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 かた、かたたん。かた、かたたん。

 上質な馬車は内部まで静かで、クッションはふわふわで、そりゃまあ特別な設えってそういうものよねなんて思うわけなんだけれど。


 そう、今現在私はファンディッド子爵領に帰省するために馬車に乗っていて、外は雪景色で、幸いにも吹雪いてはいないものの止まぬ雪に懸念は隠せない状態である。のだが、それよりももっと気になることがあってですね!?


「お、レジーナそっちの荷物取ってくれ」


「はいはい」


「よし、これで完成っと……! ほらよ、ユリアさま。朝から出発がごたついちまったからなあ、ろくに食ってねぇだろう? 特製サンドイッチ完成だ」


「……ありがとう、メッタボン」


 そう、今回何故か。

 いや何故かっていうかそれはわかってるんだけどね?

 私の“護衛”をプリメラさまがつけると仰ってくださったこと、最近国内でごたごたが多かったことから王太后さまもご心配くださったこと、それらからのことだとわかっちゃいるんですけども。

 元・腕利き冒険者にして王女宮の料理番メッタボン。

 そして護衛騎士団の女性騎士レジーナさん。

 え、ちょっと護衛と呼ぶにはなんか豪華っていうかどういう状況なのかな?


 さらにさらに、どこでどんな状況になるかわからないからと王太后さまが我々の為だけに馬車をご用意くださるという特別仕様。これってどんなV.I.P.待遇よと気が遠くなりましたが堪えてみせました。ええ、私、できる侍女ですから。

 きちんと心の底から御礼申し上げましたとも! その後人がいなくなってからへたりこんじゃいましたけどね!?


 あ、ちなみに予約していた馬車はキャンセルということで代金が一部戻ってきました。

 さすがに直前でだったので全額とはいきませんでしたが……貧乏性ってわけじゃありませんよ? いやほら必要経費の計上で説明が面倒くさいなとかちょっぴり思っただけです。

 それよりも王太后さまがご用意くださった馬車に乗れる方がずっとすごいんですからね!?

 しかもメッタボン不在の間はあの方がやはり別途料理人を手配してくださったからプリメラさまのお食事も安心というものです……私が不在の間はセバスチャンさんがしっかりと見ていてくれると約束もしてくれましたから、宮のことは心配しておりません。

 メイナとスカーレットだってもうしっかりしたものですからね!


「しかし、メッタボン良かったんですか? あの、帰省のための休暇を……」


「ああ、俺ぁ戻る実家もねーからな。昔馴染みも冒険者どもだからまともにどっかで生きてるのか死んでるのかもわからねぇし、わざわざ探す気もねえし」


「そうじゃなくてレジーナさんとの時間を……ああもう! レジーナさんはどうなんですか」


「私も両親はすでにおりませんし、この人と過ごすつもりで予定を開けておりました。一緒にいられるだけで十分ですし、なによりも普段からお世話になっているユリアさまの護衛でしたら喜んで! どのような者を相手にしようとも、引かぬことを騎士として誓わせていただきます」


「そ、そんな大袈裟な……」


「そんなことはありません。私たちがこうして一緒にいられるのも、ユリアさまが間に入ってくださったことがあったからですし」


 ああ、うん。メッタボンを雇った後に護衛騎士団からレジーナさんが王女宮に配属されて、ひと騒動確かにありましたね。あの時当然、王女宮の筆頭侍女として私が二人の仲裁をした過去があるんですが……え、あれがきっかけで二人は意識し始めて付き合い始めたの? 初めて知ったんだけど。

 そんな私の、内心で起こっている動揺など気付きもしないレジーナさんは幸せそうに微笑むと胸に手を置いて、凛とした表情を見せました。


「なにより、同じ女性として職こそ違いますが立派にお勤めでいる貴女さまを、私は尊敬しております。そして王女殿下の信頼厚いユリアさまをお守りすることは、護衛騎士として当然のことであり誉と思っております」


「そ、そうですか……」


「おいおいレジーナ、あんまり堅っ苦しいことしてんじゃねぇーよ。ユリアさま困っちまってンじゃねえか!」


「あら、私は正直な気持ちをお伝えしたに過ぎないわ!」


「へいへい……悪いなア、ユリアさま。悪気はないんだよコイツも」


 まあレジーナさんは真面目な性分ですからね。私もよく知っているので頷いておきました。

 うーん、まあ、本人たちが私の護衛にかこつけて旅行できてるんならいいのか……?

 ファンディッド子爵領ってホントに何もないんだけど。


 あ、温泉があるか……ってほとんど源泉だからなあ。保養地用の入れるところもあるけど……あんまりにも退屈しそうだったら二人がそこを使えるようにメレクにお願いしておこうかしら。お父さまに言うとまた妙なこと言い出しそうだし。


「今回、私の帰省では目的が二つあります。一つはお父さまと話し合いをすること、これは正直以前のトラブルから親子の問題で話し合いが必要だと思ったからです。そして二つ目は弟の婚約についての話し合い、ですから私はこの休暇中ファンディッド子爵家の外に出る予定はありません」


 とりあえずまだ到着までは時間があるし、確かに朝は雪のせいで馬車道が混雑するというトラブルもあったからお腹も空いていたのでメッタボンの特製サンドイッチを食べ、そして淹れてもらった紅茶を飲む。

 この馬車、広い上にこういうことが出来る魔道具を完備しているとかどういうこと……。

 いや、ありがたいんだけどね。

 この時間を利用して予定を伝えた上で、私が家から離れないとわかれば二人も行動を決めるでしょうし……一応、子爵邸宅だからね。警護の人間もいないわけじゃないのよ? 田舎とはいえ領地持ち貴族だからね。まあ二人に比べたら弱いのかもしれませんけど……いやいやわからないぞ、もしかしたら逸材が……お父さまの下に逸材とか想像できないや!! お父さまには悪いけど。


 だけれど私のその言葉に二人は顔を見合わせて頷き合ってますけどそれなんですか何を通じ合ってるんですかね? ちょっと私にもわかるように説明して欲しいな……?


「大丈夫だユリアさま。ご家族との団欒を邪魔なんかしねぇし、俺らはあくまでユリアさまの護衛だ。使用人としてこき使ってくれて構やしねえよ」


「いえ、そういうことじゃないんですよ?」


「私は給仕などはあまり得意ではございませんが、ユリアさまの護衛として常にお傍に控えたいと思っておりますがいかがでしょうか?」


「いかがでしょうかってあのね、レジーナさん……?」


 あれあれ、ちょっと待って欲しいな。

 私が望んでいたのとかなーり? 違うよね!?

 そんなに本格的な護衛を必要とするほどのことがあるのかな、なんて不安になっちゃうじゃないですか。


「え、私、なにか命の危険に晒されてるんですか……?」


「いいえ、そのようなことは聞いておりませんが」


「単純に、コイツがいれば色んな意味で牽制になるだろってセバスチャンの旦那は言ってたぜ。あとはバウムの旦那が安心するからってのもあるが」


「……アルダール?」


「おう、俺だけだとレジーナもやきもきしちまうかもしれねぇしなあ!」


「己惚れないで頂戴、ユリアさまがアンタみたいな野暮ったい男を相手にするわけないでしょう? まったく失礼にもほどがあるわ。申し訳ありませんユリアさま」


「えっ、ええ……」


 えっ、それレジーナさん、自分の恋人貶して自分に戻ってくるブーメラン……。

 いえ、大丈夫ですよ。メッタボンは良い男ですからね! 大丈夫ですよ!!


 そうかぁ、アルダールが心配するってことも、ある……のかな。

 確かに色々あるかもしれないからって言ってくれていたけど、そういうの以外でも心配してくれているんなら嬉しいなあ。


「……では大したおもてなしはできませんけれど、どうか私の実家で二人が寛いでくださいね」


「いやいやだから俺らは護衛だって」


「休暇中ですけれど、ね」


 そう言って笑ってくれた二人に、私も笑みを返す。

 なんだかちょっと出だしから不穏な空気がないわけでもないけど、でもこの二人がいてくれたら確かになによりも安心ですね! ありがとうございます、王太后さまプリメラさま!

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