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 しかしセレッセ伯爵さまが近衛隊出身者だとは思いませんでした。

 なんでも、跡取りだけれどご両親も健在だし引退間近になるまでは好きにしていいぞと言われていて、体を動かすのが好きだったから箔をつける意味も含めて近衛隊に入ったんですって。

 え、実力がないと入れない近衛隊にそんな軽い感じで入れるものなのかって思わずアルダールを見ましたが、彼は軽く笑って「あの人は規格外だからね」なんて言ってましたけど。

 あれぇ、でもアルダールも多分規格外な感じですよね、最年少で近衛隊入隊した人ですもんね!


 それで、前のセレッセ伯爵さまご夫妻が流行病でお亡くなりになり急遽跡目を継がれたものの、持ち前の規格外な能力からあれよあれよと領内を掌握、でもじっとしているのは性に合わないからと外交官になられた、と。

 規格外にも程があるよね!?

 その妹君であるオルタンス嬢が『兄に憧れて……』ってゲームで言っちゃう理由に納得しちゃいますねコレ!!


(あれ? でもそのオルタンス嬢はゲームと違ってなんだか私に感謝しているとかなんとか手紙に……)


 そんなチート兄がそばにいてなんでだろう?

 メレク関連であの子が何か私に関して良いように吹き込んでくれたのかしら。……何かそんな風に言ってもらえる要素あったかしら?

 お見合いの話とかされるから実家にも寄り付かない、仕事ばっかりの姉だったからなあ……反省反省。

 今回の帰省ではメレクの結婚をより良いものとするためにも、王城で磨いた私の侍女スキルを家人に事前に伝授してお出迎えしたいところですよね。さすがに私が当日は給仕を務めるわけにはいきませんし……。


「……ユリア、また考え事かい?」


「あっ、いえ。私はまだセレッセ伯爵さまの妹君にお会いしたことがございませんので、噂に聞くだけではどのようにおもてなしをしたら喜んでいただけるかと思案を」


「まったく……当日は侍女ではなくて、しかも当主でもその奥方でもないのだからそういうことを考える立場じゃないだろう?」


「そうですけど……未来の義妹だと思えば、良い顔合わせにしたいじゃありませんか」


「なら余計に、一人であれこれ考えるよりもご家族と話をするべきだと思うけれどね」


「あっ……」


 アルダールが呆れ半分、そんな感じに言ってくるその内容に私は思わず声を上げました。

 そりゃそうだ、家族で考えようと思っておきながら今、私は相当先行した考えをしていたよね。侍女的思考っていうの? お客さまをおもてなししなきゃ! みたいな……。

 でもそうよね、それを本当は考えなきゃいけないのは領主夫妻であるお父さまとお義母さまだし、ましてや当事者であるメレクの意見を聞かずにどうこうってわけにはいかない。


 反省だこりゃ……なんてこと、私ったら浮かれていたのね。


「でもそうやって、家族を想えるユリアはいいと思うよ」


「……今アルダールに窘めてもらわなければ、とんだお調子者になるところでした」


「そうかな、きみの家族も笑って許すと思うけどね。……そういう君がいてくれたから、私も家族に向き合えたんだ」


「え?」


「言ったろう、新年祭は君に楽しんで欲しくて義母上に相談したと」


「あ、はい」


 聞きました聞きました。今後バウム伯爵夫人にお会いするときには“ああ、この子が……”的にあったかい視線をいただくことになるのかなと思うとドキドキものだと思っておりますよ!

 あ、でも逆に“え、コイツが……?”と思われないように今のうちに女子力を身につけたいところです。ここにBBクリームがあれば……!!

 しかしそのことと家族と向き合うとはなんだろう、とアルダールを見ると、彼はカップの中をじっと見ていました。


「……前にも話した通り、私は出自が出自で、義母上が招き入れてくれたことによってバウム家の一員として今では認めてもらえる立場だ。だからこそ、いつ放逐されても大丈夫なように家族に対して壁を作っていたことは事実で、そして周囲の人間に対してもそうだと思う」


 さっきまでの甘ったるい雰囲気が吹き飛ぶほど、の内容ですね!

 いえまあ、想像に難くありません。アルダールの生い立ちやその環境を聞いてしまうとそりゃぁ素直に家族ができたって受け入れるのは難しい問題ですもの。

 家族関係がそうだったんだから、周囲に依存するかと思いきや貴族社会での関係性ですものね。いつだって味方とは限らないというのがなんとも悲しい話です。

 私だって弱小貴族の娘、そこいらの微妙な感覚くらいはわかっているつもりですが……アルダールは庶子という扱いでもっと難しいのだろうなと思います。


「だけどね、ユリアを……ユリアにとって良い誕生日祝いにしてあげたいと思っていたから、恥も外聞もないなと思って。そうやって距離を置いていたことで、頼れる友人もそういないし時期も時期だったし……それで家族に相談することにしたんだ」


 決して嫌われてはいなかったわけだしね、と苦笑するアルダールはどこか照れ臭そうです。

 そうして義母に相談すれば義母から弟と父親であるバウム伯爵さまにも伝わって、そこからバウム家御用達の店に……という流れだったわけですが、でもそこでなんだか少しだけ打ち解けられた気がする、とのことでした。

 わあ、なんだろう。結果論だけど私ったらバウム家とは関係ないところでアルダールの家族関係に良い影響を及ぼした、みたいな……?


「改めて話してみたら、なんてことはないんだけどね。私が意地を張っていただけなのかもしれなかった。親父殿は、まあ、不器用な人で……私はきっとそんなところが親父殿に似てしまったのかもしれない」


「……アルダールは、家族思いですね」


「そう、かな?」


「そうですよ。だって……いつ放逐されても良いように、だなんて言いながら」


 そんなことを言いながら、傷つけないようにしてきたんだもの。

 認めてもらいたかったってのが大きかったんだろうけど、馬鹿なことをしたり迷惑をかけたり、そんなことが一切なかったことがその証拠のような気がする。

 家族に対して諦めていたとは思えない、そうだったらディーン・デインさまがあんなにも憧れて大好きだって言うはずがない。


 それは、彼が、彼なりの……不器用さで、家族を大切にしてきた結果なだけ。

 ちょっとしたボタンの掛け違いがあって、そこからずれていたものが今回偶然にも直ったってことでしょう? それなら私は素直に喜ぶよね!

 良かった良かった!! アルダールが嬉しいなら、私も嬉しい。


「……何笑ってるの」


「えっ、笑ってました?」


「笑ってた。ほら、何か言いかけたよね?」


「いいえ、アルダールが、ご家族と仲良くできたなら……嬉しいなって」


「……」


「アルダール?」


「……きみは、……はぁ、まったくもう……」


 軽く頭を抱えるようにして溜息を吐き出すアルダールに、私は首を傾げる。えっ、何か変なこと言った?

 いやいや何もおかしなことは言っていないでしょ。解せぬ。


「本当にユリアはズルいよなあ」


「ええ!?」


 ズルいっていうのはイケメンでハイスペックなあなたの方ですよ!?

 と言いたいけどここはなんだかそういうことを言い返してはいけないと、私の空気を読む能力が告げている!!


 だがあえて内心では言わせていただこう。


 解せぬ。

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