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 ちょっとだけ視界が開けた気がします、マシュマロ効果でしょうか? それともプリメラさまの笑顔のおかげ?

 まあ……悩みがなくなったわけじゃないですけど。

 現実だー、ゲームだー、と悩んでいたのがウソのようだ……とまで割り切れたわけじゃありませんが、よく似た世界で私は生まれて歳を重ねて今に至るんだなあと改めて思いました。

 前々から頭では“そう”だとわかっていたはずなのですが、今更なんだかパズルのピースが嵌ったかのように実感したんです。


 でも恐らくですが、ミュリエッタさんはまだそうなっていないと思います。

 ゲームと同じように、とまでは行かなくてもゲームみたいになんとでもできると思っているのではないかとちょっと勘繰ってしまいます。彼女自身の前世はわかりませんが、『ミュリエッタ』という器はチートに違いありませんからね。

 使いこなせるかどうかは別問題ってやつですが……まあ冒険者をしていたという事から荒事も多少はオッケーなんでしょう。私とはまったく接点がなかったですよねえ、アルダールの事を除けば。


「ユリア?」


「はい、なんでございましょうか?」


「ねえ、変じゃない? 大丈夫?」


「プリメラさま、落ち着いてください。もうその質問五回目ですよ?」


「だって……ねえ、本当に変じゃない? ディーンさま可愛いって思ってくださるかしら?」


「大丈夫ですとも。私を信じてくださるのでしょう? プリメラさまはとても可愛らしいです。自信をもってくださいませ」


 そう、余計なことは考えている場合じゃなかった。

 今日はとうとうプリメラさま念願の、ディーンさまとのお茶会の日。


 マシュマロもあれから何回か試行錯誤して完成度の高いものができるようになりました!

 まあゼラチンを抽出するために牛肉料理が増えたのはご愛敬ですが……これで精製法も確立できたとメッタボンが晴れやかな笑顔でしたので手伝わされた使用人たちの苦労も実を結んだということですね。

 どういうことかって?

 その確立した精製法をジェンダ商会に売ったんですよ。お代は定期的にゼラチンを送ってもらう事で契約済みです。ふふふ。


 キャンディ作りでこの国有数のジェンダ商会ですから、きっとゼラチンを使ってのゼリービーンズですとかグミですとか開発してくれるに違いありません。それとなくレシピもお手紙に交ぜておきましたしね!

 いやー美味しいグミキャンディ、楽しみですね!!


 おっと、欲望がダダ漏れになった。

 いえいえ、ジェンダ商会を利用するのは一般庶民。多くの人が安価で美味しいお菓子を食べれるようになるなんて素敵じゃないですか!

 キャンディだけでも勿論ジェンダ商会を利用する理由になりますけどね。

 ……キャンディに種類を作り出した理由が、幼いころのご側室さまのおねだりだったなんてお話は、私の宝物です。あの優しい味は、思い出が詰まった味なんだと思ってます。

 ちょっと感傷的ですかね。


 でもだからこそ、ジェンダ商会にゼラチンを使って欲しいと思ったんですよね。

 まああわよくば美味しいグミでローカロリーのおやつゲット……とか……いえ、ほんのちょっとだけです。

 おっといけない。また考えが逸れちゃった。


 お約束の日が近づくまでの日々、プリメラさまはそれはもう女の子らしくあれやこれやとディーン・デインさまに褒めていただきたくて頑張っちゃう健気さで! そわそわしっぱなしですよ。髪型どうしようとかドレスはどれがいいかなとか……まあアクセサリーはディーン・デインさまからの贈り物一択というのがまた健気じゃないですか!

 大丈夫、シンプルなのでもゴシックなのでもプリメラさまだったらなんでも似合うから!

 髪型だってただ下ろしていても編み込んでも結ってもどれも素敵だから!!

 私たちのアイドルですもの!!


「失礼いたします、ディーン・デインさま、並びにアルダール・サウルさまがお越しにございます」


「あっ……!」


「プリメラさまはどうぞ座ったままでお待ちくださいね。ありがとうスカーレット、お二方に入っていただいてください」


「かしこまりました」


 まだちょっとだけツンとすました顔を見せるけれど、スカーレットもすっかり侍女が板につきました。

 あれだけの所作ができるのだからもうこの王女宮で立派な一人前扱いでいいと思います。預かった時はハラハラしたものだけど、人間ってあっという間に成長するんですねえ、驚きですよ。


「あの……そうだ、ユリアも隣の部屋でアルダールと話をしてきてもいいのよ?」


「……え?」


「ここはメイナとセバスもいるし、隣の部屋に居るならいつだってわたしが呼んだら来てくれるでしょ?」


「それは、まあ、そうですけれども。……え、プリメラさま?」


「ふふっ、あのね、やっぱりわたしだけ幸せなのも申し訳ないなって!」


 あああああ可愛い!!!

 可愛いけど、ええ……いやいや、確かに私とアルダールだって恋人同士ってやつですけどね?


 でもほら、今職務中ですから!

 アルダールだってディーン・デインさまのお付き代理でお越しでしょうし、いくらなんでも別室でのんびりしてていいよってわけにはいかないでしょう。


「なんですか、セバスチャンさん。メイナも。にやにや笑って!」


「いいええー! 折角姫さまが仰ってくださってるんですから、いかがですか?」


「そうそう、我々がおりますからな。ご心配には及びませんぞ。勿論なにかありましたら筆頭侍女さまをお呼びするとお約束いたしますとも」


「ふたりとも……!」


 面白がってるな!?

 ものすごく面白がってるな!?


 プリメラさまが善意マックスで言ってるなら、二人はからかいマックスですよ!!

 くっ……まだです、まだ負けてませんからね。


「……プリメラさま、お言葉は大変ありがたく思いますが私もアルダールも互いに休憩時間などを縫って会っておりますし、お気になさらないでください」


「そう?」


「ええー……」


「メイナ、お茶の準備はきちんと済んでるんですよね? セバスチャンさんも! 私はタルトを持ってきますからしっかりお願いします」


「はい、かしこまりました。……当宮の筆頭侍女は本当に職務に忠実で、まこと使用人の鑑でありますなあ」


「褒めていると受け取っておきます」


 まったくこの食えない執事長ったら!

 まあ皆がね、私の恋愛を応援してくれてることくらいは理解してますけどね。


 ……恥ずかしいじゃないですか、なんですかそういう前面に押し出した応援はちょっと……。

 いえ、確かに私が尻込みする場面も多いですし、アルダールにも色々気を遣わせているって思ってますし、そういう時はみんなの応援がありがたい時だってあるんでしょうが。


(でも、ほら……今じゃなくていいんだって!)


 今はね、プリメラさまとディーン・デインさまのお茶会のふんわかした雰囲気を愛でたいのよ!

 わかるでしょう。わかるでしょう?


 癒しなんだって。超癒しだって。

 きっとアルダールだって同じように思ってますからね、あの人は弟想いですからね。ブラコンではありませんが。


 作っておいた、タルト・タタン。

 可愛くまんまるに作り上げたマシュマロと、熱い紅茶。


 ……勿論、ちょっとずつ取り置きはしてあるから。後でアルダールにも振る舞いますよ。

 私だって、ほら、なにも進歩してないわけじゃないんだからね!!


「本日はお招きにあずかりましてありがとうございます、王女殿下。ご機嫌麗しくお目にかかれて光栄です」


「ようこそいらっしゃいました、ディーンさま。どうぞお寛ぎくださいね」


 スカーレットの案内でやってきたディーン・デインさまがご挨拶の口上を述べてお互いを見てふふっと笑い合う姿は……ああああああ、やっぱり思ってた通り可愛いー!!

 その後ろでアルダールが私の方に視線を向けて、ちょっとだけ苦笑を浮かべた気がしますけど。

 なんですか、可愛いものを可愛いと愛でて何が悪い!!


「ユリアさま、いつでも隣室にお茶の用意しますからね?」


「……メイナ、変な気の回し方をしなくてよろしい!」


 ちょっと外野も落ち着こうか!!

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