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第4章 喪ったもの 還らぬもの(1)

 同じ高校に通い、ヒロとカモの仲はますます深まる。

 アルバイトも同じところを選んだ。

 開業したばかりの健康センターで、ヒロはフロント、カモは接客係で採用された。

 カモは惜しまれながらサッカーをやめていた。ヒロとの時間をもっとつくりたかったからかもしれない。

 夜、よくカモはヒロの家を訪れた。まさに夜這いである。その夜這いを導いてくれた人がいる。なんと、母である。母は、父の居間から見えない洋間の窓を開けてくれた。

「早く、早く入って」

 ひそひそ声で言う。カモは靴を片手に忍び足……。



 アルバイト先で、ヒロとカモといっしょだった女の子がいる。あけみだ。あけみは、それから二年後、まさか、あんなふうになってしまうなんてだれも想像できなかった結末に至るまで、二人のことをつぶさに見ていた子だ。

 あけみは、こう言う。

――ほんとうに、あの二人はうらやましかったよ。兄妹だってあんなふうに気を許しあえないと思う。もしかしたら、夫婦よりも、気持が通じてるんじゃないの、と思ったくらい。

 でもね、べたべたしないんだ。

 そこがまた、うらやましかった。ほら、やたら人前でべたべたするカップルっているでしょ。

 あれは、ぜったい自信がないんだ。お互いの関係に。自信がないもんだから、ああやってパフォーマンスするんだ、自分たちのためにね。

 ヒロとカモには、そんなの必要なかった。

 信頼し合っていたもんね。

 だからさ、あれはほんと、不運だったよね、マジョのことは。


 あけみがマジョと呼んだ女の子は、やはり同じアルバイトに入ってきた京子のことだ。

 京子は、変わった子だった。

 容姿が変わっているというのではない。すこし暗いところがありはしたが、気になるほどではない。

 だが、何かを背負っているという感じがする。

 おかしなジンクスがあった。付き合っていた男の子が、ことごとく不幸になる。そういうジンクスだ。

 自分で言いふらしたわけではないが、いつのまにかそれが伝わっていた。

――同性には、徹底的にきらわれるっていう子がいるよね。マジョがまさにそれだった。

 と、あけみは振り返る。

――どこがイヤっていうか、存在自体よね。あの子が、そこにいることが許せない。負のオーラが、びんびん。あたしを巻き込まないでよ、って言いたくなる。

 でも、そういう子って、男から見たら、気になってしかたないんだよね。何か背負ってる、ほっておけない。

 そこがさ、またイヤなんだ。やっかみじゃなくて、なんていうか空気がね。

「悪びれない」っていう言葉あるけれどそういうところがあるんだね、マジョには。無防備なんだ。すぐ自分の弱いところを見せちゃう。けれど、それは計算してるわけじゃないんだ。

 そういうことをすれば男の気を引く、とかの計算はまったくしているわけじゃない。

 そこが、また男を迷わせるんだよね。


 そして、あけみがマジョと呼ぶその子、京子はいつしかカモに接近していった。

 ヒロとカモが高校二年の夏休みだった。

――マジョが、カモに恋愛相談したんだよね、あるとき。

 あけみは言う。

――あたし、こういう彼と付き合っていて、彼の気持ちがわからなくて困ってる……たぶん、そういう話。

 ちょっとしなだれかかるみたいでさ。イヤなやつ。あたしはヒロに同情したわよ。あんなの気にすんなって言ってやった。

 でも、カモのばかがさ、ほんとに男って単純だよね。しなだれかかられて、よし、おれが守らなきゃ、なんて思っちゃったんだね。

 それから、ときどきカモとマジョが、なんだかわけありの話をしているところを見かけたよ。

 もちろん、ヒロも気づいていたわよ。びんびんにね。

 あれは、ヒロもカモもあたしも高校二年の夏休みだった。

 バイトの仲間たちみんなで飲みに行った。

 ポジションが最悪だったね。

 カモとマジョが隣同士の席。

 テーブルをはさんで、その向かいがヒロの席。

 で、ばかなカモは、マジョとずっと話をつづけるんだ。あたしはすこし離れたところに座っていたけれど、ちょっとハラハラした。

 カモのやつ、ヒロへの見せかけかな、とも思った。

 ヒロにやきもち焼かせてみよう、というあさはかなスタンドプレイかと。でも、そうじゃない。けっこう本気で、マジョにひかれているふうだった。「だって、あいつ、かわいそうなんだぜ」なんて言っていた。ばか。

 もちろん、ヒロはわかっていた。

 まったく会話に入れない状態だもの。はじめは、入ろうと努力していたみたいだけれど、そのうち、カモとマジョのほうは、ぜったい見なくなった。

 そして、飲み会がお開きになったんだけど、流れはいっそうヤバいことになったんだ。

 カモとマジョが二人ですっと消えちゃった。

 置いてきぼりのヒロは、どこか知らない村で、最終バスに乗りおくれたみたいな顔だったよ。

 コンチキショーという気分と、どうしていいか途方にくれるってやつよね。あたし、声もかけられなかった。

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