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 結局のところ、あれから実に平和な日が続いているんですよね。

 私が悩んだのってなんなんでしょう。いや、まだあれから数日経ってるってだけで城内は生誕祭に向けて着々と準備が進んでいます。王太子殿下の誕生日を祝う行事ですからね、そりゃもう国を挙げてのお祝いですから準備も大変ですよ。

 王女宮ではプリメラさまの体格が仕立ての段から変わっていないかとかの細かなチェックばっかりですけど。背がぐんと伸びたりする時期ですからね、気が抜けませんよ!!


 まあミュリエッタさんだって今頃は貴族教育を叩き込まれていて大変なんでしょう。あれから王城内には来ていないようですから……アルダール曰く、ハンス・エドワルドさまが「会えなくて寂しい」と嘆いてうるさいとの事だったので。

 スカーレットの方はと言いますと、彼女の話題が聞こえるたびに(まなじり)を吊り上げるというくらい余裕がないようです。城内ではどうしても『英雄』の叙勲が話題ですからね……それに伴って『英雄の娘』というのはどうしても注目を集めるわけですから。

 でもスカーレットが問題視すべきはミュリエッタさんじゃなくて、ハンス・エドワルドさまへどうやったら好意を理解してもらうかだと思うけどなあ……ああでもスカーレットの目的は振り向かせてからこっぴどくフりたいんだっけ。複雑怪奇すぎるわ。


「お聞きになりました? 英雄のお嬢さま、大層お美しい方だそうですよ」


「聞きました聞きました! なんでも頭脳明晰だとか……きっと生誕祭のパーティでは令嬢としてデビューなさるに違いありませんわね!」


 一見、好意的な噂話ですよね。


 これが城内のそこかしこで聞こえてくるからスカーレットの苛立ちようったら凄いですが……でもなんだかやたら英雄の娘(ミュリエッタ)のハードルを上げられている、と感じるのは私だけでしょうか。

 作為的なものを感じますが、一体誰が何の目的でそのようにしているのでしょうか。これでパーティ中に失敗でもしようものなら貴族中の笑いものになりかねませんよね?

 元々庶民出身なんだから失敗したってしょうがないよね、という雰囲気が頭脳明晰で優秀という言葉に失敗を許さないという雰囲気へと塗り替えられているような……。しかも教育係が云々じゃなくて、本人の資質が、というのを念押ししている感じがなんとも狙っているような……。

 なんとなく統括侍女さまが彼女の事を好いていない雰囲気だったからってまさかね?


(とはいえ、こういうのを聞いて回ったところでどうなるわけじゃないし……ミュリエッタさんが助けてくれって言ってきたわけじゃないし)


 スカーレットがその噂を真に受けていちいちカリカリするのはちょっといただけませんが、まあ王女宮の中で仕事をしている間は落ち着いているので当面書類とかで外出はメイナや下女たちに任せることにすれば平和でしょう。

 スカーレット自身、自分が過剰反応をしているということは自覚しているようですしね。あまりつついたり刺激をするのは良くないので、彼女が相談したいと言ってきたならきちんと相手をしたいと思います。


 ハンス・エドワルドさまに関しては……うーん、アルダールと年齢が近いと仮定して、ミュリエッタさんとの年齢差は十歳前後。まあこの世界の恋愛事情で考えればロリコン扱いはできませんので彼の恋愛観は普通かなあ、なんとなく私の中では犯罪臭がするんですけどね……そこは前世の記憶があるからでしょう。

 ミュリエッタ嬢は確かに可愛らしい女性でしたので恋に落ちるのも、容姿に対する手放しの賞賛も仕方ないかなと思いますが、それを延々聞かされてイライラするというアルダールに私はなんと言ってあげればいいんでしょうね。


 恋ってホント人を狂わすものなんですね(棒読み)。

 王女宮の中は本当に平和でありがたい事です。


 今日も今日とて愛らしい我らが主人はにこやかにお過ごしですからね!


「ねえねえユリア」


「はい、なんでしょうか?」


 プリメラさまに関しては、穏やかに恋愛を進めている姿がもう可愛いよねえ可愛いよねえ!! 政略結婚だけど本当に恋されちゃってるし、その相手の事を想い始めてるっていうこのまさに物語か、末は国内中で語られちゃうのかしらっていう状況ですからね。

 

 そんな妄想を頭の片隅でしつつ、プリメラさまの後ろで同じようににこにこしているメイナとスカーレットがいることもちゃんと見えてますよ。

 なんだろうと私が二人をじっと見れば、二人もその視線に気が付いてさらに笑みを深めてにやーっと笑ったんですよ。うん? なんだろう。

 そう思った瞬間、プリメラさまが一歩横にずれてその後ろに立っていた二人が荷物を持っているということを知りました。


「わたしたちからね、ユリアにプレゼントなのよ!」


「え?」


「わたしとスカーレット、新年祭の時は帰るじゃないですか」


「新年祭は家族と過ごすものですから当然の事ですけれども、ユリアさまはお誕生日を迎えられると姫さまから伺いましたわ!」


「え、ええ」


「ちょっとスカーレット、わたしだって言ったじゃない! じゃなくて!! 去年はわたし、よくわかってなくて実家に帰って家業を手伝わされて……って違った、お祝いできなくて悔しかったんですよぅ!」


 メイナがぷっと頬を膨らませたのを見て、スカーレットのドヤ顔を見て、それから最後にプリメラさまを見ればものすごく嬉しそうに笑ってらっしゃって。

 ああ、私は本当に職場環境に恵まれているなあって、ものすっごく思いましたね! 何度目の事かわかりませんけど!!


「本当なら自分で準備したかったんだけど……わたしはそういう事が出来ないから」


「プリメラさま……」


「それでね、二人にも協力してもらったの! ほら、この間ジェンダ商会の会頭が来てくれた時にね」


「あっ、あの時ですか!」


 そう、以前ナシャンダ侯爵家に滞在中注文したガラスペンが出来たと届けに来てくれたんだよね!

 当然商人が来たよってだけの話なんで、個人的な会話とかはプリメラさまが出来たわけじゃないけど……顔を見て言葉を交わす、園遊会の後の無事をその目で確認する、そういう事って気持ち的にとても大事だからね。帰る時もジェンダ商会の会頭、嬉しそうだったなあ……。


 言われてみればあの時、受け取ったものをあえて私にしっかり保管しろと別室に行かせた時間が有ったのよね。その時に相談でもしていたのかしら?

 差し出された包みはそれなりに大きなもので、三人が揃ってわくわくした表情で「開けてみていいのよ!」「喜んでくれたら嬉しいです」「まあワタクシも選んだのですもの、品質は保証いたしますわ!!」だの言われたら直ぐ開けるでしょう!


「まあ……素敵」


 中身は大きな白いファーストールに、同じく白いレースとファーがあしらわれた手袋です。それと綺麗なケースに収められた、口紅がひとつ。

 寒い季節にぴったりな上に上品で……私が使っていいのかなこれ。なんでしょう、泣きそうなくらい嬉しいです。


「ユリアさま、いつもお仕事でお世話になってます。ありがとうございます!」


「……まあ、ワタクシは貴女をいつか超えてみせますけれど今は教示してくださることに感謝してますわ」


「みんなユリアのこと、大好きなのよ。特にわたしが一番好きなんだからね!!」


「……ありがとうございますプリメラさま。勿論、二人もありがとう」


 実家からもきっとプレゼントは届くんだろう。例年通り、メレクからの心が籠ったお菓子の詰め合わせとか両親が選んだらしいパステルカラーの帽子とかそういうのが。

 それでもって今年はきっと帰って来ないのか、見合いの準備はいつでもするぞっていう義母の手紙付きに違いない……って。あああああああ!


 今更気が付いたけど、アルダールとお付き合いを始めた事を実家に言っていないこの状況。

 いやアルダールが家族に言っていたならばディーン・デインさま経由でメレクに伝わっている!?

 だとしたら私が言いに来ないことにあの子怒ってないかな。


 いや待て、ここで実家に報告なんてしたらお義母さまが喜んでくれるを飛び越えて「嫁入りの準備を」とか言い出しそうで怖いぞこれどうしたら正解なんだろう。


 ほろりと来るほどのあったかな気持ちが、一気に内心脂汗だらだらなモノになりましたよ……!!

 後でアルダールにそっと聞いてみないといけませんね……、まさか今更こんな事になるとは。

 けけけけ結婚とかほらそんな先のことまで考えているわけないじゃないですかー、まだ付き合い始めたばっかりですものね!


 ……いやまあ、うん。相手の名前を呼び捨てにもできてませんが何か。

 未だに喋り言葉が丁寧になってしまいますが何か!!


 問題山積みのままじゃないかと自分に問いたい!


 私にプレゼントを渡せて喜ぶ三人が微笑ましいなあと思うのに、自分の事ではなんだかさっきまでとは違う意味で涙が出そうですよ!!

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