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「って……ああ!!」


 可愛い可愛い弟のメレク、その婚約者、オルタンスさま。

 まだ会ったことのない未来の義妹(いもうと)


 でもどこかで聞いたことがあるんだよなあってずっと気になっていたんだけど、生誕祭に向けての書類業務をしている時でした。

 思わず大声出しちゃったじゃありませんか。防音性のある部屋で良かったです。

 でもパーティに関する書類をまとめたバインダーを届けに来てくれたメイナを驚かせてしまいましたが。


「ど、どうかなさったんですかユリアさま!?」


「あ、いえ、ちょっと思い出したことがあって。でも大丈夫よ、私個人の話だから」


「……なら、いいんですけど」


「本当に大丈夫よ、ありがとう」


 いやあ、思わず声を出すくらいびっくりしたわぁ……。


 オルタンス・フォン・セレッセ。どこかで聞いたことがあると思ったけど違った。聞いたんじゃなくて『見た』んですよ、前世のゲーム画面で!!

 ヒロインが学園で図書委員を選択すると、先輩として登場するんです! 王子ルートを攻略するためには必要だったんだよね。

 彼女は「将来は兄に倣って外交官になりたいの」っていう出会いイベントでの会話以外、特別スチルとかもないサポートキャラ。貴族社会に疎い主人公に何気ない貴族令嬢としての会話をしてくれて、それがフラグに繋がるっていうね。


 でもほら、そういうキャラがまさかここでモブ・オブ・モブの私と関わってくるとは思わないじゃん……?

 っていうか外交官目指してるのにうちの弟と婚約調っちゃっていいのかな。実はイヤイヤとかないよね? いや、貴族間のことだから本人の意思よりも家同士の繋がりを重視する場合もあるわけだし。そう思うと変な汗が出てきちゃいそうですよ……。


 はぁー……しかしゲームの“オルタンス先輩”なら確かに可愛らしく、才媛という感じだわ……。

 後輩想いな感じででも学生らしい明るさで私は好きなキャラだったよ! まさかの義妹(いもうと)になるとは思いもよりませんで……わあ、どんな顔して会えばいいのやら。

 というかここでもミュリエッタさん関係者と縁が結ばれているということに驚きですよ。


 いえ、ゲーム通りにいくとは限りませんし、ミュリエッタさんが王太子殿下狙いとも限りませんが。

 図書委員を選ばない限りオルタンスさまとミュリエッタさんは学年が違う以上、接点がないわけですし。なんだなんだ、また私を悩ませようってのか!


「……なんてね」


 単なる偶然でしょう、偶然。


 そもそも私は名前も出てこないザ・モブキャラなんですから複雑に考え過ぎてはいけないってついこの間思ったばかりなんですよ。

 はあ、びっくりした。危うく書類にインクを溢すかと思うくらいびっくりしました。

 まあこれですっきりしたくらいに思っとけばいいでしょう。


 とか思った私は案外自分がそこまで割り切れるタイプの単純な人間じゃないと思い知りました!!


 いえ、お仕事に関してはちゃんとしましたけど。

 こう……もやもやするんですよね。

 やっぱり色々、私なりに考えすぎたのが原因なんでしょうね。なにがどうとかそういう明確なものはないんですけど、ふとした時にちょいちょいあれはどうだろう、これはどうだろう、って心配になるというか……。

 

 ミュリエッタさんのこととか、アルダールのこととか、ミュリエッタさんのこととか、スカーレットのこととか、ミュリエッタさんのこととか、生誕祭のこととか。


 こうしてみると、やっぱり私ミュリエッタさんのこと考えすぎですね。恋する乙女か!!

 いえ、私には百合の趣味はないんですけど。


(……なに変な事考えてるんでしょう、疲れてるのかしらね……)


 はーやれやれ。

 

 正直、ハンス・エドワルドさまが頑張って口説いてミュリエッタさんとお付き合いしてくれたら色んな方向で円満解決なんだと思わざるを得ない。

 でもなあ……多分だけど、彼女はハンス・エドワルドさまのことは眼中にない気がするんだよなあ。

 なんていうんだろう、かつてOLだった時代に見たことがある……色んな男性にモテてた女の人の笑顔を彷彿とさせるというか、理屈じゃないんだよ、こう……わかるかなあ!

 まあ私とは縁がない話だったからこそ、ちょっと遠目に冷静に見れたから覚えてるってだけなんだけどね?

 別に羨ましかったわけじゃないし、モテ術を学ぼうとこっそり見てたわけとかじゃないんだよ? うん。


 まあハンス・エドワルドさまの方もどのくらい本気かとか、ただ恋人になりたいのかその先までお求めなのかとかは親しくもない私じゃわかりかねますしね。

 

「ユリアさま、今よろしいかしら?」


「スカーレット。どうかした?」


「こちら書類をまとめ終わりましたのでお持ちいたしましたの。他に御用はございますか?」


「それではこちらを財務官、こちらをメッタボンに。それから生誕祭用のプリメラさまのドレスに合わせた靴だけれど、変更する方向で予定しておいて」


「かしこまりましたわ! 拝見してもよろしくて?」


「ええ。見ても構いませんよ」


 やる気があるのは良いけど、やっぱりこの言葉遣いとかは……いや、おいおいだね、おいおい。

 いっぺんにあれもこれも矯正できるわけがない。彼女だってこの態度でこの年齢まで生きてきたんだから、それをたった数か月で矯正できると思っちゃいけないよね!

 いやむしろたった数か月でここまで成長してくれたと喜ぶのが良い上司ってものでしょう。


 今だって私から渡された書類の内容を見るのに、ちゃんと確認するとかできるようになりましたからね。前は勝手に見て分別を求められてはむくれて……なんてこともあったんですから。今では笑い話にできますけどその時はお互い内心げんなりしていたと思ってます。

 ええ、私だけじゃない、お互いだと思えば今こうして彼女は成長したし、私も彼女を支えられたんじゃないかなとちょっと誇らしげな気持ちにもなれるというものですとも!!


(まあそれはちょっと自分を褒め過ぎましたかね……あら)


 受け取った書類の中に統括侍女さまからのメモも付いていることに気が付いて、他の書類よりも先に目を通すことにしました。

 今は特別急ぎの案件はなかったはずですからね!


(なになに……ミュリエッタさんの謝罪の件か……。ふむふむ)


 まあ謝罪を受けるだけだし、向こうも礼儀作法のチェックの後だっていうことでそんなに時間はかからないってことだからそんなに身構えずに行こうかな。場所は内宮の応接室か……まあそりゃそうか、私とか統括侍女さまの執務室ってわけにはいかないものね。

 まだミュリエッタさんは正式に令嬢じゃないわけだしね。


「それではワタクシはこれで。……ああ、そういえば」


「どうかしましたか? スカーレット」


 書類を一通り眺めて満足したのか、スカーレットがスカートの裾を摘んでお辞儀をひとつ。

 そしてドアを開いて、私の方を振り向いた彼女は純粋に思い出しただけという風に瞬きをして、私に言った。


「急ぎではないとのことでしたので失念しておりました。先程、プリメラさまがお呼びでしたわ」


「そういうことは早く言いなさい!」


「えっ、えっ?」


「説明は歩きながらします。ほら、行きますよ」


 あ、全然まだ成長してないわこの子!!

 やっぱり私もまだまだですね……。

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