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 行くぞ、と言われて私たちも王弟殿下に続いて外に出ました。

 もうこれ以上ここにいるなと言外に告げられているのだとわかってますからね、大人しく従いますけれども。私たちもいたいわけじゃありませんし。


 とはいえ、退室の際にちらりとウィナー父娘へ視線を向けたのですが、ミュリエッタさんが統括侍女さまにお叱りを受けていて、ウィナー殿がうなだれていて、これから華やかなパーティだと心躍らせていたであろうに……と思うとちょっと(ウィナー殿が)可哀想な気がしてきました。

 まさかミュリエッタさんがあんな事するなんて予想してませんでしたからね……。


「いやー、思いのほか時間を食っちまったなあ。お前らもご苦労。後は気にせず観劇を楽しんで来いよ」


「……王弟殿下は今回、このようになることを予見しておられたのですか?」


「まあここまでとは思わなかったがな。だが誰も傷ついちゃいない上に良くまとまった。そうだろう?」


「プリメラさまは、ご存知で……」


「いや。あいつは単純に礼を言いたかった、そこだけだ。だが、プリメラは王女だ。王族としてオレの言から察することはあったろう。……それでいい」


「……かしこまりました」


 あんまりプリメラさまをそういう(・・・・)現場に立ち会わせたくないんだけどなあ。

 腹黒いやり取りというか、社交界とか今後ではどうしても避けて通れないと思うけどね。そりゃ王族ですし。清廉潔白なだけではないでしょう、清濁併せ呑んでこそという部分はどうしても生じるのですから。

 とはいえ、まだプリメラさまは王女とはいえ十一歳の、子供なのです。

 私がもやっとしたものを心に感じたとしてもしょうがないと思いませんか! それを持ち込んできた王弟殿下に対してちょっとモヤモヤッとしたものを感じたってしょうがない!!

 

 次にプリメラさまのおやつを狙って来たら即王弟殿下の秘書官に連絡してやろう、そう心に誓いましたとも。ささやかな反抗ですよ。秘書官さんだって嬉しい話ですし誰も困らないし、良い反抗方法だと思いません?


「お、そうだユリア」


「……なんでしょうか」


「そのドレス、似合ってるぞ。なかなか淑女に仕上がってるじゃねえか」


「ありがとうございます」


 にっかり笑って褒めてくるそれは正直、レディを褒める言い方じゃないよねと思わないわけじゃないですがまあ悪意なく褒めてくれてるってことくらいはわかるから素直にお礼を言いました。

 女ったらしで有名なこの人が“見れる”と保証してくれたんですから、ちょっとは自信を持っていいってことでしょうしね! これならアルダールと並んでいても大丈夫かな。

 そんな風に思っていたら手を取られて軽くキスされました。

 思わず目を丸くしてしまったし、理解して一気に顔が熱くなりましたけど!

 でも、まあ……王弟殿下が面白そうに笑ってるのを見たらすぐ頭の中は冷静になりましたとも。


 これはこの人の悪戯の延長ってやつなんだろう、と判断します!

 髪の毛とか引っ張ったりとか眼鏡とったりとかエプロンの紐をほどくとか前にそういう悪戯してきた時にこういう笑みを浮かべてましたからね。これもそれと同じなんだと思うとびっくりしてやるのは癪だったので堂々と淑女として受け入れてみせましたよ!

 容姿を褒めて指先にキスを落とす、それは紳士が淑女にする礼ですからね。私という子爵令嬢に王弟殿下がご挨拶くださったというだけの話。ただそこに、普段地味な侍女とそれをからかうサボリ癖のある王族っていう本性があるだけで……。

 ちなみに悪戯に関しては他のメイドとか侍女とかにも似たような事をよくしてるって聞いてますからね……子供か。スカートめくりとか犯罪的じゃなくて良かった!


 まあ、冷静ではありますが……直視はできませんけど。腐ってもイケメンですから。おっと失礼。


「なんだ、アクセサリーは随分大人しいモンしてんな?」


「あ……いえ、私はあまり夜会に出る機会も無かったのでどういうものが良いのかよくわからず……」


「後でアルダールにでも買ってもらえ。そのくらいの甲斐性はあんだろ?」


「彼女が望んでくれるなら、いくらでも贈ります。……王弟殿下、もうユリアから手を放していただいても?」


「おっと、こりゃ悪かった」


 ぱっと手を離した王弟殿下はご機嫌が良いようで満面の笑みを浮かべていますが、反対にアルダールの機嫌があんまり良くない。

 そりゃそうか、目の前で恋人が上司(?)から気安く触られてたらね! 挨拶だってわかっててもからかわれてるのがありありとわかってるから余計に面白くないよね。うん、よろしくない。

 こういうからかいを上手にかわせるようになりたいものです。相当難しそうだけど。

 相手が王族だから下手に叱られないようにしようとか、気安い相手だからとか、そういうのばっかりじゃダメなんだよ! 変な大人に絡まれたらどう対処するかプリメラさまやスカーレットに教えたように、私だってやればできるんです! 気をしっかり持つんだユリア!!


 そう内心気合を入れてみたところで、ニヤニヤ笑う王弟殿下がアルダールの方をじーっと見てから私の方にふいっと視線を向けてきました。


「ユリア、お前ちょいと耳塞げ」


「は……耳、ですか?」


「おう、こう、ぎゅーっと」


「え、私に聞かれたらまずいお話ですか?」


「そうだなあ、騎士としてってやつかなあ」


「……」


 なんだか嘘くさい。

 思わずそう言いそうになっちゃいましたよ!


 まあ口にしてもこの場ならお許しいただけそうですけど。

 でも騎士としてのお話って言われたら嘘くさいけどこの人、軍務省のトップだしなあ……ここは大人しく従っておくしかないですかね。

 もしかしたらミュリエッタさん、もしくは先程忠誠を誓う事になったウィナー殿絡みの話かもしれませんし。それなら確かに私が知るべき内容じゃないような、あれ? 隠すほどの事か……?

 いえ、腹黒な王弟殿下のことですから。そう考えたらやっぱり聞かない方がいいのかもしれない。


 ぎゅっと自分の耳を押さえ込むと、王弟殿下が満足そうに笑って頷きました。

 アルダールの方に視線を向けると、怪訝そうな顔してますね。まあそうだろうなあと私だって思うもの。

 漏れ聞こえて来るかなーと思ったんですが、アルダールが王弟殿下の言葉に思いっきり眉間の皺を寄せて私に手を伸ばしたかと思うと、手に手を重ねて『絶対に聞かせない』オーラを見せてきました。


 えええ、一体何を話してるんだ!?

 そんなに聞かれたらまずい話をしてるの!?

 いえ、聞こうなんてしてませんよ。ちらっとこの手をどけたら何話してるのかこっそり聞けるなあとか思ってなんかいなかったですって。


 王弟殿下はそんな私たちの方を見て面白そうに笑ってましたが、話は終わったらしくひらひらと手を振って去って行かれました。

 そのお姿がだいぶ遠のいてから、アルダールがようやく手を放してくれました。


「……あの、アルダールさま。そんなに重要なお話だったんですか?」


「……」


「アルダールさま?」


「いや。貴女の恋人として、騎士として、きちんと守るようにと言われただけだよ」


「えっ、何か不穏な事とか起きるんですか……」


「あっ、違うよ。そうじゃなくて……なんて言えばいいかな、まあ……うん、遅れるから馬車の中で話そうか」


「……言いにくい事なんですね」


 困ったように曖昧に笑うアルダールに、私も追求しちゃいけないんだなーって察しました。

 こういう察するのって大事ですよ! 空気が読める日本人! じゃなかった、現在はクーラウム国民ですが。デキる侍女はこういう時に察する能力が必要なのです。そしてそれに応じてどうすべきかも対処はばっちりですよ。ふふふ。


「でしたらもう聞きませんから、お仕事のことばかりではなく観劇のことでもお話しいたしましょう。アルダールさまも今日はもうお仕事ではないのですから」


「……ユリア、でもね」


「さあさあ、遅れてしまいますよ?」


 ちょっと恥ずかしいですが、アルダールの手を取って私が歩き始めれば彼も観念したように歩き始めました。

 それでいいんですよ、アルダールを困らせたいわけじゃないんですもの!

 ……まあ、ミュリエッタさん関連だったら私も知っておきたいなーなんてちょっと思ったりはしたんですが、それでもああやって王弟殿下が釘を刺したんですから当面は大人しくしてくれるでしょうし、私が前に考えていた通り教育の方に力が入るようになるならば、王城に来るときに会う確率なんてわざわざ向こうが面会を要求してこない限り無いでしょう。

 その上、私やアルダールに面会要求したところで今までがありますからね、周囲から止められること間違いなしです。


「……もうちょっと食い下がってくれてもいいんだけど」


「なんですか?」


「なんでもないよ。そうだね、遅れてしまう前に劇場に急ごうか。馬車が混みあうといけないからね」


 ……やっぱりもうちょっと聞いた方が良かった?

 でも今更食い下がれない、という点はどうしたら……!!


 ここはこうです。

 必殺:聞こえなかったフリ。


 仕方ないでしょう!?

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