第17章 魂の行方(4)
記者「千堂卓也といえば、いま、もっとも発言力のある映画評論家の一人で、しかも、株式会社南十字星という中堅の配給会社の専務だよね。ぼくは彼から星野さんの情報を得たのだけれど」
ヒロ「わたしは、ちっとも知りませんでした。草野球のセンちゃんだとばかり」
記者「その偶然が、一粒のタネとなったわけですね」
ヒロ「そうなの」
記者「千堂氏が星野さんの脚本を読むことになった」
ヒロ「そう、ほんとに読んでくれるとは思わなかった」
記者「千堂氏が、ぼくに言いました。じつはね、正直なところ、まったく期待なんかしていなかったんだ。ヒロくんは、ただのマドンナだ、マドンナに脚本が書けようはずもないって」
ヒロ「わたしにも、そう言いました」
記者「ところが、読みはじめて、おどろいた。これほど、ぐいぐいと心のヒダをえぐるとはって、そう千堂氏は言ってました」
ヒロ「うれしい」
記者「うちの雑誌のコラムにも、それらしきことを書いてくれましたよ。いま、どうしても映画にしてみたい素人作品がある。素人の恐いもの知らずが、ずぶといパワーとなっているって」
ヒロ「へえ、読んでいません」
記者「で、そこからはすんなり?」
ヒロ「ベテランの脚本家が実務的に手を入れてくれて、これで行こうって、ゴーになったとセンちゃんから聞かされたときは、舞いあがったわ。というよりも腰が抜けそうになった」
記者「でも、自信があったでしょ?」
ヒロ「まあね。恐いもの知らずだから」
記者「さて、ゴーとなれば、そこからはプロデューサーの仕事だ。配役だとかロケ場所だとか、具体的な作業に入っていくわけですけど、そこには星野さんは関わらなかった?」
ヒロ「ええ、プロにおまかせでした」
記者「俳優の希望などは出しましたか?」
ヒロ「いいえ。喉もとまで出かかったけれど、がまんしました」
記者「それは、やはり李芝河?」
ヒロ「そう。でも、そこまで図々しくはとても……」
記者「あんがい控え目ですね」
ヒロ「そうなの、生まれつき」
記者「ま、それはそのまま信じておきます。ともかく、いったん失った原稿がよみがえり、それは映画として日の目をみることになったわけですね」
ヒロ「はい。以上でおしまい、ということですね」
記者「すみません、もうすこし、つづきがあると思うのですが」
ヒロ「つづき?」
記者「そう、製作発表会のこと」
ヒロ「わおぅ! あれね、あれはもう、お日さまが西から昇ったのよりもぶったまげた。それも話します?」
記者「おねがいします。そのオチがかんじんなので」
ヒロ「わかりました」