第15章 光の島へ(2)
その小さな島には、交通機関や宿泊施設はない。もちろんキャンプは許されない。
港から伸びる道の両側に小さな集落があるだけで、集落以外はほとんどが聖地となっている。観光名所や遊興のビーチなどはまったくない。
「聖なる島だから、当然のことながら、いろんなことがあってね」
吉野さんは、あいかわらずブランデーをちびちびやりながら大神島の話をつづける。ちびちび飲んでいるのだが、その夜に封を切ったばかりのボトルがいつのまにか、三分の一ほどになっている。もちろん、まったく酔ったようすがない。酋長のように泰然自若として飲んでいる。
「そのむかし、海賊の襲撃を受けて、ある兄妹を残して島民は全滅したという言い伝えもある。その言い伝えによれば、現在の島民は皆その子孫ということになる」
「すごい!」
「海賊といえば、有名な海賊キッドがこの島に財宝を隠したといううわさが広まり、昭和11年ごろ、全国から宝探しの人が殺到したということがあった」
「むやみに入れないんでしょう?」
「うむ、それを無視したらしいんだな。で、島の人が止めるのも聞かず、御嶽という聖地にずかずか入って荒らしてしまった人もいたらしい」
「どうなったんですか」
「みんな変死したという」
「きゃあ」
「まだあるぞ」
「はい」
「20年ほど前だったかなあ。大神島一周道路の建設が計画されたんだ。不幸はそこから始まる」
「わおっ」
「行政側と島民の多くが協力した。何台もの重機が島に搬入されて工事は開始した。ところが、3分の1ほど進んだところで、とつぜんストップしてしまう」
「……」
「建設予定地をふさいでいた大きな岩を砕こうとすると、ブルドーザーのツメが折れてしまい、続行不能になった。ほかの重機もつぎつぎと故障してしまった」
「……」
「ルートを変えて工事をつづけたが、こんどは機械でなく人間に被害が出た。工事関係者が幾人も原因不明の高熱に倒れる。そのうちに、島民にも倒れる人が出てくる」
「へえ」
「工事関係者は島から撤退した。別の業者を頼んだが、だれも行きたがらず、とうとう工事は途中で断念。もともとあの工事を神様は必要としていなかったさあ、といまではみんな納得している」
語り終えた吉野さんは、残ったブランデーを一気に飲み干した。いちおう神妙そうな顔をしているが、もともとが愛嬌のある顔なので、どうしてもユーモラスに見えてしまう。
そんな吉野さんを横目に、仕事を忘れて話を聞き入っていたヒロは、まだ見ぬ南の島を頭に浮かべていた。