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「……というわけで、念の為に休暇申請を改めようかと思っております」


「そうね、すごい雪だもの……ファンディッド領は積雪は平気なの?」


「幸いにも山沿いには領民は暮らしておりませんので大丈夫かと。ただ街道はこう降り続くようでは……」


「わたしも国中の交通や流通に影響が出ているって聞いたわ」


「はい、そのように私も耳にしております。ですので余裕を持とうかと思いました次第です」


「プリメラもその方が良いと思うわ!」


 外が見える場所で、温かいお茶を飲みながらプリメラさまは笑顔で頷いてくださった。

 はぁー可愛い。笑顔が眩しい!


「でも、ユリアがいないと寂しい」


 真っ白い雪景色。

 本来美しい庭園も、雪化粧を施され……どころか吹雪いて碌に景色どころじゃない。


「……折角弟さんの婚約の話なのに、ごめんなさい」


「いいえ、プリメラさまがそのように思ってくださることは私にとっても喜びですから」


 本当のことですもの、寧ろ嬉しいですよ!

 自分の発言に思わず反省してしょんぼりしちゃうプリメラさまったらなんて良い子なんでしょう……!!


 思わず抱き着きたい勢いですがさすがにそこは我慢です。私も大人ですし、色々な問題を考えねばなりません。それに、確かにプリメラさまを愛しい娘として想っておりますが、……やはりメレクのことも、血のつながった弟として愛していますからね。大切な家族のために、私は出来る限りのことをしたいと思います。


「プリメラさま、失礼とは存じておりますがお手をお借りしてもよろしいですか」


「手? うん、いいわよ!」


 差し出された可愛らしい手は、白くて傷ひとつなくて。

 私がずっと、愛しんできた手そのもので、笑みがこぼれた。


 その手をそっと包むように私の両手で握れば、プリメラさまの手はとても温かくて柔らかくて、まだまだ子供の手だなあ、と実感する。


「大きくなられましたね、もうユリアの手と同じ大きさに近づいておられる」


「うふふ、わたしだって成長したもの!」


「はい、私もお側で見守ってまいりました」


「……うん」


 赤ちゃんだったプリメラさま。

 ご側室さまがお亡くなりになって、泣いていたプリメラさま。


 私が、私がそばに居てあげないとと思ったあの時からもう十年以上経っているなんて不思議な感じ。

 だけど、変わらないのはあの時感じた愛しさそのままだということ。


「プリメラさま、これからもユリアがおそばに仕えていくことをお許しください」


「勿論よ!」


「それは、ディーン・デインさまとご結婚しても……と思っても?」


「ついてきてくれたら嬉しいわ!」


 力いっぱい答えてくれたプリメラさまに、私の心があったかくなった。

 本当は、親離れ子離れ……なんて言葉もあるからね。私だってプリメラさまから離れなきゃいけないんだろうなって思う時もあるんですが、できたらずーっと見守って差し上げたい。

 私に依存するような、そんなプリメラさまではないもの。

 しゃんと背筋を伸ばして、ディーン・デインさまと並んで進んでいくプリメラさまを誰よりも近くで応援する。それがやっぱり、私にとっては幸せなのよね。


 でも嬉しそうに笑ってくれたプリメラさまは、少しだけ考えてから慌てたように私の手を握り返した。

 うん? どうしたのかな?


「だ、だめよユリア!」


「どうなさったのですか」


「だって、ユリアだってアルダールがいるじゃない!」


「え?」


「アルダールと結婚したら、貴女、わたしのお義姉さまになるのよ? ずっと侍女ではいられないでしょう?」


「えっ……」


 言われてハッとしました。

 いえ、なんというか、アルダールとお付き合いしてますしそれはプリメラさまにも申し上げていましたし、いずれは結婚なんて話もあるのかななんて漠然とは思っていたというかなんというか、考えないようにしていたのかもしれないですけど。だってほら、自信過剰になっては……とか思うでしょう?

 それに私たちはまだ付き合い始めて数か月。結婚を前提にとかそういう話をしたわけじゃないですし……いえ、このまま付き合っているなら結婚するのが自然というか、色々と上手くいくんだろうななんて思ってもいるんですが。

 アルダールの気持ちはどうなのかなとか私は結婚ってまだわからないなとかまあそういうことで色々考えずにいたのがまさかプリメラさまから言われると絶句せざるを得ないというか!?


「えっ、いえ……あの、いえ。そのような日がくるか、まだわかりませんが……」


「そうなの? だって二人は順調にお付き合いしてるんでしょう?」


「ええっ、えっと? いえ、はい、そう……だと思っておりますけど」


 そんな純真な顔で見上げないで!

 恥ずかしいぞこれどうしたこれなんだこれ!?


 いえ、わかってはいたんです……どっかの誰かからは突っ込まれるであろうとか、帰省したらお義母さまが一番聞きたがってる話題だろうなとか……!!

 でもまさかプリメラさまから来るとは思いませんでした。ええ、微塵も思っておりませんでした。

 なんとなく、服の上からネックレスを確認するように空いている手を当ててしまいますよね……。


(アルダールと、私が?)


 そうなったらいいなとかそういう未来を描かないわけじゃないですけども。

 まだ付き合い始めでようやくキスができるようになったばっかりの仲なので、そこから先と言われるとまだちょっとよくわからなくて、でも嫌というわけじゃなくてですね?

 あれ? なんというか段々と顔が赤くなるのを感じます。


「……かあさま、お顔真っ赤よ」


「ぷ、プリメラさま!」


「うふふ、うん。そうよね、かあさまはわたしと違って『結婚前提』じゃないからこれから二人で話し合うのよね!」


「そ、それは……そうなのかも、しれません、が」


「ごめんなさい、プリメラがそんなこと言ったって誰かが聞いたら決定事項になっちゃうもの。二人が自分たちで絆を紡ぐんでしょう」


 最近読んだ本の影響でしょうか、言い回しがそれっぽいプリメラさまが嬉しそうに笑いました。

 いや、その笑顔すごく可愛いです。うん、もう文句なしの百点満点の笑顔です。


 それに、王族としての発言力の意味もちゃんと理解されていて……なんてパーフェクトな私のプリメラさま! とはいえ、ちょっと内容が内容でしたけども。


「今はまず、弟さんの結婚だものね。セレッセ伯と親戚になるのはきっと弟さんにとって良いことになるんじゃないかしら。おばあさまもセレッセ伯のこと、いつも褒めてらっしゃるもの」


「さようでしたか。ええ、是非弟とセレッセ伯爵家のご令嬢との婚約が無事結ばれて、弟が領主代行として振る舞えるようになるのが良いと思うのですが……」


「そうね……大丈夫よ、きっとそうなるから。そうそう、ユリアには今回護衛もつけてあげる!」


「護衛ですか?」


「そうよ、ここのところ色々あったからおばあさまも心配していらっしゃってね? 今回の帰省だって天候も悪いからわたしも心配していたの。護衛についてはセバスチャンに都合してもらうから、ユリアはそのままでいいからね。勿論、休暇の件、わたしは了承するから」


「ありがとうございます、お心遣い本当に嬉しく……」


「いいの! だってプリメラは、かあさまの娘で、王女さまなんだから!」


 えっへんと胸を張ったプリメラさまが無性に可愛くて、私はまだ繋いだままの手をぎゅっと握る。

 それに気づいたプリメラさまが、満面の笑みで飛びつくように抱き着いてきてくれて、私たちが束の間の“母子”の時間を満喫したのは秘密の話。

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