表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

二度目の人生は?

初めて人生を繰り返すことになったのは、俺が30歳で死んだときだ。名前は伽亙(トキワタリ) 健太(ケンタ)の記憶がそれを証明している。


死因は溺死。場所は自宅の風呂場だ。お風呂に浸かって、気持ちよくなってうたた寝をして、そのまま浴槽に沈んで溺れた。……おい、俺、ダサすぎるだろ。


確かにお風呂は温かくて気持ちが良い。眠くなるのも分かる。でも、寝て溺れて死ぬって、どこのおっさんだよ。ああ、30歳はもう立派なおっさんか。はあ……情けなくなってくる。


死んだ時のことを思い返すと、何の苦しみもなかった。ただ眠っていたら、そのまま死んでしまったという感じだ。本人が気づかないうちに逝っていたのは、ある意味で幸いだったのかもしれない。苦しんで死ぬよりはマシだろう。


俺が人生を繰り返していると気づいたのは、中学2年生の時だった。当時の俺は中二病真っ只中で、右腕の封印がどうとか、カルマが何色かとか、そんな痛いことを本気で言っていた。そのために、漫画やライトノベルを読みあさっていたが、なぜかすべての話が既に知っている内容だった。発売されていない続編すら結末を知っていた。


物心がついた頃から、デジャブを感じることはあったが、この時ようやく、その原因に気づいた。俺は何度も人生を繰り返しているんだ――そのことを認識した。


中二病をこじらせていた俺は、「俺の時代がキタ――――ッ!」と盛大に叫んだ。言っておこう、黒歴史だ。


どうせ人生を繰り返すなら、この身体を鍛えてみよう。そんな風に考えた俺は、人生を武術に捧げることに決めた。だが、それがどれほど厳しい道のりになるかは、この時の俺には分かっていなかった。


修行は想像以上に過酷だった。何度も心が折れそうになり、両親からは「帰ってこい」という誘惑の声もあった。それでも、俺は意地でも修行を続けた。数年、数十年と続けるうちに、俺の名前は武術の世界で知られるようになり、いつしか「達人」と呼ばれるようになっていた。


そしてある日、ふと気づいてしまった。俺は一度死んでから武術にすべてを捧げたが、それは本当に意味があったのか? 同じ人生を繰り返しているというのに、全く違う方向に進んでしまったことに気づいた時、馬鹿みたいに虚しさが押し寄せてきた。


初めて死んだ30歳を超え、武術家として名を馳せた俺だが、改めて考えると、無駄に人生を費やしてしまったのではないかという思いが強くなってきた。自分の力を信じ、技を磨くことに生きた人生だったが、それが本当に幸せだったのか……。


だが、2回目の人生で学んだことが、次の人生に大きく影響を与えたのも事実だ。武術家としての経験は無駄ではなかった。それを信じたい。


2回目の人生が終わったのは、90代後半。死因は老衰ではなく、山で瞑想中に土砂崩れに巻き込まれた事故だった。だが、鍛えすぎたせいか、俺は土砂に埋もれても一ヶ月以上生き続けてしまい、飲まず食わずで生き延びた挙句、最後には「次こそは楽な人生を」と呟いて死んだ。


そして、俺はまた母の腹から生まれた。ここで語っているのは、俺が繰り返した人生のほんの序盤だ。


人生を繰り返しながら、俺は記憶と能力を継承していることを確信した。それに気づいた時、俺は様々な人生を試してみることにした。ある人生では、記憶を活かしてエリートとして成功し、また別の人生では恋愛に生き、リア充として満喫した。


さらに別の人生では、武術家としての力と知識を合わせ持ち、ヒーローとして世界に貢献することもあった。時には逆の立場に立ち、悪として暗躍する人生もあった。やりたいこと、興味のあることはすべて試してみた。だが、次第にその興味は尽き、俺の目は腐った魚の目のようになっていった。


何もかもを体験し尽くした今、俺はただ生きることに飽きてしまっていた。しかし、人生はまだ続いていく――俺がそれを繰り返す限り。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ