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ちょっと夜中のお酒が若干残っている気がする……けど朝です。起きねばなりません。
一年の計は元旦にあり!!
いや、前世とは違うので別にそういうこたぁないんですけどもね。お仕事はありますから。メッタボンの持ってきたアップルブランデーが思いの外美味しかったせいですよ……私はそこまで強くないので自家製トニックウォーターみたいので割って飲みましたけど、セバスチャンさんとメッタボンはストレートでかっぱかっぱと飲んでましたからね……。
そして二人とも涼しい顔して仕事に戻りましたからね……いやまあ頼もしい限りですけどね。
セバスチャンさんとメッタボンとも秘密の会合仲間ということでプレゼント交換のようなことをして私はそのまま部屋に戻ってバタンキューといういつもの流れだったわけです。
僅かに頭がずきりと痛みましたが、まあ問題ありません。
あまり普段からお酒を嗜まないから時折強い度数のものを飲む機会に当たるとこうなるだけですからね。
新年は国にとって新たなる年を無事に迎えられたという大切な時期です。
昼頃には一般参賀の国民たちがやってきて、陛下のお言葉に耳を傾け、そして王族は神殿へ。国民は祝賀の祭りにと向かうのです。そして我々のような使用人はお仕事に行くわけです。
休日だからって全員が休んでいたらサービスの供給が止まるってわけですよ!!
だからって働く側も悲観しているわけじゃないんですよ。シフトの関係って方もいらっしゃるでしょうが、基本的には希望者を募ってのことですし……人が少ない城内って私は割と好きです。外宮周辺は一般参賀用に開放されているので賑やかですが……王女宮みたいに奥まったところは静かですからね。こう、冬のぴぃんと張った静かな空間が厳かな空気を醸し出して、壮麗な宮殿と……素敵なんですよこれが。
普段でしたらせかせかと侍女やメイドが早足で行き来したりする姿もこの時ばかりは数えるばかり。
このなんだか俗世と隔離されたみたいな雰囲気、年末年始に感じるのが私のちょっとした楽しみですとも。
「おはようございます、プリメラさま」
「おはよう、ユリア」
いつものようにお支度をお手伝いして、髪形を整えて。朝の熱い紅茶を一杯。
そして飲み終わるとタイミングを計ったかのようにノックの音がして食事がセバスチャンさんによって運び込まれてプリメラさまの一日がスタートとなるわけです。普段だったらメイナやスカーレットがやっていることを我々がやるというのも彼女たちからしたら不思議でしょうが、これが王女宮に移ったばっかりの頃は当たり前だったんだよなあと思うと感慨もひとしおですね。
昼までの間にプリメラさまがなさるべきお仕事は今日の段取りを確認して、まず神殿に赴き禊を行った後に改めてお着替えをなさいます。そして一般参賀の国民に向けてプリメラさまはお言葉を発することはないにしろ、手を振るというお仕事がありますので防寒着をしっかり着込んでいただかねば。
最近プリメラさまも大人とほとんど変わらない量を召し上がられるとはいえ、あんまりお昼の量は用意しないほうがいいかなあ。体が温まるシチューとかで腹持ちが良い料理を中心にしてもらいましょう。
今日はなんだか冷えますからね。天気が良いから日中はもう少し寒さも和らぐかもしれませんが、気を付けておくことに越したことはありません。
やることだけはいっぱいあるんだからねー、毎日何かしらあるものですよね。
その昔、上司によく仕事はもらうもんじゃなくて自分で探せと雑用を押し付けられたものですが……それそういう意味じゃねーだろって心の中で突っ込んだものです。だって押し付けられてる段階で探せてないんで……。
というわけで私は率先して仕事をしてこういうことをやるんですよって後輩に伝えていく先輩でありたいと思います!! まあ今のところこの年末年始のシフトを譲る気はないですけどね。
「あっ、そうだユリア!」
「はい。なんでしょうか?」
「あのね、わたし、午後から神殿でお祈りするでしょ?」
「はい」
「……その前に、ディーンさまにお手紙書きたいの。今年もよろしくお願いしますって。……だから、あの、プリメラが神殿に行った後でいいから、ユリアも忙しいしね? だからね、あの……」
「かしこまりました」
ああああああ可愛いぃぃぃ。
この間会ったばっかりじゃんって思わない、この可愛い恋心ォ!!
確かに細々忙しいですけれどもプリメラさまが神殿でお祈りの際は確かに私はそこまでお仕事詰まっておりませんから。ちゃんと手配いたしますとも。
「きっとディーン・デインさまもお喜びくださると思います」
「本当!?」
私が言えば嬉しそうに笑うプリメラさまったらもうね、やっぱり知ってたけど天使だわ。
恋する少女、尊い。可愛い。愛しい。もう撫でてあげたい。しないけど!!
「ありがとう、かあさま!」
思わずと言った感じでプリメラさまが抱き着いてきたのを受け止めて、大きくなったなあ……なんて思う今日この頃です。
悪役令嬢っぽいとか肉まんじゅうって呼ばれてたゲームの設定なんてすっかりなくなって……ユリアは嬉しいですよ!! 思わず周囲を見てからですが、ぎゅって抱きしめ返しちゃいましたね。ちょっとびっくりされましたが、プリメラさまが蕩けるような笑顔を見せてくれたので新年早々幸せです……!!
「それじゃ今から急いで書くね!」
「はい、ではその間に私はお茶の準備をいたしましょう」
「あっ、今日はね、蜂蜜のやつがいい!」
「かしこまりました」
朝ごはんも召し上がられましたし、禊前の休憩です。
ですのでお茶のみですがこの時間で書いてしまいたいとは……ディーン・デインさまは幸せ者ですねぇ。
ああーこの恋する少女の可愛らしさ、……万分の一でもいいから私に備わってるんでしょうかね?
アルダール相手に女としてレベルアップした行動を見せてやろうと息巻いてますが、正直なところメイナというメイクアップの達人もおりませんし大丈夫でしょうか。まあ自分でやれますけど。
ほら、自分でやるとどうしても普段通りから抜け出せないっていう時あるでしょう、ちょっと冒険してみようかなって思いつつ大して変わらないっていうか。
まあ、髪形とかは気をつけるつもりですしなんとかなるとは思いますけど……。
「ユリアさん」
「あらセバスチャンさん、仮眠に行かれたのでは?」
「所用がありましてな、今から行きます。ところで、手を出してくださいませんかな?」
「こうですか?」
「はい、結構」
掌を見せるようにして差し出すと、セバスチャンさんはにっこりと笑ってその手袋をしたままの手で私の手を包み込みました。なんだろうと思った時には掌に何かが載せられた感あってハッとしました。
そっとセバスチャンさんの手がどけられると、私の掌には綺麗で小さな瓶が一つ。
「これは……香水、ですか?」
「そうです。折角恋人との逢瀬で努力しようとしている貴女へ、プレゼントですぞ」
「……ありがとう、ございます」
「それで殿方のハートをがっちり掴んで朝帰りしてくださっても良いですぞ」
「そんなことはいたしません!」
まったく、このお茶目爺さんは!
気遣いに感動した瞬間にこれですよ!!
……でも、前に私が相談したことをちゃんと考えてくださってたんですね。
やっぱりセバスチャンさんは頼りになるなあ。ちょっぴり意地悪で謎が多い人ですけど。
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