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第3章 光をかかえた少年(5)

 二人は中学三年生になった。

 高校進学である。

 サッカーでその才能を認められていたカモには、複数の高校から推薦入学の誘いがきていた。

 担任の教師は、そのひとつひとつの高校の特徴を説明し、中でも三校を選んで、

「加茂原、このどれも、おまえの力をじゅうぶん発揮できる高校だぞ」

 と言った。

 そのうちの二校をカモはあっさり拒否した。

「どうしてだ、なにが気に入らない?」

 教師が言うが、カモは、

「理由はとくにないけれど、どうしても行く気になりません」

 と答える。

「そうか、しかたない、おまえの人生なんだから」

 教師はしぶしぶ納得するが、

「でもな、ここの面接だけはぜったい受けろ。わるいことは言わない、先生の言うこともすこしは聞け」

 と、S高校の名をあげた。

 カモは押し切られた。そこまで言われちゃ仕方ない、と。

 そして、S高校の推薦の面接に行った。

 面接官は、サッカーのことをあれこれ質問した。どうでもいい質問ばかりだった。きみの学力はとても評価しているとも言った。それもまた、どうでもいいことだった。

「ぼくは」

 と、カモはまだ面接官がつぎの質問をしようとしているとき、それを遮って立ち上がった。

「ぼくは、この高校に入るつもりはありません」

 そう言って、ぺこりと頭を下げ、退場した。

 

 そのことを知った中学の担任教師は、目をつりあげて怒った。

「なんという勝手な、わがままなことをするのだ。おまえ、何様だと思っているんだ!」

 声を震わしていた。

 カモはしかし、最後まで理由を言わなかった。

 理由を言ったら、もっと怒るだろうということがわかっていたから、言うわけにはいかなかったのだ。

 ヒロと離れたくない。

 それが理由。

 結局、カモは、自分の学力からしたらやや格下ともいえる高校だったが、ヒロと同じところへ進学した。



 卒業式の前日。

 二人は、いつか塾を抜け出してカモの父に捕まったあの坂道を並んで歩いた。ヒロは、ことばで表わせないほどのしあわせをそのとき感じていた。二人の行く先に待っているものが、花の咲き競う園のようだ。そう感じた。

 いつかの、おそろしく寒い夜のことを思い出した。

 カモの手が凍りつくように冷たかった。

 ヒロは幼いころ、母がよくヒロの手を自分の胸の中に入れて温めてくれたのを思い出し、同じようにした。カモの手が熱いヒロの胸の中で溶けていくような気がした。

 あの夜と同じように、ヒロの胸に「Miss You」が聴こえていた。それが強く強く響いてきた。

 I miss you.

 わたしはあなたをうしなって悲しい。

――どうして?

 と、ヒロは思った。

――こんなにしあわせなのに……

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