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ヤンデレ勇者と恋する魔王  作者: MiTsuYa
第一章「プロローグ」
7/9

七話



 重たい買い物袋を持って自宅に戻った俺は、傷ついた玄関の扉を労わりながらキッチンに荷物を運ぶ。

 買い物袋をテーブルの上に置いた俺は、必要のない食材を冷蔵庫の中に入れていく。そして必要な材料などは、邪魔にならないようにキッチンの隅の方に置いておいた。


「さて、雫たちが戻ってくるまでに作っとくか」


 ハンバーグを手順通りに作っていくが、食事のバランスも考えて野菜サラダなども作っていく。

 あとは皿に盛り付けるだけというときに、ちょうど良いタイミングで玄関の扉が開く音が聞こえ、雫とフィアの喋り声が近づいてきた。

 扉を開けて入ってきた二人の表情は、かなり疲れ切っていた。


「二人ともおかえり。けっこう遅かったな」

「後片付けが結構大変だったもので……」


 雫の冷めた視線が、フィアに遠慮なく注がれる。


「アハハ……あんなに怒られたのは久しぶりでした。しかも勇者に怒られたのなんて初めてでしたし」


 よほど怒られたのだろうか、フィアのテンションが若干低かった。

 俺だって雫に怒られたら怖い……。


「あんな非常識なことする人なんて、地球上でフィアぐらいだろうな」

「非常識ですいません……。次からはお金を払ってお菓子を買います!」

「なら大丈夫だな。よし! ご飯も出来たし、飯にするか!」


 作りたてのハンバーグとサラダをテーブルの上に並べ、あとは席に座って食べるだけなのだが……。

 長方形のテーブルは、横に並んで座るとしたら二人が限界だった。

 だがこの二人は、無理やり俺の座る席の横を必死に争っていた。

 このままだと日付が変わりそうになので、そろそろバトルをやめてほしい。


「そろそろご飯が冷めるよ二人とも」


 俺の言葉など聞こえていないのだろうか、無言の雫とフィアからは殺気が恐ろしいほど溢れ出ていた。

 二人が争っているせいで、俺もご飯を食べることができない。

 目の前に温かいご飯があるのに食べられないなんて、これではご褒美をお預けにされるより残酷だ。


「もうソファーの前に置いてあるテーブルに移動するぞ。あそこなら三人並んで座れるだろ。「まぁ兄さまがそうおっしゃるんなら……」


 せっかく作ったご飯を食べられないほど悲しいことはないし、冷たくなったご飯を殺伐とした空気で食べたくもない。

 まぁ殺伐とした場所でご飯なんか、なにが何でも食べたくないのだが……。

 とりあえずソファーの前のテーブルに食器を運ぶことに成功した俺は、冷めないうちに食事ができることに感謝する。


 けど狭いな、さすがに三人が座るのは無理があったか。雫とフィアの二人に挟まれて食事など、男子高校生、男として嬉しくない人はいない。


 だけど殺伐とした二人に挟まれての食事は、それを差し引いても少しばかり割に合わない。

 俺の額からは滝のように汗が流れだし、着ているシャツを濡らしていく。

 いつ横の二人が戦争を始めても不思議ではない状況なのだ。解除できない時限爆弾と一緒の部屋に閉じ込められたのと一緒だ。


 だがそんな緊迫した状況でも、逆に良かったと思える状況でもあった。


「はーい翔梧さん!」


 俺の口元にハンバーグを運んで食べさせようとするフィアと、無言で重圧をかけてくる雫。

 だけど雫もフィアの見えないところで密かに動いていた。


「兄さま……」


 フィアから見えないのを良いことに、雫は微かな膨らみを俺の腕に押しつけてくる。

 もう声が出ないように抑えるのが馬鹿らしく思えてきた。

 窓を開けて喜びを伝えたい! 自慢したい!


「それにしても美味しいですね。普通にプロ顔負けの味ですよ」

「だって兄さまが作ったんですから」


 自分の事のように誇っている雫。なるほど~と納得するフィア。


「まぁ自慢できる数少ない特技だからな」


 俺の料理の腕が上達した理由は、生きていくうえで必要なことだった。詳しいことはまた今度話すとして、誰かと喋りながら食事をしたのって久しぶりだな……。

 楽しく喋りながら食べる食事がやっぱり一番だと、雫もフィアも思っているんじゃないだろうか? 少なくとも俺はそう思う。


 楽しかった食事を終え、食べ終えた食器類をキッチンの流しに運んでいく。

 リビングに掛けられている時計の時間は、あと少しで九時を示そうとしていた。

 フィアもそろそろ帰らないと、あの魔王に怒られるんじゃないのか? 過保護だろうし、いつここに乗り込んでくるか分かったもんじゃない。


「そろそろ帰らないと怒られるんじゃないのかフィア?」

「大丈夫です! ちゃんと泊まるっていってきましたので」

「誰の家に泊まるの?」

「もちろん翔梧さんの家にです!」


 一瞬にして場の空気が凍りつき、雫の持っていた皿が綺麗に割れる。


「な、なに言ってんだ! 常識的に考えてみろ! 知り合ったばかりの男の家に泊まるか普通! 泊まらんだろ!」

「べつに翔梧さんになら襲われても問題ありません!」

「ドヤ顔でなに宣言してるんだ!」


 どうすれば良いのか分からなくなった俺は、チラッと雫の表情を確認する。

 そして雫と目が一瞬だけ合った。


「べつに私は構いませんよ? 兄さまが嫌でなければですけど」


 やばい、素直に喜べない俺がいる……。

 雫は笑顔で俺を見ているし、フィアはフィアでなんか期待の眼差しを向けてるしなぁ……。


「べつに俺は良いんだけど、部屋を整理するのに時間がねぇ。雫の部屋で一緒に寝てもらえると助かるんだが、雫はそれでも大丈夫?」

「もちろん、そちらの方が私も助かります。兄さまの部屋に夜這いしに行こうとするでしょうから」

「なんで分かったんですか!」

「夜這いするつもりだったのかよ!」


 ついついツッコミを入れてしまった。

 そういえば昔は雫が夜這いをしに俺の部屋に来てたな。あのときは色々と大変だった。

 主に俺の理性を保たせるのと、寝不足が続いたな。


「ならフィアさん、今から私の部屋に行きましょう。フィアさんが勝手に放置している荷物を、さっさと片付けてもらわないといけませんしね」

「あら、気づかれてたんだ。てっきりバレてないのかと思ったんですけど、さすが勇者ですね」

「当たり前です。さぁ早く私の部屋に行きますよフィアさん」


 とりあえず泊まることになったフィアを、雫はフィアの背中を押しながら部屋まで連れていった。


「……さて、片付けるか」


 料理と片付けは基本的には俺がやって、雫は部屋の掃除や洗濯などを担当している。

 やっぱり掃除などは、女子である雫がやった方が綺麗だし、洗濯は下着を干すという作業をしたくないからだった。


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