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「姉上!」


「メレク、久しぶりね」


「昨晩着いたのだと先程母上が……」


「ええ」


 食堂にお父さまと一緒に行けば、そこにはメレクがいて笑顔を見せてくれました。

 うん、うちの弟相変わらず可愛い。この子がもう結婚だなんて、時間が経つのは早いものですね……!!

 小さい頃は私の後ろをついて歩いていたのに……今じゃあ私と同じ背丈どころかいつの間にか抜かれてたんだった。


「ご挨拶が遅れました。おかえりなさい、姉上」


「ただいま、メレク」


 それでもふにゃっと笑ってくれるその姿は、変わらぬ可愛い弟です!!

 

 家族揃っての朝食、……若干私には緊張感のある食卓です。

 なんせ先程のお父さま、お義母さまとのやり取りがあったせいでしょうかね? 食事そのものは美味しかったです。ところで扉付近、侍女と共に背筋をしゃんとさせて立つレジーナさんがいるんですがそこは気にした方が良いんでしょうか……!?


「ああ、美味しかった。なんだか普段と違う味付けだったわね、ねえあなた」


「そうだねえ、……ユリア、これは、その、メッタボン殿だったかな? 彼の?」


「ファンディッド家の料理人と共におりましたので、おそらく」


「あら、だあれ? そのメッタボンっていうのは」


「王女宮の料理人です。今回の帰省に関し、護衛役としてついてきてくれました。あちらの護衛騎士隊所属、レジーナさんも護衛で……」


 私の紹介に、レジーナさんが優雅に頭を下げる。

 お義母さまはちょっと状況が飲み込めないらしくて眉を顰めただけだったけれど、メレクは意味が解るらしく眉を顰めている。


 まあ、そうだよねえ。

 筆頭侍女という役職だからって、王国の護衛騎士隊に所属する人間が侍女の護衛に就くってないよね。なんの事件に巻き込まれたもしくは関わっているんだって話ですよ……正直私もどんだけ好待遇って思うんだけども。


「まあいいわ。ねえ、午後には父上と兄上がご到着なさるから、その前にある程度のことは決めておいた方が良いと思うのよ。それから私とユリアは着替えてお出迎えをしなくては! 替えのドレスは持ってきている? 地味なものでは失礼になるでしょうし」


「お義母さま、ひとつ確認したいのですけれど」


「あら、どうしたの?」


 ……これ、言い出したら多分、この場の空気悪くなるんだよなあ。

 娘としては最悪だよなあ。


 だけど、私の筆頭侍女としての経験が今ここでちゃんとしないとメレクの婚約がろくでもない感じになるっていう気がするのです! メレクが私の方を見て、うん、とひとつ頷いてくれました。


「パーバス伯爵さまが我々が決めた内容がまったくなっていない、自分たちがすべてセッティングするともし仰った場合、それに従われるおつもりですか」


「え? ……なにを、言っているの」


「ですから、確認です。当然のことではありますが、今回のこと、セレッセ家とファンディッド家の婚約です。他家の方が口出しをしたと知れれば、ファンディッド家の名誉だけではなくセレッセ家から見ても情けないと判ぜられて婚約を反古される可能性がございます」


「そ、それは言い過ぎでしょう。パーバス伯爵家は私の生家。ましてやメレクは私の実子、あちらからすれば親戚なのだから他家などという言い方は」


 ま、そうなるよね。

 私と違ってメレクはパーバス伯爵さまからすれば、一応孫だ。小さい頃からうちではパーバス伯爵家からのお祝いなんて見たことないけど。メレクからも聞いたことがないし。


 そもそも血筋云々って言うけどさ、前回お父さまが大変だった時もスルーだったから私としてはパーバス伯爵家に対して良い印象はないのよね。お父さまがやらかしたんだからお父さまが責任を取れば良いって考えだっていうのはまあ仕方ないかなって思うけど、でもその妻と息子、つまりお義母さまとメレクはあちらからしたら娘と孫でしょう。彼らだけでも助け出すとか、今回限りで支援を、とかそういう話がなかったんだから良い印象を持てって方が無理じゃない?

 それに加えて私に対する王城での態度ね。あの手のひら返す形だったのを思い出すとね?


「こちらからお願いしたことなのでしょうか? お父さま」


「……いや、あちらから……私が、いたらぬ領主ゆえ、孫の婚約が泥臭いものになってはならぬと……」


「お父さまも孫であるメレクのことを案じてのことなのよ?」


「……お父さま……」


 私の言いたいことがわかるのだろう、お父さまが困った顔をしてから、目を逸らした。

 ううーん、これはまずい。お義母さまは喜びいっぱいであれなんだけど、パーバス伯爵家ってどんな人たちなのか事前に調べておけば良かった! 少なくとも貴族的な常識というのが若干ないっていうか、確実にうちを見下してるなってことはわかりましたけど。


 お父さまは家格が上ってだけじゃなく妻の父、つまり岳父であるかつての仕事での上司となると色々まあ柵があるから頭が上がらないっていうのもあって強く出られない。その上妻のこの喜びようから諫めようものなら噛みつかれて浮気話も持ち出されてただでさえちょっと家での立場がないのがさらに危うく、ってところでしょうか。でもまだ当主なんだからそこは強くあって欲しいんだけど!!

 だってこれ普通に考えて、セレッセ家とファンディッド家の問題なんだからさー。

 孫の為っていうなら頼まれてから動くか、動いていいか聞いてからとかそういう貴族のメンツってのをさぁ……!!


「メレクも、了承済みのことなのですよね?」


「メレクは関係ないでしょう」


 きょとんとして首を傾げるお義母さまに私はぎょっとしてまたお父さまを見てしまいました。

 お父さまは思いっきり窓の外を見ていらっしゃって、っておおおおい!?

 いや? いやいや? お義母さまはファンディッド家に嫁いで来られてから今日まで、とても真面目に領主の妻としてお過ごしになり、例の問題が起きた時も毅然として対処してくれたあの貴族女性としての姿は一体どこへ。

 

「お、お義母さま。メレクは当事者であり、次期当主。当然、当主夫妻が子のために動くことは前提ですがこの婚約が調い次第当主代理として納まることまで内定している場合は軽んじてはいけないはずですが」


「それは、そうだけれど……でもまだメレクは」


「母上……」


 きゅっと唇を噛んでいたメレクが、意を決したように顔を上げた。

 あっ……もしかして今まで、お義母さまを悲しませたくなくて黙ってたとかそんな空気だった?

 私、空気読めてなかった!? いやでも……。


「でもパーバス伯爵家の力を借りてセレッセ家とも繋がりさえ持てば、今後ファンディッド家は発展すると思うのよ! ユリアだって幸いにもバウム家の子息と、王女殿下の輿入れを支えるためにとはいえお付き合いできているのだし! 今がチャンスじゃない!!」


「母上!」


 若干風向きが悪いことを察したらしいお義母さまが、半ば叫ぶようにして立ち上がった。その発言の内容に私もなんと言っていいかわからないけど、まあ心情はわかるけど、という複雑さを感じる。お父さまと同じでこの人も、私が見目が悪くて仕方なく働いている不器量な先妻の娘ってイメージなんだろうなあ。

 そしてアルダールが、いずれ嫁いできたプリメラさま付きの侍女としてバウム家の一員を差し出すために私を……って思ってるんだろうなあ。


 あ、身内にそんな風に連続で言われると胸が苦しくなる。

 いえ、もう打ちひしがれませんけどね。後でそこのところは格好悪いって言われてもいいからきちんと話し合いに持ち込むつもりですから!


 でも、厳しい声を上げたのはメレクだった。


「母上、これ以上余計なことを口にするのはおやめください。姉上に対しても謝罪を。父上も、何故黙っておられるのですか!」


「め、メレク……」


「姉上、今回の件先に手紙でお知らせしておくべきでした。僕が、自分の力で両親を諫められると過信したがゆえにこうなったのです。……すみません」


 しゅんとしたメレクに、私は何とも言えない。

 え、つまりそれって、婚約の話が出てすぐに、パーバス伯爵家の干渉とかお義母さまの浮かれっぷりがあってずっとメレクは奮闘していたってこと、なのかな……!?


 新年祭で浮かれていた私が知らない間に、弟がどうやら超苦労していた……!?

ちょっと駆け足気味ですが、ぐだぐだせずにどんどんいくよ!( ゜Д゜)

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