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「ふう……」


 今日も一日が無事終わりました。

 ええ、まあちょっとしたことに悩んだりする余裕があるのも平和な証拠ですね。

 執務室をノックする人ももうこないだろうと、自室の方へと移動して扉を閉めました。ホント続き部屋って便利です。扉一枚でいらっしゃいませマイルーム!

 正確には大きめの部屋と小さめの部屋の間にさらに小さめの通路みたいなものがあるという作りです。間取り図で言えばL字型みたいな?

 その小さめの通路っていうか小部屋両側には扉があってそこは鍵をかけられる仕組みなので、有事の際に使うんです。普段も夜は防犯上、鍵をかけてますけども。

 ちなみに小さめの通路とはいえ小物を仕舞える戸棚が備え付けられていたりと便利ですよ。

 私はここにとっておきの茶葉とかお菓子とかを仕舞っております!


 セバスチャンさんが去った後にミュリエッタさんへの書状は丁寧に返事を書きました。

 ちゃんと悩んでばっかりとかじゃなくてお仕事もしておりますとも。筆頭侍女として当然です。

 内容については、ええ、そりゃもう。こちらとしてはあの非公式のことを持ち出されても“何のことかわかりません”からね。ちょっとわからないから統括侍女さまにご相談申し上げてからまた改めて、ということで締めておきました。

 ま、そういうもんだと彼女には社会勉強と思っていただきましょう。

 統括侍女さまには彼女からいただいたお手紙と私からの報告書を添えて業務連絡として届けさせていただきました。急ぎじゃないですからね。重要……というほどでもありませんから。

 統括侍女さまだって王族の方が新年のお祈りに向けて神殿準備を司祭さまと進めてらっしゃる最中でしょうから急ぎ扱いにしたらご迷惑でしょう。

 それを終えたらもうお仕事も落ち着いたもので、いつも通り過ごさせていただきました。


(それにしてもセバスチャンさんめ……恥を忍んで男心を聞いたのに、ちょっとくらい教えてくれたっていいじゃないですか……)


 いやまああれも予想の範囲内。寧ろ他力本願良くないですね、反省しましょう!

 あの投書のことをセバスチャンさんに「その程度」って言ってもらって私も「そうだよね」って思えただけ良い結果です。

 誰かにこういうことを話すってのは精神的に安定剤になるんだろうなあって話を思い出しますが……こういう時そういう知識をもうちょっと前世の自分が学んでいてくれたらと思ってしまいますね、いや自分なんだけど。


 いやぁそしてミュリエッタさんは本当に予想外の行動をしてくれるよねえ……なんであそこまでこっちに関わってこようとするのかな。

 そりゃそうか、アルダールと接触持ちたいんだもんね。ハンス・エドワルドさまの方とはどうなってるんだろう? 聞いといた方が精神上対策もとれていいのかなあ。

 でもわざわざ聞きに行くというのも地雷を踏みに行くという感じが否めないしなあ。


(いやいや、私が悩むべきところはそこじゃないな)


 アルダールと出会ってもう一年近く経つんですよねえ。その内恋人期間というのはまだ短いわけですが、彼の食事系に関する好みは把握済みですよ! といっても一緒に食事に行ったりしてなんとなくそうだろうなー程度なんですけど。あれ、なんか食べ物の好みだけみたいな……違うからね、それだけじゃないからね。

 と、いうわけでプレゼントをね、用意してみたわけですよ。

 ほらなんだか恋人らしいでしょう! 色々悩んではいるものの、ちゃんと行動だって試みてはいるんですよ!!

 恋愛ごとに正解はないと理解はしてますが、知識や経験に基づいての判断ができる人とそうでない人では不安のベクトルが違うんですよ……。

 

 とはいえ新年祭ですよ新年祭。これに乗っからないわけにはいかない。

 新年祭は一般的には家族と過ごすイベントですが町はお祭り状態な訳です。

 で、そこに商業的な色んなものが重なってね、なんだか新年祭は前世でいう所のクリスマスとバレンタインデーが合体したみたいな感じなんですよねえ。

 家族間とか親しい人とプレゼントを交換したり贈ったりして今年もよろしくお願いします、みたいな。

 特に恋人とか婚約者は特別なプレゼントで一年の始まりを迎えませんか、みたいな商業戦略がね?


 今まで私もそれに縁がありませんでしたが、こういう時は乗っかるもんだよね!!

 いやあ、今までイベントがなくても恋人なんだからいつでもいいじゃないかと思ってた時期が私にもありました。ええ、私みたいな人間はこういうのに乗っかったらいいんだと単純ですみません。

 後は渡すタイミングですが……。

 それと新年祭に着ていく服か。


(セクシーなのキュートなの、……なんて歌があったなあ)


 ホント、前世の私頼むよ。

 いやそれ自分だわ。


 なんて思うくらいこういう時どうしたらいいのか対処方法がわからない。

 今までは前世の記憶がある分、『同年代に比べて』大人びていたり経験則があったわけですが。もうそろそろその年齢に近づいている以上、私はこれから自分単体で勝負していかなきゃいけないわけです。

 そもそも前世の経験にないことは学ばないといけないんですけどね!

 侍女という天職を見つけてプリメラさまとほのぼのしてる生活を守るために頑張ってきたわけですから、そのスタンスは崩しませんけど。

 仕事が充実して恋愛充実という両立を目指すのも悪くないことのはず!!


 とまあ意気込んで持っている服を幾つか出してどれにするか悩んでみるものの決まらないわ。

 どうするかなー、色はこっちのほうがアルダール好きだろうけど形はそっちか……いやその服選んだら髪型難しいな、意外と私乙女な悩みしてんな、これがリア充か。


「服、悩んでるの?」


「はひょっ!?」


 唐突に、声を掛けられて変な声出た……!!

 あれっ、私鍵かけたと思ったんだけど。


「く、くりすとふぁ……?」


「うん、お手紙、持ってきました」


 どうしたのと言わんばかりに小首を傾げるクリストファですが、あれ? 私鍵かけなかったかな……?

 あまりにも自然にクリストファが自室の方に入ってきた辺り、そうなのかもしれない。

 お手紙を持ってきたクリストファはお仕事なんでしょうが、宰相閣下からでしょうか。

 それにしても心臓が口から飛び出るとかいうのをリアル体験する羽目になると思いませんでした……。現実にこんなことあるんだなあ。


「あの、クリストファ?」


「なぁに」


「私、部屋の鍵……かかってませんでした?」


「執務室ノックして入ったら、こっちの部屋までドアが開いてたから。ユリアさまが、こっちの部屋にいるんだと思って……だめだった?」


「い、いえ。ああでも、人の部屋に入る時は声を掛けないとだめですよ」


「気をつける」


 あれぇ、閉め損ねてた? 

 いやそんなはずは……その上鍵をかけ忘れた……?

 普段からの行動で、執務室から自室に戻った時には必ずかけているはずなのに。

 まあ人間だから忘れることも多々あるから、今回もそうなんでしょうが。うっかりにしては……いや、まさかクリストファがピッキングしたとか思いたくないっていうかそれだったら防犯ってなんでしょうって話になっちゃうし、いやでもかけたかけないは私のうっかりというオチも無きにしも非ずであって。


 私の様子から目の前のクリストファも何かを感じ取ったのでしょう。金色の目が不安そうに私を見ていたので、慌てて笑顔を作りました。

 彼は敵じゃない。正確には、私が宰相閣下とビアンカさまの敵でない以上クリストファにとって敵でもない、という話だし私は仲良しだと思っているから……。

 だから、大丈夫……だよね?


「それでクリストファ、お手紙は宰相閣下から?」


「ううん、ビアンカさま」


「お返事は?」


「いらないって」


「そう、ありがとう。今日はもう遅いけれど、ホットミルク飲んでいきますか?」


「ううん、今日はいらない」


 ふるふると首を左右に振るクリストファはなんだか子犬みたいで可愛いです。

 相変わらず表情は乏しいですが、やることなすこと可愛いですねこの子……。

 しかしさっきはびっくりしましたけど。


「それじゃあ、行くね」


「あ、じゃあ部屋の外まで送ります」


「いいのに」


「送ってあげたいからいいんですよ」


「……そうだ、あのね」


「はい?」


 くいっとスカートを掴んで引っ張る姿は子供だなあと微笑ましくもなります。

 普段は宰相閣下のところで、公爵家の下男らしく細々働いている少年なので大人びても見えるんですけれどホットミルクが好きとかこういう仕草とか、やっぱりまだまだ子供だね!


「右側の方が、ユリアさまに似合うと思う」


「え? ……ああ、服ですか?」


「うん。そっちのほうが、絶対にいいよ」


「……ありがとう、クリストファ」


 デートに行く勝負服選びで悩んでいる姿を見られた挙句に年下美少年にアドバイスをもらうとかなんたる……!!

 とは思うものの、自分では決められそうになかったし素直にお礼は言いました。

 私がお礼を言ったのを聞いて、クリストファも満足したのか最後は微笑んで去って行きました。


 うーん。


 うん。


 ……今度はちゃんと扉を閉めて、鍵をかけ忘れないようにしましょう!!

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[良い点] クリストファ君、さりげなく鍵がかかってたかどうか答えてないですね……。
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