プロローグ
ユリア・フォン・ファンディッド。
ファンディッド子爵家の長女であるが、現在は勘当されている。
この世界でいえば恋愛適齢期どころか出産適齢期を過ぎて尚、独身を貫く女。
ひっつめ髪に分厚い眼鏡、不愛想な王女専属の侍女。
地味なお仕着せを着て、今日もただ王女のそばに控える彼女を人は「侍女の鑑」なんて呼んだりもする。
何気にお菓子作りが上手で相談にもよく乗ってくれるので、後輩たちには大人気なお姉さんなのだ。
一部の行儀見習いに上がってきたばかりの子女には『おかあさん』なんてあだ名までつけられている。
そんな彼女は実は転生者で、この世界は彼女が好きだったゲームの世界によく似ている。寧ろそのままだ。
ちょっと時代が違うようだが、それも単純にちょっとだけゲームよりも15年くらい前ってだけだ。
だけれど彼女はメインキャラとはまったく関係ない位置にいた。
ファンディッド子爵家なんてゲームには出て来ないし、ユリアなんて女は一切出て来ない。
しかも貴族でありながら何故侍女なのか。
まあそれは慣例の貴族の子供たちを10歳から15歳くらいの間行儀見習いとして王城に勤めさせるということから来ていたのだ。
子供たちは行儀見習いをしつつ、互いに顔見知りになったり友誼を結ぶことで社交デビュー後に備えることができるし、王城に出入りするような貴族たちからすれば有能な者を見つける良い手段でもあるのだ。
そして期間を終えると即社交界デビュー、そして結婚などに結び付く。
この世界では20代前半には複数の子供がいて当たり前、むしろ奨励。
そういう剣と魔法の世界なのである。
ところが、ユリアはちょっと違った。
たまたま侍女として経験を2年ほど積んだあたりで配属された生まれたばかりの王女のお世話係。
それが彼女に火を点けた。
なんというか、前世で彼女はモテない地味系女子で今と実に変わらないのだが、子供好きで世話好きなのだ。
王女プリメラはゲーム上ではヒロインのライバル的な位置にいるのだが、憎めない悪役であった。
ぽっちゃりで我儘、無邪気で食欲に負けてしまったりする。
だが聡明なところがあって、ヒロインが苦心して成し遂げることを彼女はぽんとやってのける、などのイベントが存在する。
だがそのぽっちゃりにも実は原因があったのだ。
ユリアはそれを排除し、信頼を得て専属の侍女となったのだ。
プリメラもユリアには絶対的な信頼を置いており、2人きりになれば母と内心慕うほどである。
しかし王女のことが可愛すぎて、彼女が結婚する時にはついていくなんて言い出した日には王女の方がユリアを心配するのだ。
「ねえユリア、そばに居てくれるのは嬉しいけど、あなた結婚しないでいいの……?」
「え、結婚相手なんて今更見つかりませんよ? わたくし、見目も悪いことですし」