第3章 光をかかえた少年(2)
カモは、光るものを秘めた少年だった。
サッカーをやらせればうまい。ボールタッチがやわらかく、そして俊敏。ゲームとなると、相手がいちばんいやがるタイプだ。からだは細身だが、競り合いでは強い。
いわゆるエースである。ポイントゲッターだ。
二重の目元がすずしく、鼻筋はとおり、口元は強い意志を示すようにキュッとしまっている。
勉強もよくできた。算数が得意だった。
けれども、いわゆる優等生というのではなかった。
どちらかといえば、かなりのワルガキである。といっても、陰惨な乱暴をするということではない。
活発な男の子がいかにもやりそうな悪戯の常習犯だった。
それは、呼び鈴を押して一目散に逃げる「ピンポンダッシュ」であったり、がんこおやじの庭の柿を塀に登って失敬したり……とまあ、その程度のことである。
カモはいつもそれを先頭に立ってやった。すばしっこいから、決してつかまらない。
ただし、ドジな仲間がつかまった場合、カモはすっ飛んで「犯行現場」に戻り、
「すみません、ぼくがやりました」
と名乗り出た。
いっぽうで、ヒロはどんな少女に成長していたのだろう。
転校当時は、口数も少なく、引っ込み思案かと思わせたヒロだったが、しだいに慣れてくると、天性のエンターテイナーぶりが発揮されてきた。
人を引きつける独特の空気を周囲に漂わせる少女であることは幼稚園のころから変わらない。それに加えて、利発さも目立ってきたから、すぐに人気者になった。
いわば、カモの女版、それがヒロだった。
いつしか、二人がまるで異母兄妹かなにかのように、特別な親しさをおぼえるようになったのは、生まれつきふしぎな力を持った者どうしの共鳴、とでもいったものがあったのだろう。
あるとき、ヒロはカモに、自分が生まれたとき、父が見たというもののことを言ったことがある。
「父さんたら、おっちょこちょいだからね。あたしが生まれてきてはじめて手のひらを開けたとき、ふわーっと金粉が舞い昇るのを見たって今でも信じてる」
すると、意外なことに、カモが強く反応した。
「マジでッ!」
「うん、父さんはそう言ってる……」
「おれも、そうだ。おれのはうちのじいちゃんが見たって」
「えっ、赤ちゃんの手のひらから?」
「そう」
「金粉?」
「いや、おれのは、銀粉」
「あははは、あたしの勝ち」
ヒロは笑った。笑いながら、なぜか、どきんとした。運命というと大げさだけれど、なにかそんな、人の力ではどうにもならないもののことが頭をかすめたのだ。
二人の親密さは、いわゆるベタベタではなかった。
だからこそ、逆にだれにも分け入ることができない。
それは、やっかみを生む。
かっこいいカモを独り占めされるやっかみ、というだけではなかった。二人の関係の、あまりの爽やかさ、新鮮さがクラスメイトの女の子には悔しかったのだ。
ヒロは女の子たちから、ときおりちょっとしたいやがらせを受けた。そういうときカモは、スッとヒロから身を遠ざける。
ときには、いやがらせをする女の子たちに同調してしまうこともあった。たぶん、照れていたのだろう。
あとになって、
「ごめん」
とあやまるカモは、やはりまだまだ幼さの残る、純真な少年だった。
はじめてカモが家に遊びに来たとき、ヒロの母がテーブルに出したのは、なんと高級メロンだった。VIPあつかいだ。
父は、
「よう、きみが加茂原くんか。足が速そうだな。女にもてそうだな」
と言った。
カモが帰ってから母は、
「とても気持ちの澄んだ子ね。顔もいい顔してる、鼻筋が通って」
とほめた。
二人とも、なんだか婚約者を吟味するみたいな感じではあった。