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「あのっ、……あの」
「うん」
「私、ですね、あの」
「うん」
「……アルダール、から、確かにお心をいただいて。そこから、ようやく意識とかしだして、まあ、お待たせしたし、こんな風、ですし」
「うん」
くっ……顔が赤くなってるってわかってるけどなんだかより熱くなってきてる気がします……!
いや、らしくない言葉をですね、こう連ねているんだと思うと余計に恥ずかしいわけですがほらここで言わないといけないんじゃないかなっていう、機会を逃したりするとダメな気がする、こう直感がですね?
ならもっとスマートにと思わなくもないんですが私ったらこういうこと本当に疎くてですね!?
(でも、ここで……ここでちゃんと言わないと、私、アルダールと向き合うって、流されてじゃないって自分に自信を持つんですよ! さあユリア!!)
ぐっとなんかせりあがってきそうな感じがするのを呑み込んで、私はアルダールをまっすぐに見ました。
ええ、真っ直ぐですよ?
イケメンと目を見てお話しできない、から一歩進んでますよ!?
ものすっごく緊張して今なんか吐けそうですけど。いや乙女としての立場が全部なくなるから絶対それはやってはならないけども!!
青い目がこっちをまっすぐ見てると思うともうね、即座に目を逸らしたい! 超照れくさい!!
なんだこれ青春ですか、いやリア充ですね自分のことだとこんなにも恥ずかしいものなんですかね。
恥ずかしくて死ねるのか、動悸が激しすぎて心臓発作で死ぬのか、どっちだ私と脳裏を掠めますがそもそも死なない。オーケー、私生きてる。
まだプリメラさまのお輿入れとかそういったことにも携わりたいですしもっとレディに育ったプリメラさまとディーンさまの恋模様だって見ていたい。
そこに私もアルダールと恋を育てていけたならすごく、すごくそれは素敵なことなんじゃないかと思っているのです。
そしてそれは、相手に伝えないと始まらないことなんだとようやく理解したのです!
じゃあさっさと行動しろよとは思ってましたよ、ええ思ってましたとも。でも臆病者がいきなり歴戦の勇者にはなれないように、私という恋愛初心者が自覚したからって恋愛熟練者になれたわけじゃないんですよね。
「……人並みに、嫉妬も致します、し。多分、あの、面倒くさい女だなと自分でも思うんです。いえ、自分で思っていた以上に」
「うん? ……そんなことはないと思うけど」
「私が思ってるんです!」
そんな小首を傾げてもダメです! 可愛いけど!! どうしよう私の恋人が可愛い。
ほんとこの人ズルくない? カッコよくてイケメンで可愛くてどうすんのこれ、なんでこの人ほんと私選んでんのなんなのちょっと美形見過ぎて感覚マヒしてない?
そのくらいの勢いです。
いえ、どんだけだよって思うかもしれませんが自分を平静に保つためですよ。
アルダールが、見かけとかだけで判断する人じゃないって私が知ってますからね!
ほら、脳筋公子にも啖呵切ったくらいにはわかってるつもりですよ。
「それで、ですね、えっと……」
そうですよ、問題はそこじゃなくてですね。
私が肝心なことを言えないせいでもう……なんだろう、甘ったるい空気の密度が増した気がするわけですけど。
いや逆にこの空気こそが私の味方!! そう思わないとやってられません。
だってばっくんばっくん心臓はうるさいし、目の前のアルダールはじぃっと私の方を見ていますし、緊張から喉はカラカラなんです。
「私、私も、アルダール、の、ことを」
「……うん」
「お……お慕い、して、ます……!!」
どうだ言ってやったぞ!
好き、とかはさすがに初々しい少女だって感じだったんでちゃんとここは大人の女性らしくですよ。
ほらどうだできたよできました! やればできる子なんですよ私!!
っていうか改めて口にして思いましたが、本当に私言ってませんね。
まともに言ったのってあったっけ? くらいの勢いです。
(いやあ、さすがに申し訳なくなってきた……)
恥ずかしいので俯いちゃいましたけどね!
頑張ったからそこは許して欲しい。
「……参った」
「え?」
「いや、思ってた以上に」
「……アルダール?」
「うん、……思っていた以上に、嬉しくて」
溢すようなその言葉に、嬉しさが確かに滲んでいて。
そしてその表情を隠すように手を添えてますけど、目が……確かに、嬉しそうに細められていて。
あっなんでしょう胸がぎゅってなった!
いや痛くはないんですがこれはあれですか、もうキュンを通り越してますけど大丈夫なんですか私。
「ユリア」
「は、はい」
「ありがとう」
そっと抱き込んでそんな風に言われると、なんでしょう……なんだこれ爆発しそう。
でもアルダールが本当に喜んでくれているってわかるから、それだけで何故だか私も満たされます。
照れるんですけど! 照れるんですけどね、なんだか、こうして抱きしめてもらうっていうのも初めてじゃないんですけど。
ちょっとだけ、もう少しだけ、勇気を出して。
私も、恐る恐る手を、伸ばしてみました。
うん、背中に、ちょっとだけ手を回して。
ぎゅって、私からも抱き着くみたいにして。オーケーオーケー、これなら顔も見えないし大丈夫。
かなり恥ずかしいことをしているって自覚はありますけど。
「……今日は、なんだかご褒美をもらうようなことがあったかな?」
「な、ないですけど! 私、は……その、いつもアルダールから行動をしてもらってばかりですから、たまには、態度で示せるようになりたいなって……」
そう、いつもいつも。
アルダールが言葉をくれて、行動をしてくれて、私は全部それを受け身でいるばかり。
それはやっぱりフェアじゃない。
私の望む、恋人関係の姿じゃない……と思う。
いやどんなの? って聞かれると具体的には答えなんてないんだけどね!
「でもこうして抱き着かれるのは悪くないけど、ユリアの顔が見えないな」
「み、見なくていいんです!」
「そう? きっと今真っ赤で可愛いと思うんだけどね」
「……アルダールは意地悪です」
「いいじゃないか、好きな人の色んな表情が見たいんだ」
ああーもうこの人ホントずるくない!?
ずるいよね、なんだよこの慣れっぷり。本当に堅物とか呼ばれてたの?
それとも世間一般の恋人ってのは友人から恋人に昇格するとみんなこんな風に手慣れたようになるの?
じゃあなんで私はこうなれないのかなぁ!?
そっと手を離して僅かに距離を作れば、アルダールがふっと笑ったのが気配でわかりました。
やっぱりちょっと顔は今見れません。だって絶対真っ赤だもの。言われなくたって分かってますよ自分のことですから。
言い慣れないことややり慣れないことをしましたからね! ほら頑張ったでしょう私。
「……やっぱり真っ赤だ」
「そうですよ、……慣れないことをしたんですから」
「ありがとう」
「それはさっきも聞きました」
「何回も言いたいくらい幸せだなと思って」
「……そんなの」
「あれ? また言ってくれるの?」
「……い、言ってあげてもいいですよ! でも今はだめです!」
ああああ、安請け合い!
しかもなんだろう、スカーレットよりも下手なツンデレっぽくなった。
もう、アルダールを前にするとどうしてこう私は自分のいつもの調子が出ないんでしょうか。
これが恋というならば、やっぱり恋は厄介です。
……それと、やっぱり幸せです。