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 私が声を上げたことで、全員が私を見ている。

 落ち着くのよ、私。やれるでしょ、私!


 本来はファンディッド子爵家の令嬢ユリアとして会話に参加するべきだけど、今は筆頭侍女、ユリア・フォン・ファンディッドとしての考え方になるべきだ。

 どうしてもこの家の子供として会話に参加すると、自分の感情を優先してしまう。勿論、そこまで上手に気持ちを切り替えて思考を切り替えて……なんて器用な人間じゃあないから、時々は相手に対してわからなくてイラッともしちゃうけどさ。


 でも、そうよ。私が仕事をしてきたことは無駄じゃないしこういうところで役立てられるならば、それも親孝行の一つじゃない? 何も結婚や、コネを作るとかそういうのばかりが親孝行じゃないと思っている。

 それを実践するのは今だと思うんだ!!


「お父さま、失礼いたします。まず、私たち家族でお互いに言いたいことなどがあることはわかりました。そのことについて話し合う必要もあると感じています……が、残念ながら本日午後にはお客さまをお迎えせねばならないということで時間は限られております」


「あ、ああ」


「まずお父さまの、いいえ、ファンディッド子爵家ご当主の意向としては次期当主であるメレクの意見を大事にしたいということですね? そしてそれに対してお義母さまも賛同なされたと」


「……そう、だね。そうだよ」


「え、ええ……」


 お義母さまが私の言葉に目を泳がせているけど、本音は賛同したくなかったのかな?

 その辺りは感情的な問題なんだろうか、私に対してはちょっと不満そうな雰囲気も見えるけど、それは普段家にいない私がこうやって口出ししていることに対して、なんだろうなあ……。でも時間は限られてるしこのぐだぐだ状態で意図の読めないパーバス伯爵家ご一行をお迎えするのは、正直良くない気がするの。

 すでにお客さまが来るっていうことは事前にわかっていたんだから、きっと部屋の準備などは整っているでしょう、それに対してはもうお義母さまがそうしているであろうということにお任せするとして、私たちは話を少しでも進めておかなければ!


「メレクの意向は先ほどと変わらず、セレッセ伯爵家とファンディッド家双方の話し合いによる婚儀の決め方ということで良いかしら?」


「はい!」


「ではファンディッド家としての方針は決定いたしましたね。もう午後まで時間はございませんのでその辺りについて少し決めておいた方が無難と思います。パーバス伯爵さまがどのようなお考えでおられるかはお義母さまは伺っておられますか? それに対して我が家の返答を定めておいた方がお互いに会話がしやすいと思うのですが……」


 私が問えば、お父さまは頷いただけでした。もうそれでいいよ、ってことでしょうか。お父さま? うん、まあその辺りも後でちゃんと話し合いましょうね!

 メレクは申し訳なさそうにしつつ、正直助かった、みたいな顔してますね。そんなことでどうしますか!! まったくもう、その辺りも後でちゃんとお父さまと話し合ってもらいたいものです。当主とかの男性陣がそんな弱腰ではほんともう……。


 お義母さまは、まあ面白くないんでしょう。

 お父さまも仰ってましたがパーバス伯爵さまに目をかけてもらえたってことを喜んでおいでの所に水を差されたようなものですから。でもメレクじゃないですが、ファンディッド子爵夫人としての立場でものを考えて欲しいなって思うんです。普段はできているはずなんですから。


 多分私と同じで、娘っていう立場の不思議な感情が問題なんでしょうね。

 そこのところ、ちゃんと私も話し合っていたら、お義母さまだってもっと心を開いてお話ししてくださっていたかもしれません。私も家族に向き合ってこなかった、そのことが悔やまれてきました。

 ないがしろにしていたつもりはありません。

 けれど、相手がどう感じているのか……それを私はもっと考えるべきだったのかもしれない。


「……父は、メレクに助言とお祝いをすると……兄も連れて行くとしか聞いていないわ」


「そのお立場は」


「知らないわ!」


「母上!」


 ばんっと机を大きく叩いたお義母さまは興奮した様子でしたが、ふーっと大きく息を吐き出して私を睨みました。けれど、睨んでそして泣きそうな顔をして、最終的には俯いてしまって。

 あれ、なんだか私が苛めたみたいな空気になるんですけれども。

 ただ方針を決めてそれでいいねって確認して、それを貫くためにどういう話をしたらいいのか先に知っておきたかっただけなんだけどな。


「……」


 すっかり黙ってしまったお義母さまに、私はちょっとだけ困惑する。

 ええ……私、そんな変なこと聞いたかなあ。


 とりあえず大変申し訳ないけれど、パーバス伯爵さまという人物に私は心当たりがない。

 年齢的に考えると、前に私に声を掛けてきたのはもっとずっと若い人で、お義母さまよりも若い男性だったから……あの親戚っていうのはパーバス伯爵家直系男児の誰かだとして。

 少しだけ考えて、みんながとりあえず納得するだけの話をしてみれば良いのではないか、と閃きましたね!!


「レジーナさん、少しよろしいですか」


「はい、何でしょうかユリアさま」


「セレッセ伯爵さまは以前近衛隊に所属しておられたと聞いております。レジーナさんも面識が?」


「はい、ございます。大変気さくな方でございました。ただ、伯爵位を継がれるために退役なさってからは直接お声をいただくことはございませんが」


 私の言葉に明朗に返してくれるレジーナさんがそっと微笑んだ。

 どうやら私が行動したことを喜んでいる? いやいや、できたら大人しく『娘』の立場を貫きたかったですけどね。


 ……違うか、これもこの家の娘としての役割か。

 家族全員で、ちゃんと向き合うことに向き合って、誰かがやってくれる……じゃなくてなんでもいいから家族のためにちょっとしたことくらいするのが思いやり、か。

 私はどこでそんな単純なことを忘れていたんだろう。

 プリメラさまが第一で、とか仕事が楽しくて、とか。

 こんなことじゃプリメラさまのためにとか悪い見本な大人としか言えないじゃないか!


(しっかりしなきゃ)


 私はプリメラさまを幸せにするって決めた。それは何も悪役令嬢っぽい感じに成長させないとか、ディーン・デインさまがドMにならないとか、そういうことばっかりじゃないんだ。

 しっかりとした、ちゃんと誰かに対して思いやりを持つとかそんな当たり前のことを示せる大人としておそばにいて、その姿勢を見せる! そういうのだって大人の役割じゃないか!!


「……近衛隊におられたセレッセ伯爵さまの人となりはどのようなものでしたか?」


「今と同じくして気さくで明るく、人気のあるお方でした。大変剣の技量にも優れておいでで近衛騎士隊に入ってこられたバウム家のご子息と特に仲が良かったように思います」


「えっ」


 あ、アルダール? そんなこと言ってたかな?

 いやまあ、仲が良さげだなあとは思ったけど。思わず変な声出ちゃったよ……。


「ただ、人の好き嫌いは大きかったように思います。向上心や自立心のない人間とは疎遠になっていくようなお方だったと、私は記憶しております」


「そうですか、ありがとうございます」


 うん、すごく前にビアンカさまから聞いたオルタンス嬢の特徴と同じだね! さすが兄妹?

 私がレジーナさんに聞いたことに対してお礼を言って、再び家族に目を向けるとみんななんだか俯きがちですね。どうしたどうした!?


「今、レジーナさんから聞いたことが全てではありませんが、セレッセ伯爵さまの人となりのひとつとして考慮すべきだと私は思います。それらを加味して考えるならば、メレクの選択は間違いではなかったと思いますがどうお考えですか、お義母さま」


「わ、私? 何故私に聞くの……!?」


「え? まずはお義母さまのご意見もいただいて、お父さまのご意見もいただこうかと。その上で家族の合意としてパーバス伯爵さまが伯爵家の意見をくださるのでしたら、失礼のないようご返答すべきと思ったのですが……」


 うん、いやだってうち子爵家で、伯爵家の人から意見された時にぐらついた答えなんて出したら失礼だしね? 筋が通ってないから、っていうのはある程度理由にはなるだろうけど、禍根を残すのは良くないし。一応親戚だし。一応。

 私からすると他人もいい所だけどね! お義母さまが居心地悪くなっちゃうのはね、それは望んでませんから。


 だからしっかりとお互いに理解と覚悟をと思った私は、何か間違っているんだろうか?

 私だけわかって、私だけ行動して、じゃ良くないと思うから全員がきちんと話せるように、意見を言えるように、それって負担なんだろうか。

 お父さまを見ると、何故だかお父さまが私をまるで別人を見ているかのような目で見ていた。


 ……あるぇ?


「では今度はお父さま、お義母さま、パーバス伯爵さまの人となりについてお教えいただけませんか?」


「な、何故そんなことを……?」


「そうよ、何の必要が……?」


 二人が怪訝そうな顔をしましたが、私はこれを大事なことだと思っています。

 だって、そうでしょう。


「遠路よりお客さまがおいでになるのでしたら、まずはお迎えするためにお客さまのお好みを知りそれをできる限りご用意する。温かいお茶とお菓子、だとしてもそれにも好みがございます。そして温かく迎えられて悪い気分になられる方もおられませんでしょう」


 私が微笑んで見せればお父さまが、ちょっとだけ驚いた顔をした気がする。


「ファンディッド家のおもてなし、どうぞこのユリアにおまかせくださいませ!」

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