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 久しぶりの自宅、久しぶりの自分の部屋で寛いで、まだ残されていたことに少しだけ驚きつつも嬉しかった翌朝。私が起きて行動をする頃にはメッタボンとレジーナさんももうすでに起きていました。

 他の家族は寝ていて、幾人かの使用人たちが朝の準備をしていたくらいでしょうか? 外は相変わらず雪景色でしたが、もう吹雪いてはいないようでした。

 しかし、いつの間にあの二人はうちの使用人たちと仲が良く……!? 着いたの昨日の夜よね!? 仲良く朝ごはんの支度で調理場にいるメッタボンとか、掃除をする侍女と一緒に行動しているレジーナさんとか私ちょっとこの情報処理しきれない。


「お、おはよう」


「おウおはようさん! ユリアさま、実家だってェのに相変わらず朝が早いな。もう少しゆっくりでもいいんだぜ? 仕事じゃねえんだから」


「そうですよ、折角の休暇でしょう?」


「それを言い出したら貴方たちもですからね?」


「私は護衛の任も兼ねておりますので。勿論ゆっくりと過ごさせていただきました」


「俺ぁこうして動いてねえと落ち着かないからな。ユリアさまの故郷の料理ってのも知っておきたかったしよ」


 なんだろう、この人たち職業病を極めているんですかね……?

 まあ、かくいう私もいつもの時間に目が覚めたとかそういうレベルのお話ですけれどね。他人の事をどうこう言えないのは百も承知で、でもやっぱり言いたい。貴方たちいい加減にしなさいよと。いや、ありがたいのよ? メッタボンの料理が美味しいのは当然ですから、ここに来ても食べれるってすごく嬉しいですからね。なんかファンディッド家の料理人の方がホクホク顔なのが気になりますけどね?

 まあ、メッタボンは言ってしまえば超一流の料理人。ファンディッド子爵家の料理人だって決して腕が悪いとは思いませんが、超一流から技術を学べる機会があればそりゃ喜びもするか。……そういうものよね?


 話し合いがもしものすごくすんなり済むなら、私も館のメイドたちの様子を少しだけ見てあげたいなあと思うんだけどやっぱりそれは余計なお世話かしら。後でメイド長に聞いてみよう。

 まあ今日の予定としては、まず家族に帰省の挨拶、それからお父さまとお話しする時間をもって、メレクの婚約話を詰める、でしょうか。

 メレクの件はそれこそ一日で済む話か分かりませんし、お義母さま方の親戚筋がどう動いているのかを知らねばなりませんね。まあ、もしかしたら動かないかもしれないっていう淡い期待を抱いておりますけど!! そうだったら話は早いんだけどね。


「……お父さまや皆はいつも、いつ頃に起きて来られるのかしら?」


「そうでございますね、朝は七時ごろでございましょうか……」


「ありがとう」


 近場に居たメイドに尋ねて、答えを聞いて。

 じゃあゆっくりしてからお父さまたちを待って朝食を一緒に食べよう、と思いました。やはりこういうのは先に食べるよりも家族なんですから一緒に食べるべきですよね。だとするとちょっと時間が空いてしまいました。今は朝五時、ということは二時間はあるんですよ。

 案外あるぞ、困ったな……? こういう時は書架を眺めるといいんですよね!

 といってもファンディッド子爵家の書庫というのは大したものがなくて幼いころからしょんぼりだったんですが。まあ、十歳の頃から殆ど帰っていないからもしかしたら蔵書が増えているかもしれません。


「私は書庫にいます。もし家族の誰かが早くに起きてくるようでしたら教えてくれますか」


「かしこまりました」


 誰よりも早くレジーナさんが返事をしてくれるっていうのがちょっとアレですが!

 まあ打てば響くように返事があるとこちらも安心できるというものです。こうして思うと私も仕事がない時ってなにをしたらいいのかわからないとかダメですねえ、メイナやスカーレットはどうしていることでしょう。今頃はセバスチャンさんが指揮してくださっているでしょうからいつも通りの朝が始まっていることでしょうけれどね。

 こういうところが“可愛くない女”なんでしょうねえ。仕事のことばっかり!

 まあ、後悔はしてませんよ。お父さまには嘆かれたけれど、決して私の今までの生き方は、無駄じゃないんです。


(無駄じゃ、ないわよね?)


 書庫に入って、適当にとった本を開いてみる。

 ああ、これ見覚えがある。ファンディッド子爵領で生まれたとかいう詩人の詩集。正直私は詩とかそういうのは良い悪いがよくわからなくて家庭教師を困らせたものだったから、ちょっと懐かしくて笑ってしまった。

 そこには『人には人それぞれの、生きざまがある。認めてもらえないのだとしても』なんて一文があって、そうよねえ、なんて他人事のように思ってしまいました。


 侍女のお仕事って楽しい、から始まって、プリメラさまに出会ってこれは運命だと思って今まで突っ走ってきましたけど。働く女のどこが悪いのか、私には今もわかりません。

 統括侍女さまは確かにちょっぴり怖い上司ですけれども、怖さよりもずっと尊敬できる方です。

 他の筆頭侍女たちも先輩として学ぶことは多く、気遣いやマナーのその美しさたるや今でも私は学んでばかり。

 そりゃまあ、社交界で輝く王太后さまたちを見るとまあそういう道を本来ならば子爵令嬢として歩んで欲しかったんだろうなあとお父さまたちの願いを理解できないわけじゃないんですよ。ただ、ほらね? 人には適材適所って言うものがあるんですよ!


(……でも)


 私は私を曲げる気はない。というか、今更曲がるもんでもない。

 とはいえ社交界デビューもしたし、一応貴婦人らしい所作だってできるつもりだし。お父さまは私をあまり見目好いとは褒めてくださらないけれど、一応恋人だってできたしね?

 だから、できたら、お父さまにそろそろ認めて欲しいと私は思っている。


 働く娘のことを、哀れと思わないで欲しい。

 私という娘が、可哀想なのではなく誉だと言って欲しい。


(それだけ、だけど。それだけ、が難しい)


 私自身が悪いのかもしれない。前世の記憶を、まるで自分が生きてきた軌跡かのように思って大人ぶって、自分の『やりたいこと』を見つけて飛び出して行ってしまった。本来なら、親と絆を築くべき時間を棒に振ってきたのは、私自身。

 お父さまがもっとしっかりしてくれれば! そう思った時期もありましたけど。いえ、今も正直言えば少し思ってますけど。


(お父さまと、お話……)


 子供の頃は、どんな風に話していたんだっけ。きっと生意気な子供だった。

 手紙のやり取りもしていたけど、私はどこかで理解してくれないお父さまに反抗的で、……やっぱり可愛くない娘ね。だからって今更仲良し親子……とやるには前回の可哀想がられたのもまだ悔しくって、あれ? 私は絶賛反抗期継続中……!? いやまさかね!!


「ユリアさま?」


「……ああ、レジーナさん。どうしました?」


「はい、先程ファンディッド子爵さまが」


「あら、思ったより早かったのね。……今どちらに?」


「先程我々に挨拶をしてくださった後、書斎に赴かれました」


「わかりました。ありがとう、レジーナさん」


「いえ」


 ……そうです、ここで悩んでいたってしょうがありません。

 お父さまと、お話ししよう。今までできなかった分も。夏のあの日に、親不孝な娘であると自覚してからもすれ違い続けている親子関係を、今、今日こそ! 正していこうじゃありませんか!!

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