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159 これは、ズルい。

お久しぶりのアルダールさん視点。

 正直、これはズルいと思った。

 

 想いを受け入れてくれたとはいえ、私と彼女の感情には差があると思っている。

 まあそれは個人個人で違うものなのだからしょうがないけれど、ユリアは……特に、王女殿下を大切に思う気持ちが彼女の中でなによりも第一なのだというのがとてつもなく難題だ。


 異性の中では私が一番だ、というのは理解しているけれど。


(でも、……彼女の方から、もっと私のそばに居たいと願ってもらえたら……と思うのは、やっぱり我儘でしかないんだろうなあ)


 慕っている、と。この言葉も結局ねだって言わせたようなもの。彼女が自ら望んで言ってくれたわけじゃあない。

 思いを告げた時に、彼女を笑わせて、着飾らせて――誰よりも、彼女を甘やかしてみたいと言ったけれど。実際にはこれじゃあ私が彼女に甘えているようなものじゃないかなと思う。

 でもどうにも我慢できなかったというか……私はいつからこんなに堪え性のない男になったんだろうか?


 欲しがってはいけない、強くあって一人でもやっていけるように。そう思ってきたつもりだったのに、ユリアと出会ってからはどうも上手くいかない。自分は淡白な人間だと思っていたのに。……いや、逆か。もともと私はきっと強欲な人間だったんだろう。

 それは、親父殿の言葉をきっかけにさっさと家を出ようと決めた時からだったに違いない。強さを求めて師匠に認められ、剣で己の生きる道を切り開こうと決めた辺り、もう家族を顧みていなかったのは私自身だ。諦めた『ふり』をしたんだろう。


 その反動なのだろうか?

 ユリアが、そばにいてくれたらいい。そこから始まったはずなのに、いつの間にか笑ってくれたら、振り向いてくれたら、特別な表情を見せてくれたら、……誰よりも、一番に想ってくれたら。

 そんな風に際限なく要求が増えていく。

 当然まあ、そんなことは口にしないけど。いや、好きだと言って欲しいと告げている段階でだめ、かな……。


 女性関係もそんなに初心ではないと思っていたんだけどなあ。

 それ相応に経験はあるし、恋だって初めてじゃない。それなのになんでこうも上手くいかないのか、今までの恋が偽物だとか本物だとか、そういう問題じゃない気がする。


 それなのに、だ。


「……好き、だなあ」

 急にそんなことを言うから。

 ぽつりと零すように、彼女が、ユリアが彼女自身も思わずといった感じで言うから!!

 その言葉に、彼女自身も驚いて即座に顔を真っ赤にさせたけど。これはズルいだろう!?


(それは、――勿論、私のことだよね?)


 思わず息をのんでしまった。じわじわと、喜びが満たしていくこの感情をなんと表現したら良いのだろう。


 ずっとそう思っていてくれた? 思わず口に出すくらい好きだと、感じてくれていた?

 私だけが、一方的に想っているのかと時々不安に思っていた、それは彼女もだったんだろうか? 彼女に嫌われないように、必死で理解のある良い男であろうとはしているけど、そうじゃなくても許してくれるんじゃないかとさっきも思ったくらいだ。

 もう少し、自分自身を出して……情けないところや、彼女に対しての執着を、隠さずとも良いのだろうか。

 いや、嫌われてはいないし好意があるのは当たり前だろう、彼女は私と恋人になっても良いと受け入れたんだから。


 ただ、……ほかの男が近寄るよりも前に、私が攫われないようにと彼女に必死に食らいついたから私以外選択肢がなかったんじゃないのかとは、ちょっと思っている。

 今まで本当にほかの男が、ユリアの魅力を理解して口説いてなくて良かった、本気で思っているんだ。

 着飾らないから目立たなかった、それだけの話で。

 ユリアは、とても魅力的だと私は思う。誰かを優しく見守ったり、導いたり、案じたり、当たり前のようで当たり前じゃないことを当然のようにやっている女性だ。

 働き者過ぎて時々心配にはなるけど。

 それと、ちょっと異性に対して免疫がないせいか隙が多すぎてこちらとしては心配でしょうがないんだけど。

 そんなしっかり者が見せる女性としての顔に、どうして今までほかの連中が気づかなかったのか不思議でならなかったけど、それは王女宮という奥にいたからなんだろうなあ。私のように運よく出会えてそれに気が付いたから早々にこうして行動を起こせていただけで、ユリアが内宮所属だったとかだったら話がだいぶ変わっていたに違いない。


 そんなことになっていたらと思うと考えるだけで苛立つが、今彼女の隣にいるのは私だ。そしてそんな私に対してまだ固いけれどユリアが笑顔を見せてくれることが増えた、それだけで癒される。

 だけど、本音を言うとこの新年祭でもう少しだけ前に進みたい。

 ユリアは照れ屋だし、こういったことは不慣れだと本人も言っていたから焦ってはいけないと思ってゆっくり彼女の調子に合わせることが大事だと重々承知はしている。彼女の周辺から牽制されてもいるから、強硬策に出れば今後邪魔されてデートも碌にさせてもらえなくなってしまうのはごめんだ。


 だから。

 ちょっと、気持ち的に重たいかな、と思ったけれどネックレスを贈らせてもらった。

 この意味を、彼女はどう受け止めるんだろう。

 私の眼の色をした、少しばかり値が張る贈り物。資産的に考えて、私個人としてもバウム伯爵家の子息として考えても大したことはないけれど、彼女はこういうことをとても気にする女性だから。

 ただの贈り物だと言っても遠慮してしまうかもしれない。

 でも、受け取ってもらいたい。


「……アルダールの、目の色」


 呟いた彼女に、嫌悪の色はない。ほっとした。

 義母上に相談したときはかなり苦渋の末だったけれど、この店を選んで正解だった。この年齢になって女性への贈り物の相談というのはなかなかに恥ずかしかった。


 仕事着の下にでも良いから、私が贈ったものを常に身に着けていて欲しい。

 私の存在を忘れないで欲しい。誰よりも、一緒にいたいと、思っているこの気持ちを、受け取って欲しくて。


 随分重たくて気持ち悪い感情だなあと自分でも思うが、それを表に出さないだけ許してもらいたいものだと思う。

 本音を言えばもっとぐいぐい押して、彼女が恥ずかしいというのを無視してことを進めてしまいたい気持ちだって、私の中にはあるんだ。

 でも彼女が、きっと……そんな私の傍若無人なふるまいすら、きっと許してしまうから。私も、できる限り彼女を幸せにしたい。私だけが幸せでは意味がない。だからそんな真似はしない。

 一緒に、幸せに、そう同じ方向を向けたなら。


(喜んで、くれた?)


 そっと彼女の表情を盗み見る。

 触れた首筋の細さに、改めて女性らしい女性なんだと認識する。私が守って、そして時々気持ちを守られて、この心地良い関係を大切にしていきたい。そんな相手。

 ユリアが、はにかむように笑って、私を見上げる。

 ああ、喜んでくれている。


「……似合ってるよ」


「ありがとう、ございます」


 彼女のこんな安心しきった表情を、知っている人はどのくらいいるんだろう。

 それが、もし私だけに向ける表情なら、嬉しいんだけど。


 ……まだ、それはちょっとだけ自惚れ、かな。


(今日は、随分……私もまだまだだな)


 我慢が利かないというか、未熟者なんだなあと前々から理解はしていたけれど、どうにもこうにもやっぱり彼女を前にすると我儘が顔を出してしまうから、もう少し気を付けないと。


(……ギルデロックにあんなことを言われたせいかな)


 身の内の獣。

 ユリアには、抑えがたい破壊衝動のようなものがあった過去を話したけれど。

 彼女は女性関係かと思ったと笑ったけど心外だ、そういうのは……まあ嫌いとは言わないけれど、親父殿と私の関係から考えたらちょっと、ね。

 だからこそ、私は……誰かを好きになって良いのか、いつだって不安だった。


 それなのに、ユリアが好きだと今ではもう隠せない。

 彼女なら、私を、親に受け入れられなかったことを、根に持つような私を受け入れてくれるんじゃないのか。そんな風に思ってしまって。

 でもその反面、そんな私が彼女の横にいていいのか、と思うから。


 だから。


(逃がしてあげたい。だけど、逃がしたくないから、喰らってしまいたい)


 傷つけたいわけじゃない。

 大切にしたい。ものすごく、大切にして、愛して、守って、そうしていきたい。

 でも私の中にいる『獣』は、とてつもなく愛に飢えている厄介な存在で、そんな獣の私に彼女が怯えでもしたら?

 少しでも逃げようとしたら?


 ……そんなことを想像したくもないのに、してしまうことが時々ある。


 もちろん、過去の話をした段階で彼女は真っ向から私のことを見て、慕っていると言ってくれたんだから杞憂に過ぎない。しかもさっきも好きだと言ってくれた。

 でも、私は弱い男なんだな。こうして、贈り物で彼女が自分の恋人だと知らしめたいだなんて。


(こんな男ですまない、でも)


 そのくらい、ユリアのことを心底、好いているってことで許して欲しい。

 私が笑みを向けると、彼女も照れ臭そうに、笑ってくれた。


 ……うん、幸せ、だなあ。

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