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初めての町って、何かいいですよね。

オラ、わくわくしてきたゾ。


そんな感想を抱きながら、異世界の街を散策していると、目の前に「ようこそ!冒険者ギルドへ!」と大きく掲げられた看板が目に入った。思わず内心でほくそ笑む。異世界に来たからには、やはりこういったテンプレ的な展開が待っているのだろう。期待に胸を膨らませながら、ギルドの扉を開けて中に入る。


「どーもぉ。」


思わず元気よく挨拶しながらカウンターに近づくが、内心は緊張している。まさか、この中に荒くれ者たちがひしめいているのでは?という不安もあった。しかし、目の前に広がった光景は予想に反して、清潔感のある内装だった。壁には様々な武器や装飾が飾られ、受付カウンターでは若い女性が書類に目を通している。周囲には、真剣な面持ちで依頼内容を確認する冒険者たちの姿があった。酒を飲んで喧嘩しているような風景はどこにも見当たらず、意外な雰囲気に戸惑う。


「えっと、すいません。新規登録したいんですけど。」


少し緊張しながらも、俺は受付嬢に話しかけた。彼女は明るく微笑み、必要な手続きを説明してくれた。


「はい、新規登録ですね。こちらの紙に必要事項を記入してお待ちください。」


俺は言われた通り、名前や年齢、特技などを記入する。特技には「格闘全般」と書き、少し自信を持ってみた。彼女はその用紙を受け取り、背後にある水晶の玉に手をかざすように促した。


「この水晶に手を触れていただけますか?」


目の前に出された青く透き通った水晶は、触れるとひんやりとしていて気持ちが良かった。その瞬間、水晶はじわじわと温かさを増していく。何かが起こる予感に胸が高鳴る。


「はい、もう手を離して大丈夫ですよ。」


言われた通り手を離すと、水晶の中に小さな火の玉が現れ、その後に波打つ水が見えた。続いて小さな竜巻や転がる石、さらには黒いもやに光る玉など、様々な現象が映し出される。周囲の冒険者たちも驚きの表情を浮かべ、好奇心に満ちた視線を向けてくる。


「これは……すごいですね!まさか全部の魔法適正まで持ってるなんて!魔力の量はこの水晶ではわかりませんが、これ程の適正を持っているのは王都におられる賢者様たちくらいです!死んだ魚のような目をしてるのに、スゴいですね、トキワタリさん。」


彼女の言葉に驚きと興奮が入り混じる。褒められるのは嬉しいが、最後の一言は余計だと思った。


「えっと、とりあえずカード発行には金貨1枚必要ですので、お支払いをお願いします。」


おぅふ……まさかお金がいるのか。


転移したばかりで無一文。ふと思い出したのは、森でゴブリンを倒したときに手に入れた指輪だった。仕方ないのでポケットから取り出し、こう言った。


「すみません。田舎から来たもんで手持ち金が無いんですけど、この指輪を代わりに支払えますか?」


「わかりました。……指輪ですね。それでは査定してきますので、しばらくお待ちください。」


そう言われて、受付嬢は指輪を持ってカウンターの奥へ消えていく。数分後、彼女が戻ってくると、後ろには体格のいい初老の男が立っていた。


「ふむ、君がトキワタリ・ケンタ君だね?初めまして。ワシはここのギルドマスターをやっているアンドルフと言うものだ。」


アンドルフという名前が響く。どうやらこの人がギルドのトップなのだ。しっかりした声で話す彼は、イケオジと呼ぶに相応しい風格を持っていた。


「君が持ってきた指輪なんだが、どこで手に入れたのかな?うちの鑑定士が発狂していたよ。」


「発狂?」


彼の言葉に驚きつつも、指輪のことを尋ねる。アーティファクトという古代文明の遺物で、貴重なアイテムだと説明された。その効果は、魔法を一つストックできるもので、魔力を持たない人間でも魔法を使えるというのだ。


「へぇ……それは凄いですね。」


スゴいのか全然わからんが、話を聞くにつれて少し期待が膨らむ。


「かなり価値がある指輪だ。いったいどこで見つけたんだい?」


「えっと、村から出たときに森の奥でゴブリンの集落を見つけて、そこで……。」


うん、嘘は言ってない。


「うーん、少し信じがたい話なんだけれど、本当のことみたいだしな……森には遺跡があると聞いてはいるし、ゴブリンが拾ってきた可能性もあるな。まぁいいか、それよりあの指輪はギルドで換金ということでいいんだね?」


「あ、はい。」


「ギルドに加入のためということで、金貨1枚引いてもおつりが出るぞ。」


お、マジっすか。アーティファクト万歳!


そうして、俺はギルドの冒険者として登録することができ、指輪の換金で手に入れた金も手に入った。手元に残った金貨は14枚。金貨1枚で一家族が一年食べていけると聞いていたから、異世界初日で約14年分の食料を手に入れたことになる。


さて、これからどうしようか?とりあえず、この町で宿を探すか。


ギルド登録も終えたし、宿を探すついでに町の散策をしようと決めた俺は、ギルドを出て町を見回ることにした。


町を歩き回り、出店で美味しそうな串焼きを買って食べながら、気づけば路地裏に足を踏み入れていた。薄暗い場所に不安を感じつつも、背後に気配を感じて思わず振り返る。


「あのー、ギルドを出てから付きまとうのやめてくれませんか?」


振り返ると、そこにはゴロツキのような格好をした男が三人立っていた。彼らはニヤニヤしながら近づいてきた。今日冒険者として登録したての俺が大金を手に入れたことを知り、脅して奪おうと企んでいるのだろう。


「おい新人。大金持ってても使い道ないだろ?俺たちに寄越しな!」


おぉ、三下みたいな台詞だ。冷静に状況を見極める。さて、こいつらをどうするかな。


「おい、聞いてんのかクソガキ!」


ぼんやりしている俺にイラついたのか、ゴロツキの一人がいきなり殴りかかってきた。彼の顔には不敵な笑みが浮かび、拳が空気を切り裂く音が耳に響く。瞬間的に体が反応し、その動きを片手で受け止めた。拳が衝撃を与えた瞬間、俺はまるでその力を吸収するかのように、軽く身を屈めて彼の力を無効化する。


「おらっ!」


力強く掴んだ手を振り払って、懐に入り込む。周囲の音が一瞬静まり、俺の動きだけが際立つ。彼の動きを見極め、素早く腹パン一発を叩き込む。拳が柔らかな肉に当たる感触が伝わり、彼は声も出さずに崩れ落ちた。目が大きく見開かれ、呼吸が乱れるのが見えた。


「オゴッおえぇっ!!」


あ~あ、ゲボちゃったかぁ。こりゃ胃の中空っぽだな。


周囲の仲間たちは驚愕の表情を浮かべ、まるで動けない人形のように固まっている。特に、最初に攻撃を仕掛けてきた奴は、今もなお床に崩れ落ちている。苦しげに息を整えながら、俺の目を見上げているのが分かる。おそらく、今頃彼は痛みと恥辱に苛まれているだろう。


「て、てめぇ!」


「やりやがったな!」


残る二人のゴロツキ冒険者がナイフを取り出し、鋭い刃先を俺に向けて突き出してくる。彼らの動きは確かに遅く、恐れを抱きながらも意気込んでいるのが見える。しかし、ナイフを持った手が震えているのは、緊張から来るものだろう。


「来いよ、やってみろ。」


俺は挑発するように口元を引き上げ、冷静に構えを取る。二人は目が合った瞬間、同時に俺に向かって突進してきた。その動きは連携が取れているが、やはりスピードは遅い。俺は左にステップを踏んで、彼らの動きを避ける。


ナイフが空を切る音が聞こえ、その後に続く衝撃を感じたが、俺はその場から躱し、すぐに反撃に転じる。相手の脇腹に一撃を叩き込む。拳が肉を貫く感触と、彼の目が驚愕に染まる様子を見て、俺は心の中で小さく笑った。


その隙にもう一人が背後から襲いかかってきた。俺は後ろを振り返ることなく、右の肘を彼の顔面に叩きつける。勢いよく放たれた一撃は、彼の鼻を直撃し、鼻血を飛ばさせながら後退させた。


「やっべぇ、こいつ強ぇ!」


残る二人は、一瞬のうちに意気消沈し、かつての自信を失っていた。その恐怖は目に見えて、動きが鈍くなっているのがわかる。ほんの1分もかからず、襲いかかってきた二人もまた、俺の一撃でノックダウンだ。彼らが何を考えていたのか、全く想像がつかない。いや、弱すぎるでしょと思いつつ、このまま放置したら後々で恨まれてまた絡まれるよなと考え、三人の前でしゃがむ。


「あのさ、先輩方、俺この町に来るの初めてなんだよね。」


まだ踠いている三人に言う。特に最初に攻撃を仕掛けてきた奴は、今もなお床に崩れ落ちている。苦しげに息を整えながら、俺の目を見上げているのが分かる。


「だからさ、いい宿知ってるなら教えてくれません?」


「な、なに言ってんだお前……」


「教えてくれません?」


「ひっ!わ、わかったからそんなおっかねぇ笑みで顔近づけんな!」


おっかないとかひどいな、これは営業スマイルだぞ。心の中で突っ込みを入れつつ、俺はさらに彼らに近づく。目を細めて、真剣な表情を作ってみせる。


「じゃあ、宿屋まで案内してよ、先輩方。」


俺の言葉に、彼らは顔を見合わせる。先ほどの威勢はどこへやら、今はただその場から逃げ出したい様子だ。結局、彼らは頷きながら立ち上がり、俺の前を歩き出した。


三人の背中を見ながら、俺は心の中で少しだけ勝ち誇った気持ちを抱く。こうして俺の初めての町探索は終了したのだった。ゴロツキ冒険者の先輩三人組に宿へと案内させた俺は、到着するとお礼に一枚ずつ金貨を渡した。


驚いた三人組は何か言いたそうな目をしていたが、これ以上俺と関わりたくないのか、何も言わず帰っていった。彼らの後ろ姿を見送りながら、俺は少し微笑んだ。


「これで少しは楽になるかな。」


そんな風に考えつつ、宿の中に入った。宿の内部は温かみのある木製の家具が並び、落ち着いた雰囲気が漂っている。壁には町の名所や、冒険者たちの活躍を描いた絵画が飾られ、宿泊客たちが穏やかな時間を過ごしているのが見える。


「さて、どこにしようかな。」


部屋を選ぶ際に、少し迷いながらも窓からの景色を楽しむことにした。窓を開けると、心地よい風が吹き込んできて、町の賑わいが耳に届く。どこか新鮮で、これからの冒険に対する期待感が高まってくる。


宿の主人に部屋を決めてもらい、必要な荷物を置いてから、俺は宿の食堂へと向かった。空腹を感じていたため、美味しい食事を期待していた。


食堂では、他の冒険者たちが食事を楽しんでいた。話し声や笑い声が響き渡り、まるで一つの大きな家族のような雰囲気が漂っている。俺もその中に加わり、楽しい会話に花を咲かせた。


「ここ、いい宿だな。」


こうして俺は宿に泊めることができて転移した異世界初日は幕を閉じるのであった。

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