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ヤンデレ勇者と恋する魔王  作者: MiTsuYa
第一章「プロローグ」
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五話

 雫と喋りながら歩いて二十分ほどの住宅街に、俺が元暮らしていた家ある。俺が引っ越す前は、雫と雫の両親の四人で生活していた。とはいっても、雫の両親はほとんど仕事で家に帰ってこないため、普段から家にいるのは俺と雫だけだが。

 だが高校に入学すると同時に、雫の両親に迷惑をかけないように俺はバイトをしながら一人暮らしをすることに決めた。

 そもそも俺が幼い頃、どういう訳か知らないが雫の両親に引き取られたらしい。実の両親はどこでなにをしているか知らないし、顔すら覚えていないから気にしているという訳でもない。

 雫もその事実は知っているし、だから俺も雫も普通の兄妹と変わらないように接していた。


「ねぇ兄さま?」

「どうしたんだ雫」


 俺の腕から離れない雫をどうやって離そうかと考えつつも、結局は無理なんだろうなーと思っていると、雫が嬉しそうな笑みを浮かべながら俺の腕を少し強めに抱きしめる。


「今日は久しぶりに兄さまと一緒ですね!」

「たしか雫が魔界に行ったのが二週間ぐらい前だったからなあ。そりゃ久しぶりに思えるかもしれないな」

「兄さまと離れ離れになったいた間、いつも兄さまのことを思っていました。愛してるなんて言ってくれる兄さま大好きです」

「ハハハ……」


 うっとりとした雫の表情には、あえて突っ込まないようにしようじゃないか。

 久しぶりの我が家があともう少しという所まで近づく頃、俺はまたしても嫌な予感がした。

 本日三度目の危険察知が発動してしまった。


「あ……」

「ん、どうし――」


 もう少しで家に到着するというのに、一番楽しみにしていたはずの雫が立ち止まって動こうとしない。それに表情が笑顔のまま固まってしまっている。

 どうしたんだ、雫がこんな引きつった表情をしたままなのも珍しい。


「どうしたんだ雫?」

「ちょっと兄さま、すぐに終わらせるのでこちらで待っててくれませんか?」

「べつに良いけど……」

「では行ってきます!」


 そのまま俺を置いて、急いで家まで走っていく雫。

 一瞬だけ俺の方に振り向いたとき、死んだ魚のような目をしていたような気がしたけど、俺の思い過ごしだよな?


 ……うん、やっぱり見に行こう。


 どうしても雫のことが気になった俺は、ゆっくりと家の方に近づいていく。足音を立てないよう静かに玄関まで近づいて、ドア越しに耳を傾ける。

 ……変人だよ、これ通りすがりの人が見たら通報されちまう体勢だ。


「なんであなたがここに居るんですか? もし兄さまに近づいたら殺しますよ? あなたが魔王の娘だろうが神の子だろうと私には関係ありませんから」


 誰かと喋ってるのか?


「翔梧さんのことを好きになるのが何故ダメなのですか? 別にあなたの所有物ではないはずですよね? この世界も私たちの世界と変わらず、恋愛は自由って決められているはずですよ」


 なんか魔王の娘のフィアが家に居るんですけど……。

 それに話が変な方向に向かっているんだけど、俺なんかを取り合ってどうしたいの?

 二人とも有名人で美少女なんだから、もっと高望みした方が良いんじゃない?

 近頃の若者だって、もう少し高望みしてるよ。


「誰!」


 雫の声が聞こえたと同時に、玄関の扉を貫通して俺の顔面スレスレを通過した刃物は、斬れ味抜群と言

わんばかりに輝いていた。


「あれ、兄さまでしたか。どうしてこちらに来ているんですか? 待っててくださいとお願いしましたねよ? もしかして私が言ったことなど信用せず、こちらにいる女の方が信用できるというんですか」

「いや、どっちも同――じゃなくて、もちろん雫の方を信用するに決まってるじゃないか!」

「ですよね。は兄さまのことをこの世で一番信用していますし、兄さまにならどんなことを命令されても従いますから」


 雫は安心したのだろうか、玄関の扉に刺さっていた刀を引き抜いて今度は、鞘から引き抜いた刀をフィアに向かって構えた。

玄関に管理してある刀を所持しないでください雫さん、危うく死ぬところだった。


「これで分かりましたかフィアさん。私と兄さまは固く愛する絆で結ばれているんです。それを壊そうなんて愚かな行為をしたんです。もちろん覚悟は出来てますよね、死ね」


雫は今にも刀を振り下ろしそうな雰囲気だが、一方のフィアは余裕そうに堂々と仁王立ちしていた。


「甘いですね〝ヤンデレ〟勇者さん。なまくら刀ごときに私が殺られるとでも思っているんですか。だとしたら一回精神科に行った方が良いですよ? 何なら私が有名な精神科医を紹介してあげましょうか。きっとすぐに入院できますよ」

「良いでしょう」


 フィアの挑発に完全に乗せられてしまった雫は、殺意を完全に剥き出していた。二人がこんな場所で戦いでもしたら、家が消し飛ぶだけじゃすまないぞ。この付近が更地になる。

 止めることなど不可能な雰囲気の二人の間に取り残されてしまった俺は、玄関のすぐ入口で静かに身を潜めていた。

ってか、このままこっそりと出て行っても気づかれないんじゃない?


よし、さっそく玄関から脱出――


「どこに行こうとしているんですか兄さま?」


 さっそく発見されてしまった。


「ちょっとコンビニまで散歩でもしようかと思いまして」


 苦笑いをなるべく浮かべないようにしながら、俺は少しずつ後ずさりしていく。


「なら私も一緒に行きます!」


 元気よく右手を上げながら名乗りを上げたフィアは、雫を無視して通り過ぎそのまま俺の傍までやってくる。そして俺の腕に豊満な胸をわざとらしく押し付けるようにしっかりと抱きついた。

 俺の姿を見た雫の表情は、どんどんと青ざめていく。目のハイライトも消え失せた。


「兄さん、どうして嬉しそうなんですか?」

「もちろん嬉しいからさ!」


 フィアは俺の声真似をしながら、冗談でも言ってほしくないセリフを簡単に言ってしまう。全然似てないけど……。


「おいフィア、勝手に人のセリフを言うんじゃない。完全に誤解生んでるじゃねぇか!」

「別に良いじゃないですか翔梧さん。それに私は簡単に翔梧さんを手に入れられると思ってませんから。なんたって勇者が相手なんですから……」


 フィアはチラッと横目で雫を見ると、笑みを浮かべながら、ふにっと柔らかい感触のする体の一部を、俺の腕にわざと押し付けてくる。

 フィアのおっぱいには勝ち目のない雫では、絶対に味わうことのできない感触だ。

喜んだりしたら雫に殺されるが、これをやられて喜ばない男はホモかゲイだろ。

それに喜ばないでいられるほど俺は大人じゃないから、べつに悪いことじゃなはず。


「嬉しそうですね、にいさま……。そんなに胸が大きい人が好きなんですか。私みたいな小さい胸なんか微塵も興味がないんですね」


「もちろん、好き――すいません! 悪気はなかったんです。ホントです、神様にも誓いますから!」


 欲望に負けそうになってごめんなさい! 雫の小さい胸でも、俺は別に問題ないから!

 俺を見ていた雫の視線は、凶悪犯に殺意剥き出しで見られてしまうより恐ろしく、素手でラスボスと乱闘したほうがマシだと思えしまう。

 それに雫が構えていた刀が、フィアから俺に向けられていた。


「私と兄さまが一緒にコンビニまで行けば問題ないんですよ。それと兄さま、そろそろ離れないと――」

「分かった!」


 刀の先が俺に向けられたのか分からないが、とりあえずフィアから一刻も早く離れないと、腕と胴体が切り離されてしまいそうだ。

 急いでフィアに抱き着かれていた腕を振り払うと、雫は満足そうな笑みを浮かべていた。どうやらセーフらしい。


「あぁ翔梧さんの温もりが……」


 一方のフィアは、遊び道具を取り上げられてしまった子どものように涙目になっていた。


 うむ、フィアの涙目も悪くないな……。


「うー勇者のケチ! 私にだって……」


 フィアは自分の胸の谷間に手を突っ込むと、一枚の書類らしき物を取り出した。

 てかスゲェ……。あんな芸当が出来る人なんていたんだ……。


「羨ましいでしょ! 翔梧さんの高校に編入をするために必要な許可証ですよ! しかもこれだけではありませんよ。実は進級者専用の書類が一枚ここにあるんですよ。しかも許可済み」

「「!」」


 俺と雫が驚きの表情なのに対し、フィアは満足げにドヤ顔だった。

 うぜぇ……ってか、なんて言った?


「お願いします。その書類を急いで捨ててください。でないと雫が――」


 雫が書類を見てしまった時点で、すでに俺の声なんて届いてない。

 俺みたいな一般人が目視できない早さで書類をフィアから奪い取った雫は、息を荒げながら大事そうに書類を抱きしめていた。


「はっ!」


 俺とフィアの冷ややかな視線に気づいたのかフィアは、はっと我に返る。


「に、兄さま……」

「いいよ雫、その書類をどうしようと俺は何にも言わないから。ただし責任は自分で取るんだぞ」

「本当ですか! ありがとうございます兄さま!」


 よほど俺の言葉が嬉しかったのだろうか、雫は瞳に涙を浮かべながら俺の胸に抱きついてきた。

 ほとんど膨らみのない胸の感覚など、興味も無ければ味わう必要などないと思った君は人生の半分は損をしているぞ。

 確かに雫はまな板同然の胸だが、あえてそこに魅力を感じてしまう現象がおきてしまうのだ。

 巨乳派がいえば貧乳派もいる。大きな胸に顔を埋めたいと思う巨乳派、小さい胸だからって隠そうとする姿が可愛いから貧乳派。

 語り出したらキリがないこの言葉は、男だから語り合えるのではないだろうか?

 ちなみに俺はどっちも好きだ、優柔不断だろうが好きなものは仕方がない。


「さて二人とも、喧嘩なんかやめてご飯にしないか。そろそろお腹が空いた頃だろ?」


 辺りもすっかり暗くなり、隣家からは美味しそうなおかずの匂いがしてきた。


「さて、スーパーで材料でも買ってくるか」

「「なら私もついていきます!」」

「……お前ら喧嘩するなよ、絶対に」


 俺はとりあえず二人の気を逸らさせることに成功したのだったが、その分俺はこれから大変な毎日を送っていかなければならなくなってしまったのは言うまでもない……。

 それと扉の修理を業者に頼まないといけないけど、金なんてねぇよ俺……。

 自然とため息が出てしまった俺の表情を見て不思議そうにしている二人だが、原因はフィアと雫のお前らなんだぞ。


「兄さまと一緒に御買い物なんて久しぶりです」

「翔梧さんと買い物なんて夢みたいです」


 二人して嬉しそうに笑顔でいろいろと妄想に入り浸っているが、なんて幸せそうな顔してるんだか。見てるこっちまで笑顔になってるし……。


「ほら早くしないと置いていくぞ」

「「あー待ってください!」」


 俺が進みだすと、二人して俺の後ろを追ってくる。右に雫、左にはフィア、そして真ん中に俺といった順番で歩き出す。

 喜んだら良いんだか、嘆いたら良いんだか、よく分からないんだよなこの状況。


 まぁ良いか、美少女に囲まれてるんだし……。



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