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 やりました……やりましたよ!!

 新年祭、行事が済んだらアルダールとデートです。私から申し込んだんです!

 どうですか、私だってリア充として成長しているんですよ。ふふふ。

 名前? 相変わらず呼び捨てにはできてませんケド!? いえ、逆切れしたって駄目ですね……わかっちゃいるんですがこのチキンハートがいきなり直るわけないじゃないですかー。


 いやまあ、その前に生誕祭ですけどね。

 お仕事はきちんとやり遂げます。勿論、ヒロインに関しても注意深く観察したいと思います!

 敵対的な行動をしてくるならプリメラさまをお守りしなければ。特に何もないならこちらから行動を起こすつもりはありませんしね。ただエーレンさんからの情報とかその他諸々を総合すると、どうしても良い印象が持てないと言いますか。

 でもそれだって一方からの意見を鵜呑みにして良いという理由にはなりませんよね。実物を見て判断したいと思います。


「ユリアさま、お待たせしましたわ!」


「ええ、スカーレットもご苦労さま」


「ふふん、ワタクシにかかればあのような書類、些末なものですわ!!」


「ではまた次もお願いしますね」


「えっ、それは……」


「冗談です」


「な、なんですって?!」


 最近ではスカーレットが妙にやる気を出して色々と書類仕事を請け負ってくれるので大助かりです。

 うちに配属になると聞いた時のあの絶望感ったらなかったんですが、やっぱり接してみると悪い子じゃあないんですよねえ、無駄に自信家なだけで。

 でもやっぱり字は綺麗ですし、根は真面目なんでしょう。書類を任せてみればきっちりと書式通りに仕上げた上、締め切りよりも前に仕上げるという優秀さ。これはものすごく助かりますとも。

 今日は私が謹慎が解けたというエーレンさんの様子をちらっと見に行こうと思って出るところ、スカーレットも書類を届けるからと一緒に出てきたんですがこうして冗談を言い合えるくらいにはなりました。


 でもなんでしょうね、最近スカーレットの私に対する態度が柔らかいんですよね。

 アルダールとのことが皆に知れ渡ってしまったので色々突っかかってくるかと思ってたんですがプリメラさまにご報告申し上げた後は少し不機嫌そうな様子でしたけれど、最近はそんな姿は見ませんしより一層仕事に励んでいるような気がします。


「ほら、ご覧なすって、あれが――」


「まあ、あれが――」


「――本当に地味ね――」


 おっと、外宮に近づくと登城に来ている貴婦人方もいるんでしたね。彼女たちは仕事に来ているのではなく、身内に会いに来ている方々なのです。

 まあ勿論女性でも仕事をしている方はいらっしゃいますし、婚約者のお仕事を知ることで後々結婚後に役立てるなどの話もありますのでただ遊びに来ているって人の方が少ないんですよね。いないわけじゃないですけど。

 中には地位の高い女性が高位の貴族の方に教えを乞いに来ていることもありますし、大司教さまの説法を聞きに来たりですとか……まあ王宮側にまで入らないならばそれなりに城は解放されているってことです。だから遊びに来ている人というのは王城内の自由にして良い庭園などの散策をしつつ、同じように息抜きに来られている男性との出会いを夢見たり……なんて寸法です。

 一般市民への開放日なんてものもありまして、外宮だけでしたら見学ツアーだってされてるくらいです。勿論事前申請が必要ですけど。よく学校単位での申し込みがあるんだそうですよ。


 こういうところは開かれていて近代的な国だなあと思います。国王陛下が国民皆に対して平等で、そして文化的であれとしているというのは理解できます。


 でもまあ、そういう理由で出入りが激しいそこに近づけば当然王女宮から滅多に出て来ない私に対して物申したい人にはチャンスでしょうね!


 ええ、ええ。わかっておりますとも。あれでしょ?

 アルダールの心を射止めたのが見目麗しく若いどこかの貴婦人とかなロマンス的要素のまるでない、地味で平凡な侍女なんかやっちゃってる下位貴族の、それも行き遅れと言われちゃうような女だった……ってことで勝手に幻滅してるんですよね。

 なんとなく被害妄想と言われてもおかしくない内容ですが、実際これが初めてじゃない辺りまたもやチベットスナギツネの顔が脳裏を過るというものですよ。


 まあ友人関係の時からアルダールのファンとかにいつか刺されないかなとビクビクしていた身ですから、今更っちゃ今更なんですけどね……でもこれでも最近はちょっとオシャレに努めようかなとか思ったことはあるんですよ?! 三日坊主でしたけど。

 でもまあ、一応良いローズオイルとヘチマ水で作った化粧水は欠かしてませんし唇の保護に蜂蜜だってそっと塗ったりとか地味な努力はしておりますとも、地味ーィに。でもこういうのが大事なんだと思うんですよね! どうよ、私の女子力だっていつまでも底辺じゃないんだよ、成長しているんですよ。ふふふ……。


(とはいえ、エーレンさんの様子をちらっと見たら戻るつもりだったんだけど……また今度にした方が良いんだろうなあ)


 嫌味を言われるのはスルー出来るけど、内心嬉しいものじゃないしね。

 エーレンさんの事は私がきっかけだから……というのはちょっと言い過ぎだけど、気になっただけだしまた後日でも問題ないだろうからなあ。外宮筆頭に聞いてもいいんだし。


「ちょっとアナタたち、失礼じゃなくて?」


「ま、なんですのこの娘」


「あれですわ、ピジョット侯爵家の問題児ですわ」


「ああ、この下品な赤毛……」


「下品な赤毛ですって?」


 ああああああ、ちょっと考えてた間にスカーレットが突撃したとか悪化の一途を辿る予感しかない!


「スカーレット……っ、」


「この艶やかな赤毛を良いと仰る殿方もいらっしゃるのでそれこそ見識の狭さを自ら露呈するような真似は止されたら? それよりも、貴族の子女としてその振る舞い、いかがなものかと思うけれど」


「まあ! 働く以外許されぬ立場でよくも……!!」


「貴女がたがそうやって陰口を叩いて笑う相手は王女宮の筆頭侍女さまでワタクシの上司。腹にも据えかねるというものよ!」


 えっ、あれ。それってスカーレット、私の為に怒ってくれた……ということなのかしら。

 でも侍女の身分で訪れた令嬢をどやしつけるのは当然よろしくないことなので、私はスカーレットの頭を掴んで頭を下げさせた。

 勿論、向こうの言い分がものっすごく腹立たしいのはわかるけどね。なんだよ働く以外許されぬって。好き好んで働く人がいたら異分子ってか!


「申し訳ございません、ご令嬢がた。この者にはよく言い聞かせておきますのでご容赦くださいませ。……それと、私に至らぬ点がございますようでしたらどうぞいつでも面会の申し込みをしてくださいますようお願い申し上げます」


 本当なら放っておくのが一番なんだけどね。折角スカーレットが言ってくれたんだし、まあ頭下げさせたからきっと彼女は後で怒るんだろうなあ。

 ここで癇癪を起して文句を言ってくるほど高位のご令嬢ではなさそうだし、問題を起こして困るのはお互い様……ってことで引き下がってくれたらいいんだけど。

 後は私が一筆始末書を書くだけでなんとかなるでしょう。部下の監督不行き届きで統括侍女さまにね。


 彼女たちもひそひそと互いに相談して、私たちを見下すような視線を向けてから「……よろしくてよ。次はないから温情に感謝なさい!」と言って去って行った。ふうやれやれ。

 っていうか彼女たちが何者かわからないけど、言い様からすればまあそこそこの家柄なのかな?

 城の見習いで来ていたかもしれないけど私も自分のところで見習いに来たとかじゃない限り知らない人の方が多いからなあ。


「ふう、行きましたね」


「ちょ、……っと、いつまで押さえつけてるのよ!!」


「あらごめんなさい」


「強く押し過ぎよ!」


 ぷんぷん怒るスカーレットに、戻ろうと声を掛けながら歩き始めればやっぱり不満そうにつんと唇を尖らせて彼女は私の方を睨んでくる。でもその表情も、私のために怒ってくれたという事実があってこそだから可愛く見えてきちゃうよね。

 これが……ツンデレってやつなのかな……。


「なんであんなヤツらを好きにさせますの。ワタクシ理解できないわ!」


「私たちは王女宮の侍女です。仕事中なんだから無視すれば良いのです。それに……」


「それに?」


「陰口を言う人と同じレベルに落ちる必要はないでしょう」


「あっ」


 スカーレットが成程って顔をした。うん、わかりやすいなあこの子……。


「それもそうね、あのような低俗なオンナたちの声などそこらのカエルの声と同じに思えばよかったのね」


「でも、ありがとうスカーレット」


「……か、勘違いなさらないで。ワタクシの上司があのように見下されてはワタクシまで及びますもの。それに、仕事の面に関してはワタクシ、貴女の事を認めておりますのよ」


 うん、ツンデレですね!

 可愛いとまでは思わないけど、慣れてきました。

 しかしカエルって。なんでカエル? いえ、令嬢らしく鳥の声とかでも良かったとか思ったんですけど……これが若者と感性の違いからくるジェネレーションギャップってやつですかね……?

 あれ、なんか違う。


「それに! 貴女に勝つのはワタクシですのよ!!」


「貴女いつから私と勝負してたんです?」


「え? あれ……本当だわ。そう言われればそうだわ!」


 やっぱりこの子、ただのバカなんでしょうか……。私の言葉にすっごく驚いているその姿に私がびっくりですよ!

 いえ、見てる分には可愛いと思いますよ。うん。可愛い部下ですとも。

 笑うのを堪えるのに必死な私はこの子の行動にやっぱり慣れたんでしょうねえ。うん!


「まあいいわ、ワタクシが本当に倒さねばならぬのは英雄の娘ですもの!」


「え?」


「ハンスの馬鹿が……その女に鬱陶しいくらいメロメロなのですわ。ふふふ、見ていらっしゃい……ハンスめ、相手がどんな女か知らないけれどワタクシ以上の女なんてそうそう存在しないんだから!」


「……」


 ハンスって、ああ、ハンス・エドワルドさまですか。そういや怪我を負った辺境でヒロインと出会ってるっぽい事を園遊会前くらいにアルダールが言ってたっけ……。

 いや、うん。ヒロインのことだとしたら中身がどんなかはわからないけど、見た目は可愛かったと思うからなあ……この国は美人が多いから、その中で可憐な人がより好まれる傾向だと考えるとスカーレットはその辺不利なんだよなあ……いや、言わぬが花ってやつよね。


 いやいや、ハンスさんはスカーレットの幼馴染って言うから、ついつい身近な人の良い所って見落としがちなだけなんだろう。

 スカーレットにはスカーレットの良い所がいっぱいあるのだから!

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