140
プロジェクト テレジューク
「舞台『本の門番~ぶくぶく食堂物語2~』」に転生侍女が取り上げられることになりました!
2018年7月11日から15日まで東京・シアター風姿花伝で上演。
舞台の内容を撮影編集したテレビドラマ版はテレ玉(テレビ埼玉)にて今夏放送予定!
ディーン・デインさまとのお茶会から、プリメラさまの様子がおかしい。
私にはわかる。誰よりもプリメラさまのお傍にいるって自負してますからね!
なんたって、プリメラさまの専属侍女ですから。最近忘れられがちですが、筆頭侍女である前に私はプリメラさまの専属侍女ですからね。
その上、今はスカーレットが先に新年祭に向けて帰省したので若干王女宮も静かです。
メイナはちょっぴり張り合いがないのか、元気がありませんが……仲良きことは美しきかな、ですね!
さて問題はプリメラさまの方です。
勉強も、花嫁修業としての国内情勢の把握も、ダンスも、趣味の刺繍(といいつつ花嫁修業の一環)もいつも通りこなしておられますけれども。ビアンカさまがお越しになってのお茶会では笑顔でしたけど。
でも、何もないプライベート時間で外を見ている姿を私はしっかり見てますよ!!
生誕祭も終わって、気が抜けてしまった、という事でしょうか……。
いえ、何か違う気がします。
ディーン・デインさまとのお茶会、これがきっとポイントです。
でもお茶会では大変楽しそうにしておられましたし、ディーン・デインさまとの次の約束などもしておられましたし、そこで問題があったとは思えません。
だとしたら、私の勘ですが……やっぱり学園の話題でしょうか。
私自身も通ったことはありませんし、通う必要もなかったものですから正直どうでもいい……じゃなかった、気にしたことはありませんがプリメラさまがお気になさるようでしたらどうにかして差し上げたいと思うのは当然のことですとも!!
「プリメラさま」
ただ、どんな理由でとかどんな内容かにもよりますので人払いはさせてもらいました。
緊急の要件以外はセバスチャンさんに割り振るようにメイナにもお願いしておきました。あれ私ったらちょっぴり有能っぽい!
……最近誰も褒めてくれませんからね、こうして心の中でくらい自分を褒めてもいいじゃありませんか。
いえ、一応園遊会の折はバルムンク公爵夫人をお助けしたという事で褒めていただきましたけどあんまり嬉しくないっていうか。あれ、こうして考えると私なんだか贅沢でしょうか。
まあそれはともかく!
「なぁに? ユリア」
「今は人払いをしておりますので、できましたら正直にお気持ちをうかがわせていただけませんか?」
「えっ、なぁに?」
「何かお悩みがおありではございませんか。ディーン・デインさまとのお茶会で何かご懸念が?」
「……大したことじゃないのよ?」
「でもおありですね?」
「ほんっとーに大したことじゃないのよ?」
ちょっとだけ拗ねたような顔を見せて、それからふいっと外を見るように誤魔化すプリメラさま可愛い!
いや可愛いけど、このまま消化不良にさせるよりも人に話してみて解決できれば良し、解決できなくてもため込まずに済む方が良いと私は思います!
だってプリメラさまは王女さまですけれども、今のお悩みはきっと一人の少女としての悩みなのですから。
「……学園ってね、女の人もいらっしゃるんでしょ?」
「さようですね、……寮はそれぞれに離れた場所に用意されていたと思いますが、授業そのものは共学であったと思います」
「ディーンさま、色んな人と出会われるのよね。今まで以上に、たくさんの世界を知るんだわ」
「プリメラさま……」
あ、これはあれか。ディーン・デインさまが大勢の人と出会うことによって広がる世界に、彼の興味が持ってかれちゃうんじゃないかとか置いてかれちゃうんじゃないかって不安に駆られてるのかな?
それに最初の質問が女の人が……ってことはこれってジェラシーってやつじゃありませんか。やだあああああ乙女! うちの姫さまが可愛い!
いやあでもその心配は要らない気がしますよ。あれだけディーン・デインさまったらプリメラさまに対する表情が蕩けてたっていうか恋する男子のバージョンアップっていうか、メロメロだなあって感じましたもの。
「わたしは、わたしの世界はこの城の中だけ。勿論、それが狭いとは思わないの。むしろ人によっては広大だと感じてると思うの。でも……わたしは、そう、ミュリエッタ・ウィナーが羨ましい」
「え!」
思わず声を上げちゃいましたが、プリメラさまが気になさる様子はありませんでした。
しかしプリメラさま、彼女に次がないというのを御承知の上で何故“ミュリエッタ・ウィナー”が羨ましい、などと……。前回プリメラさまの機転によって何とか罪に問われずに済んだ彼女ですが、一体全体どこが羨ましいんだろう?
「……なりたいものを探し、学ぶ機会を得て羽ばたいていける人が、羨ましい……。彼女はまさにそれだと思うの。実力で人々の救いとなり、認められ、そして学ぶ機会を得て、……ディーンさまや他の人々と切磋琢磨してこの国を支えていく一人となるんだと思うと、わたしは、どうなのかなって」
おっと違った、もっともっと思慮深いことでした!
いやあ、そういう考えを持っている人の方が希少ですよとは言えませんし、ミュリエッタさんはそんな崇高な考えなさそうでしたがとは口が裂けても言えません。
学園に通ったらもしかして人間変わったくらいすごく成長するかもしれませんし。今だってスパルタ令嬢教育を受けてるって話ですから。
「プリメラさまは、立派な王女であられると思いますが」
「お姫さまになりたかったわけじゃないもの。……姫じゃなかったら何になりたかった、とかはないけど。勿論、人に羨まれる生活を送らせてもらっているし、今に不満があるわけじゃないの。でも、もしわたしが……王女じゃなくて、あの人みたいに冒険者の娘として自由を生きたら、どうなっていたのかなって」
「……」
「学園に通えるかどうかも、わたしにその資格があるかもわからないけど。そうしたら、ディーンさまとも肩を並べて学べたのかしらって」
「プリメラさまが、頑張っておいでなことをディーン・デインさまもよくよくご存知です。だからこそ、あの方も学園という場で己を高めるために赴かれるのです。プリメラさまに見合う人間になりたいとおっしゃっていたではありませんか」
「……わたしはこのクーラウム王国の、今代唯一の王女。それは確かだけれど、ディーンさまに頑張っているって思ってもらえるほどの王女なのかなって不安なの。ミュリエッタは綺麗で、すらっとしてて、胸もおっきくて、頭もいいんでしょう? そういう人がきっと学園にはいっぱいいるのよね。男の人でもきっとお兄さまみたいにすごい人がいるのよね。そうしたら、ディーンさまはわたしをつまらない女の子だなって思わないかな」
「思われるはずがございません!」
思わず強く否定すると、プリメラさまがムッとしたように私の方を振り返った。
でもその顔は少しだけ嬉しそうで、ああもう、可愛い! 可愛い!!
「どうしてそう思えるの?」
「そのネックレスはディーン・デインさまがご自身の目で何度も確かめられてから、プリメラさまのお好きなオレンジの薔薇だということで選ばれた逸品でございます。それはプリメラさまもご存知でしょう。それほどまでにお心をくださったディーン・デインさまをそのようにお思いになってはいけません」
「……」
「ご学友というものは、確かにプリメラさまの御身分ですと少々難しいかとは思いますが……私たち王女宮の人間もあくまでただの使用人ですし友人と呼べるようなお方の候補となりますと……」
うーん、これは王太后さまにご相談してみるべきかなあ。
そう思って思案し始めた私のスカートが、くいっと引っ張られました。
見ると、プリメラさまが拗ねた表情のまま顔を赤らめて、私を見上げているじゃありませんか。
「……ユリアは、ただの使用人なんかじゃないわ。プリメラの、大事な、かあさまなんだからね」
「プリメラさま……」
「ぷ、プリメラは子供じゃないもの! ちょっとだけ色々考えちゃっただけで、大丈夫よ。立派な王女になろうって思ってるんだから。そういう未来もあったのかなって思っただけなの」
「さようですか。それは……余計な心配をいたしまして、申し訳ございません」
「いいの。……ありがとう、ユリア。ううん、かあさま」
ふにゃっと表情を崩して笑ったプリメラさまは、王女じゃなくて可愛い私の娘としての顔だった。
あああああ可愛い!
思わずお互い顔を見合わせてにこにこしちゃいますよねー、癒しですよねー!!
「かあさまに話したらすっきりした! ……プリメラももう十一歳でしょ、だからあんまり甘えて子供っぽくちゃいけないと思ってね。ディーンさまに見合う大人の女性にもなりたいし」
「良いじゃございませんか、私は甘えていただけた方が嬉しゅうございますよ」
「ほんと? じゃあ、……これからも、お願いします!」
「はい、承りました」
ああープリメラさま、ご立派に成長なさいました。
ご側室さまがもしご覧になっておられたら、きっとお喜びのことでしょう。
私?
勿論嬉しいに決まってるでしょう! 当然です!!