第6章 新しい自分へ(1)
親友というのは、いつもどこでもつるんでいる、という関係ではないだろう。
それどころか、長いあいだ会うこともなくて、電話すらやりとりしない日々がつづいたりする。けれどもひさしぶりに会うと、まるできのうまで毎日会いつづけてきたかのように、ブランクを感じない。波長がぴったりあっている。
そういう意味で、いちばん自分を気にしてくれている人であり、いちばん自分の気持ちが安定する人。
それがすなわち、親友なのだ。
ヒロに、親友と呼べる友だちが一人だけいた。小学校時代からいっしょだった友だち。名前を、花織という。
ヒロは小学校のときにブラスバンドでサックスを吹いていたことがあったのだが、それを誘ったのが花織だった。花織自身はトランペットを吹いていた。小学生らしく、『ドラゴンボール』の主題歌を演奏したりしていた。ゆくゆくは、女だけのジャズバンドなんていいかもね、と二人で話したこともあった。
その花織にもヒロはずっと連絡を取っていなかった。
心が荒みきっていた。
高校を出て、どこへも進路はなかった。大学進学はもちろんのこと、勤労者として社会の一員に加わるということもない。
暴走族とその上部の暴力団からは遠のいた。
足を洗った、というよりも、そういうことももうめんどうくさくてたまらない。何をやっても燃えてこない。退屈。どうでもいい。
昼過ぎに起きて、コンビニで安物のワインとスナック菓子を買って部屋にこもる。菓子の袋をびりっと破いて、ぼりぼり食べる。安物のワインをラッパ飲みする。おいしいとも何とも思わない。なんてつまらない味なんだろうと思いつつ食べ、飲む。ビデオはつけているが、ほとんど画面も見ない。
いつの間にか日が傾いている。
けれども、ヒロは部屋の電気をつけることもしない。うす暗い部屋で髪を赤く染めた女の子がぼーっと座っている。おぞましい光景ではある。相変わらず、その女の子の胸に、荒涼とした風が吹き荒れている。
ある日、そういうヒロのところへ、めずらしく、ほんとうにめずらしく、だれかが訪ねてきた。
母が部屋に入ってきてそれを告げた。
母は、ヒロのそういう日々をとがめることはしなかった。
いちどだけ、
「ヒロ、あなたが自分で這い上がるしかないんだよ」
と言ったことはあったけれど。
部屋に入ってきた母は、
「お客さんだよ、ヒロ。きっとうれしいお客さん」
そう告げた。
「うざいから、いないって言って」
と答えるヒロに、
「とにかく、出てみてごらん」
母は言い、部屋を出て行ってしまう。
しぶしぶ、ヒロは玄関へ向かう。安物ワインの酔いで、足もとがすこしおぼつかない。
玄関に出てみると、人影はない。けれど玄関ドアは開いている。
「だれ?」
ぶすっとヒロは言う。
ぬっと人影があらわれた。
「よう、ヒロ」
女の子があらわれた。きのうはどうも、といった感じだ。ずいぶん会っていない顔なのに。
「あっ、花織……」
すこし遅れて、もう一人あらわれた。
「よう」
爽やかに手をあげる。こっちは男の子だ。
「あっ、洋司……」