、というわけでもなく諭したり教えたりはしているようですね。とはいえ、ちゃんと教えようという雰囲気がないという辺りがミソでしょうか。

 

「わしは歳のせいかの、あまり最近は社交界にも出ておらぬ故世事には疎い。息子も社交界はあまり好きではなくての」


「……必要最低限は顔を出しております」


「それで人脈が広がるとは思えんがな」


 パーバス伯爵さまの顔が楽しそうだ……。

 息子と孫があんまり社会的に慣れていないというのが楽しいってどういう状況なんだろうか?

 私にはちょっとわからないな……まあ私自身、社交界デビューも遅ければそれ以降どこの社交場にも顔を出していないっていう部分で弱いので、下手に藪を突っつく真似はしませんけどね。


 あくまでこの場は『メレクの婚約』に関して祝いに来てくれたパーバス伯爵さまご一行をおもてなししているっていう図式ですから。当然、ホスト役は私ではなくファンディッド子爵家当主夫妻であるお父さまとお義母さまでなくては。

 そして主役であるメレクでなくては。


 私の方が場慣れしているというのがなんとも残念ですが、まあそれも王城という場にいたからっていうのを今とても実感しております。うん、統括侍女さまとかの指導がこう……身についてるんだなあと実感です。


「もしも、ですが」


「うん?」


「もしも、おじいさまが助言くださると仰るのであれば、それはパーバス伯爵という立ち位置ででしょうか、それとも僕の祖父という個人の立場からの助言でしょうか。先程も会話に出ましたがここではっきりさせておきたいのです」


「貴様!」


「め、メレク!?」


「僕は、社交界でセレッセ伯爵さまと言葉を交わさせていただいた上であの方が、誰かに依存するような子供に大切な妹君を預けてくださるとは思えません。ですのでパーバス伯爵という立場でお話をするのであれば、申し訳ございませんが僕はファンディッド次期子爵としての立場でそれをお断りせねばなりません」


(おお……メレクも成長したものですね)


 とはいえ、その成長をもっと早くお父さまとお義母さまに向けるべきだったんではという意見も出てくるんじゃないかなあ。セレッセ伯爵さまがメレクをどの程度将来性のある人間として見てくれているのか。

 そういう部分が不透明ですが、次期子爵としてある程度、現当主の過ちを御したりとかそういう点も評価されてるんじゃないのかなあと思うんですよね。今後に関して伸び代がどのくらいあるのか、とか……。

 私が知るセレッセ伯爵さまはとても友好的な雰囲気で、笑顔の素敵な方ですが……外交官としても忙しく、予期せぬ状況で跡目を継いだ事もそつなくこなすとなるとやはりその合格点ってすごく高いものじゃないのかしらって心配になるわけですよ!!


「僕としては、おじいさまが孫として案じてくださっておられるというお言葉を、とても嬉しく思っているんです」


 メレクはフォロー的な言葉を発しながら、ちらちらとパーバス伯爵さまとお義母さまの二人の様子を気にしているみたい。

 だけど、お義母さまはハラハラしているようだし、パーバス伯爵さまは私の方をじっと見ているし、ああ、本当! なんて居心地の悪いお茶会なんでしょう!!

 だからって私はここで出しゃばってメレクの頑張りを無駄にしてはいけない。

 お父さまは……うん、安定のオロオロっぷりだった。お父さま、そこはででんと座ってオロオロするのは内心だけにしてくださればいいんですよ! 顔に出しちゃだめですよ!?


「そうさなぁ……わしとしては、引退を予定しておる身。個人として捉えてもらっても良いのじゃが、第三者がどのように見て来るか、じゃなあ?」


(ああ……王女宮での生活が平和過ぎたのかしら、それとも我が家が問題山積みだっただけなのかしら)


 パーバス伯爵さま、それって私の事を言ってますかね!?


 穏やかな王女宮を脳裏に思い浮かべて、ホームシックになりそうです。いえ、今いるここが実家なんですけどね……。

 私のホームが王女宮になっているようで、自分でもちょっと複雑な思いではありますが……。


「失礼いたします」


 そんな雰囲気の中、子爵家の侍女がお父さまに歩み寄ってお辞儀をする。

 うん、角度もばっちりですね!


「お客さまのお部屋の準備、整いましてございます」


「そうか。さて、まだ積もる話もありましょうがお疲れでもありましょう。パーバス伯爵さまもみなさまも、宜しければ一度お部屋の方へご案内をさせますがいかがでしょうか?」


「……そうじゃの、老骨はやはり長く馬車に揺られると少々辛いものがある。お前たちも子爵の言葉に甘えさせてもらうが良いよ」


「では、そうさせていただこう」


「……フン」


「相分かりました、お前たち、お客さまをご案内しておくれ」


「かしこまりました」


 控えていた使用人たちが頭を下げて部屋を後にする。

 この辺りはお父さまと事前に打ち合わせておいた通りだったので、当主らしく立派な振る舞いでした。というか、早くこの雰囲気を脱したくて必死な空気も感じましたけどそこはあえて見なかった事にします。


 パーバス伯爵さま一行がサロンから出て行くのを見送って、私はため息を吐き出しました。

 それと同時に、他のみんなも、ですけどね。


 それを見てレジーナさんが少しだけ笑ってましたけど、やっぱり“ご令嬢”ってのは大変なものですよねえ、なんて他人事のように思いました!


「どうです、メレク。おじいさま(・・・・・)とお話は弾みそうですか?」


「……姉上、少し意地が悪くありませんか!」


「あちらのエイリップ・カリアンさまを親戚であり友人関係としてパーバス家は推してくると考えて良いでしょう。そこからセレッセ伯爵さまとどう繋がるのか、或いはパーバス家とセレッセ家とですでに繋がりがあるのかですけど」


 まあ多分ないだろうけど。

 あったらとっくの昔に色々手筈が整えられていて、こちらがどうこうできる事もないだろうからね!


 それにしてもあの老人、一体何を考えているのか……ねっとりした視線、やっぱり怖いんだって!


「お義母さま、大丈夫ですか?」


「ええ……でも、あの。私はどうしたら良かったのかしら」


「え?」


「いえ、なんでもないわ」


 お義母さまは、あちらがエイリップ・カリアンさまを連れて来られたことに動揺しているみたいです。

 もしかしてお義母さまにも知らされてなかったのかな。いや多分そうだよね。

 だとしたら、お義母さまも自分が軽んじられている、と実感したんだろうなあ。しかも甥っ子が自分を下に見ているって気付いているようだし。


 ああ、なんて面倒くさい事になったんだろう。

 ただオルタンス嬢が来るの、楽しみだね!! じゃダメなのかなあって思いますよ……!!

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