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 全員にお茶が行き渡ったことを確認して、私は真正面に座するパーバス伯爵さまと視線を合わせました。あちらはお父さまではなく私の方に視線を向けておられましたからね!

 おそらくですが、『王女宮で筆頭侍女をしている先妻の娘』というのはあちらからしてみたらやりにくい相手なんでしょう。お互い面識がなかったからこそ、余計に。


 今回円卓の上座に当然パーバス伯爵さま。そして私は下座。だからこそ、真っ直ぐに視線も合うのですが……なんでしょうね、この緊迫したお茶会。

 普段でしたらとっとと退散したいところですが、まあそんなことも言ってられません。

 本来でしたらお父さまが家長としてお客さまのためにどうぞとお茶菓子などを勧めるものですが、父上はどうにかこうにか笑顔を浮かべるばかり。けれど私の視線に気が付いたのか、少しだけ慌ててお茶菓子を勧めてくれたのでようやく茶会が始まりました。


 とはいえ、あちらの次期伯爵さまとそのご子息はあまり良い表情ではありませんがね。お茶を飲んでとかお菓子を食べて不満そうな顔をしたわけではなく、ただこの状況が気に入らないってところでしょうか?

 まあ何が気に入らないかは知りませんが、というか知ったこっちゃないけどね!


「ほう、これはまた美味しい茶が出てきましたな。これもご息女が用意したのかな? ファンディッド子爵」


「は、いや、あの……そう、です。はい! な、なぁ? ユリア?」


「はい、お父さま。パーバス伯爵さまのお口に合ったようでようございました」


「うむ」


 満足げに頷いて見せるパーバス伯爵さまの本心はわかりませんが、出だしは好調。和やかな雰囲気を出しましたが、これに水を差したのがメレクの従兄(・・)にあたるエイリップ・カリアンさまでした。

 メレクの従兄とはいえ、私と同じかそれより上の年齢でしょう。そんな彼が私を少し睨むようにしながらくっとこう、唇の端をあげるような笑い方をしています。

 ええ、まあわかりますよ。わかりやすい嘲笑ですね! まったく、よろしくありませんがそこはスルーです。


「お祖父さまは優しいからな。こんな格下の家で準備された茶でももてなされて(・・・・・・)くださっている、そのことを忘れないでもらいたいものだ」


「エイリップ!」


 さすがに言葉が過ぎると父親が叱責すれば、彼は不満そうな顔を見せました。いやはや、どれだけファンディッド家を下に見ていらっしゃるんでしょうね? 叔母であるお義母さまに対してもあまりよろしい態度ではありませんし……パーバス伯爵家に対して高評価をつけるのは私には難しそうです。


「それは申し訳ございません。折角でしたので王女宮でも利用している茶葉を使用したのですが」


「……!? まさか、王女でん――」


「いいや、エイリップはまだ口もつけておりませんからな。ユリア嬢のお心遣い、この老骨にはありがたいものでしたぞ。王宮で使用されている茶葉とはなんとも最高のもてなしではないか」


 孫が何か余計な言葉を続けないように制しつつ、私を持ち上げる辺りなかなかやはり一筋縄ではいかないなあ。まあ、私もあえて『王女宮でも利用している』と言っただけで王女殿下が飲んでいる、なんて言ったわけじゃない辺りどっこいどっこいか。

 まあメッタボンが持ってきてくれていた王女宮で使っている茶葉なのは事実ですがね!

 ちゃんとおもてなしはいたしますとも、ファンディッド家の名誉がかかってもおりますし、『侍女』としての私がもてなすと決めた以上、手を抜くなど言語道断!

 手放しで褒めるかのようなパーバス伯爵さまの言葉に、私は言葉では応じず目礼でお答えしました。


「しかしこうして考えるとユリア嬢とエイリップは年齢も近い。娘を子爵に嫁がせると決めておったので婚姻は考えていなかったが今にして思えば勿体ないことをしたものだ。このように気遣いができる女性は家を盛り立てるに相応しい女主人になれるであろうからな」


「おそれいります」


「エイリップと面識はなかったのではないかな。これを機に仲を深めてはいかがだろうか。血の繋がりこそないが、我らは縁遠いわけでもない」


「いいえ、以前王城内でお会いしたことがございます。そうでございますよね、エイリップ・カリアンさま」


「……ああ、貴様が侍女見習いの頃だったな。叔母が嫁ぎ先に困って行った先の娘がいるというので珍しいと思って見に行くとこれまた地味な女が……」


「エイリップ、口が過ぎるぞ!」


 ああ、うん。今更ながら『王女宮の筆頭侍女』という地位の女を手に入れたら色々便宜が図れるのだろうと孫をちらつかせてみたら向こうが喧嘩を吹っ掛けるっていうね。

 これはパーバス伯爵さまの予想外だったようで少しだけ声を荒げました。おかげで伯爵さまの隣に座っていたお父さまがびくっとしたのまで私、見ておりました。お義母さまもびくっとしてましたが、まあそれは父親の厳しい声ってのに反応したんだと思います。


 お父さま? まあほら、パーバス伯爵さまは上司ですからして。上司に叱責された気分になったのかもしれませんよね。でもちょっぴり我が父ながら……と思わなくもありませんが、私のお父さまなんだなあ、とも何故か納得しました。

 メレクは難しい顔をしていますね、今は口を出してはいけないと理解しているようで何よりです。


「構いません、私が地味なことは自分がよく理解しております。そのせいで両親には心配をかけてばかりで申し訳ないと思っております」


「おお、孫の粗相を許してくださるか。度量の広い女性でなによりじゃ」


「なにより、お心をくださる方がいらしたことが私にとって己を卑下するばかりではならないと思えることにございましたから」


 こんなこと言うのはあれですけどね! 本来なら本人に言えよってくらいの惚気を披露しておくのも牽制の一つなんですよね!

 ええ、羞恥を堪えてここはお家の為にも……後、アルダールと付き合ってるって知ってるくせに男を紹介しようとしている辺りにちょっぴり腹が立ちましたので!

 彼以上の男だとでもいうんですかね、そこの孫。ええ、可愛い孫ですものね。そりゃ身内の贔屓目で特別に見えておられることでしょう。でも私からするとただの男性です、口の悪い男性です。印象最悪な男性です!!

 え、根に持ってなかったんじゃないのかって? 根には持っておりません、ただ好ましくないという印象が強かっただけです!


(アルダールは、ちゃんと私が地味でも……私という人間と一緒にいて楽しい、と言ってくれた。装えばちゃんと褒めてくれた。ただ地味だからって馬鹿にするようなことはしなかった)


 女性は華やかであるべきだとか、私の日々の研鑽に悔し紛れに地味な点のみを馬鹿にしてきた人たち、そういう人たちばかりではありませんが、この人は上辺だけで人間を判断する人なのでしょう。

 スカーレットの教育の時も言ったけれど、侍女として働く上で地味になるのはしょうがないこと。華やかさは主人にあれば良いのです!!


 だけど、だからといってそれを貶して良いのかというのは話が別ってものですよ。

 このエイリップ・カリアンさま。あの頃はまだ互いに幼い子供であったがゆえ、と思ってもおりましたが……今この時を以てこの人とは相容れない。そう思いましたね!


 心が狭いって!?

 いいんですよ、こういうのは口に出さなければ。

 私はにっこり笑って、疎遠になれば良いだけです。そうでしょう?


「ほっほっ、そうじゃったなあ。ではバウム家のご子息と交際しておられるというのは本当の話じゃったか。二人とも社交界にはまだ揃って出てきておらぬというのでな、どこまでが真実かと図りかねておったのじゃよ」


「まあそれは申し訳ございません。彼も私も公務がございますので、なかなかに揃ってパーティに参加は難しい話でして」


「そうか、そうか」


 微笑ましいと言わんばかりの態度の裏に、笑っていない目が怖いパーバス伯爵さま。

 だけれど私だってその程度の眼差しで怯むほど甘い侍女生活じゃございませんよ。海千山千のリジル商会会頭や、宰相閣下の冷たい眼差しにも晒されて日々生きてるんですからね!!


 ……いや、あの人たちだって常に腹黒い顔で私と会っているわけじゃないけどね? 時々そういうのが見えるってだけですけどね!?

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