第15章 光の島へ(1)
はじめのころ吉野さんが、
「東京に出てきたときは必ず銀座にくることにしている」
というから、
――関西で会社を経営している人かな。
とヒロは思ったが、どうも言葉が関西ではなさそうだ。
そのうち、
「いつもは島で暮らしている」
と言う。
――てことは、伊豆大島あたりかなあ、まさか佐渡ヶ島ってわけはないし……。
「どの島かわかるかい?」
と聞かれたので、
「わかった、江ノ島!」
ちょっとジョークで応じてみた。吉野さんは、げらげら笑い、
「ブーッ、はずれ。もう少し南だ、ヒロくん」
と言った。
吉野さんは、いつのころからか、ヒロをホステス名ではなく、「ヒロくん」と呼ぶようになっていた。
「もう少し南っていうと、淡路島?」
ヒロは聞く。
「もっと南」
「小豆島?」
「もうひと声」
「わかりません、おしえて」
「宮古島」
「えーっ、沖縄の!」
「そう」
ヒロがしげしげ見ると、なるほど吉野さんは、太い眉、くりんとした眼、いかにも南方の悠然とした顔つきである。
島の資産家である吉野さんは、自分で言ったとおり、月に一度か二度、用あって東京に飛んできたらかならず銀座に寄る。いままではあちこちの店をはしごしていたようだが、ヒロの客になってからは『華蘭』だけにじっくり腰をすえて飲むようになった。
宮古島は、沖縄本島から南西におよそ三百キロの距離にある弓状の島だ。すぐそこが、台湾である。
「海がきれいで、あとは何にもなくて、いいところだ。ヒロくん、こころが疲れたらいつでもおいで」
吉野さんは、南洋の酋長さんのような笑顔で言う。ヒロの目の前にエメラルド色の海と、白いサンゴ礁がありありと浮かんだ。
幾度目かのときに、
「ぼくは、大神島の研究者でもあるのだ」
と吉野さんがブランデーをちびちびやりながら言った。
「オオガミシマ?」
ヒロは聞いたことがない。
「そう、大きな神様の島」
大神島は、宮古島の目と鼻の先にある。周囲は三キロに満たない。海に浮かんだピラミッドのような形。人口は四十人ほど。
「宮古島から目と鼻の先だが、そんなにしょっちゅうは行けないのだ」
「不便なの?」
「それもあるが、むやみに踏み込めぬ神聖な島だから」
「へえ」
「ウヤガンという秘祭があって、それは島の人間しか決して見ることが許されない」
「先生も?」
ヒロはいつからか、吉野さんのことを先生と呼ぶようになっていた。
「いや、ぼくは研究者ということで、いちどだけ」
「どんなお祭り、ねえ、教えて」
「いかにヒロくんの要望でも、それだけは答えられないんだ。ごめん」
「どうして?」
「あそこで見たことを人に話すと、その人にどのような不幸が起きるかわからないのだ」
「えーっ」
「ヒロくんは、不幸になりたいか?」
「うーん、そうね、間に合ってます」
「では、よしておこう」
くりんとした眼をさらに丸くして、吉野さんはにっこり笑った。