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 メレクは朝食を片付けるよう指示を出し、人払いをするようにと言いつけました。

 レジーナさんが残る中、それに対してお義母さまが口を開こうとするのをお父さまが首を振って止めています。


 うん、あれだ。


(お、思った以上に険悪ムードスタートになった……!!)


 まあ私がきっかけでしたけどね!

 とはいえアレは誰かが言わないといけなくて、どうやらメレクが穏便に穏便にとやっていたけど全く効果がなくて今に至る、ということのようだけど……うん、ほらあれだ、私も言い方が悪くてお義母さまもちょっと引くに引けなかったとかもありうるよね。

 そもそもは当主で夫のお父さまがしっかりしてくれるのが一番なんだけどなあ……この夫婦、見事なまでに『利害の一致』による夫婦だからなあ。

 情はあると思うけど、それが愛情ではないっていうか……お父さまは上司から押し付けられた嫁っていう感じでどこかこう、他人行儀というか……息子の母親として尊重しているっていう雰囲気? だからまあよそに癒しとか居場所を求めたっていう感じが抜けないんですが。それもまあ、貴族の、領地持ち爵位持ち一家の主として考えるなら甘えとしか言いようがないんですけれども。


「メレク、あの人も……」


「母上、あの方は護衛騎士。我々が動かせる方ではございません。姉上の御身をお守りするよう指示されてきておられるのですから」


「ユリア、貴女からもなんとか言ってちょうだい!」


「え、ええと……。レジーナさん、あの」


「申し訳ございませんが、ファンディッド夫人。私めは王太后さまの命によりユリアさまの身辺警護を仰せつかっておりますれば、夫人のご意向に添うことはいたしかねます。私のことは石像と思いお気になさらず」


「……っ、な、な、んで……っ」


 ぱくぱくと口を開閉するお義母さまは、私とレジーナさんを交互に見て泣きそうな顔をしていました。

 ううん……私としてもこの情けない感じの家族会議になると思っていませんでしたから、どうせだったらドアの外にいて欲しいなあと思うんですが……レジーナさんはどうにも動きそうにない、というかちょっと怒ってらっしゃる?

 多分私に対してメッタボンと共に親身になってくれていることから、お義母さまの先程の発言がちょっとカチンと来たんでしょうね。


 ……私、友人関係に恵まれてますね。そう言っていいのかちょっと言葉にしづらいですけれども……身分的なこととか色々、まああるんで。


「とりあえず、彼女のことは一旦置いておきましょう。……メレク、その。ごめんなさい、私は何も知らなかったのね」


「いいえ、姉上が悪いわけでは」


 なんだろう、姉弟で謝り合う光景ってのもちょっとおかしい。

 でもとりあえず、これはなんとかしなくては!

 改めて私はメレクを見て、口を開きました。もう色々なりふり構ってられないでしょう。


「メレク、改めて聞きます。パーバス伯爵家の後援を受け入れ、セレッセ伯爵さまにその旨伝えての婚儀にするつもりはありますか」


「ありません」


「メレクっ……、貴方、貴方なんてこと言うの! おじいさまなのよ!? 貴方の、血の繋がったおじいさまなのよ!?」


「はい、その通りです。ですが伯爵家のご当主であられるお祖父さまであればなおのこと、今回のことに三家の同意なく行動を起こされるのは筋が違うと僕は思いますし、また僕は次期当主としてこの事柄に対し行動をきちんと選ぶことができなければ、セレッセ伯爵さまのお眼鏡にも適わないと思っています」


「なにをっ、馬鹿な……なんてこと、ああ……なんてこと!」


「お義母さま、落ち着いてください。メレクはあくまで今、メレクの意見を申し上げただけで……」


「折角! 折角日の目を見るのよ!?」


 だんっと大きくテーブルを叩いたお義母さまが、自分で出した音だけれどそれが思ったよりも大きかったのかびっくりしたのでしょう。少しだけ息を止めて、冷静になられたようでした。

 それでも興奮冷めやらぬというか、怒りか、あるいは焦りか。

 複雑な感情でメレクを睨んで、それからお父さまを睨みました。私のことは……どうしていいのかわからなかったのか、レジーナさんが怖かったのか。そこはわかりませんが、すぐに視線はそらされてしまいましたから。


「そもそも、この縁談はパーバス伯爵家の力は何一つ関係していないのです、母上」


「そ、れは……」


「僕が社交界デビューした折に、父上の妹君がお口添えしてくださり、そこで出会ったセレッセ伯爵さまが姉上をご存じでいらしたことからその弟である僕に興味を持ってくださった。それが始まりなのですから」


「え、そうだったのですか?」


 お父さまと絶交しておられる叔母さまが、そういえば結婚相手を紹介してくれるとかメレクも言ってたっけ……私も王城暮らしが殆どだから時々お手紙のやりとりするだけなんだけど。叔母さま経由でセレッセ伯爵さまと知り合ってたのね。

 あれ? っていうかセレッセ伯爵さまが私のことを知っていたってどういうこと?

 思わず私もメレクを見れば、メレクはふふっと楽しそうに笑いました。


「あの方に初めてお会いした時、こう言われましたよ。『キミがあの有能侍女殿の弟か! はてさて、キミは御父上のような保守的な人間なのか、あるいは姉上に似た前衛的な思考を持つ人間なのか。興味があるな!』と……」


「まあ!」


 えっ、前衛的?

 あー、うん……? 結婚よりもお仕事っていう思考のことですかね? いやいやまっさかぁ……多分ですが、書類とかのフォーマットを作ったとかその辺りのことでしょう。当時は革新的だのなんだの、文官に感謝もされましたし、あの宰相閣下にもお褒めいただいちゃいましたしね!

 あっ、オルタンス嬢が私を尊敬しているとか言ってたのってもしかしてそのこととかなのかな?


「ですから母上」


「……」


「おじいさまが今、“パーバス伯爵家”の名前でこの婚儀にご意見を述べられるのであれば、僕はそれを拒否せねばなりません。ですが、本日来られるというのであれば、もう領地をとうの昔に出発なさっているでしょう。それを拒むことはできません」


「……」


「ですから、お客さまとしてお迎えいたします。ですが出迎えるのは母上と僕とで十分でしょう。血が繋がっている(・・・・・・・・)のは僕らだけなのですから」


「そ、それは言葉の綾で……っ、出迎えをするのであればファンディッド家揃って、きちんとした格好をすべきだと」


「それはそうですが」


 メレクはちらりと私を見て、レジーナさんを見て、ため息を吐きました。

 ああ……本当、私が新年祭ではしゃいでた頃からメレクもしかして超頑張ってた……? どう見ても疲れてるよね、なんてことでしょう。お義母さまも流石に色々思う所はあるんでしょう、視線をあちらこちらに慌ただしく動かして、何も言わないお父さまにまた苛立ったのかキッと睨んでらっしゃいます。


 お父さまは……うん、いやほら。そろそろ外じゃなくてこっちを見よう。現実見て!!


「姉上に、家族での話し合いをすると申し上げておきながらパーバス伯爵家の方が来訪なされることをお伝えならなかったのではありませんか。僕が知らせると、申し上げた時にはきちんと伝えると……」


「えっ、そんな前から決まっていたのですか!?」


 やだーもうそれ、パーバス伯爵家が口出しするよって宣言しているようなものじゃないですか。

 お義母さまはやはり、わかっているのかもしれません。だからこそ私が、先手を打つことを恐れた……のかなと思いますがどうなんでしょうか。


 なにせ、パーバス伯爵家と血の繋がっていないファンディッド家の長女。

 王城勤めでそれなりに人脈があり、もし今回の婚姻で声を上げたならそれ相応に影響が出そう……というのが残念ながら私の立ち位置ですからね!!

 だからこそ、余計なことは言わないつもりでしたしメレクの意向を大事に、それ一番大事に! と思っての帰省だったんですが……これ、どう考えてもひと悶着どころじゃなくて二つか三つか、それ以上に発生しそうな予感しかしませんね……!?


「でしたらば、普段着で構わないでしょう。親戚をお迎えするだけなのですから」


「メレク……ねえ、お願いよ、母の願いを聞いてちょうだい!」


「母上、母上はパーバス伯爵家の娘なのですか。それとも、ファンディッド子爵夫人なのですか!」


 ばしっとお義母さまに現実を突きつけるメレクの表情は、凛としたものでしたけど。

 でも、ちょっとだけ、辛そうで……私の胸が痛みます。


「お父さま」


「うっ、うむ」


「……お父さま」


「わ、わかってる。わかってるよ、ユリア……」


 私の呼びかけに、お父さまがようやくこちらを向いて。

 そして視線を床に落として、大きくため息を吐き出しました。なんでしょうそれ、『どうしても自分がやらなきゃだめなのかい……』っていうのが透けて見えますけど私もここは譲りませんよ。


 一家の長で父親なんだから頑張ってくださいよお父さま! 私も精一杯援護しますから!!

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